【第79回ゴールデン・グローブ賞】ノミネート&受賞作品のなかから、海外ドラマ好きエディターが必見の3作品をピックアップ

現地時間2022年1月9日(日)に、受賞作品・受賞者が発表された、第79回ゴールデン・グローブ賞。濱口竜介監督、西島秀俊主演の『ドライブ・マイ・カー』が、非英語映画賞を受賞し話題に。一方、主催するHFPAの不正や性差別、人種差別を理由に、NBCが中継を拒否、ハリウッドスターたちもボイコットをし、授賞式のTV放映中止となる事態に。そんなすったもんだのなか、海外ドラマ好きエディターが、テレビドラマ部門のノミネート&受賞作品のなかから、おすすめ作品をピックアップしてご紹介。奇しくも、選んだ3作品はいずれも腐敗した組織を描いているという偶然。時代の節目となる今こそ観ておきたい、名作揃いです。

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photo: Aflo 『THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~』Prime Videoで見放題配信中
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『ザ・モーニングショー』 Apple TV+にて配信中
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© 2021 Home Box Office,Inc. All rights reserved. HBO ® and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.『メディア王~華麗なる一族~』U-NEXTにて見放題で独占配信中

紹介するのは、ゴールデン・グローブ賞に歴史部門があったらきっと作品賞間違いなし! 斬新な演出が目をひく、エル・ファニング主演のロシア宮廷ドラマ『THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~』、審査員になって作品賞を選べるなら迷わずプッシュしたい、ジェニファー・アニストンとリース・ウィザースプーン主演の『ザ・モーニングショー』、作品賞と男優賞をダブル受賞した実力派でHBOの看板ドラマとしての立ち位置を不動のものとした『メディア王~華麗なる一族~』の3作品。どれも日本ではまだシーズン1または2までの配信。未見の方でも、すぐ追いつけますよ!

歴史部門があったら作品賞間違いなし!ブラックユーモアあふれる、新・宮廷ドラマ/『THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~』

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photo: Aflo 『THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~』Prime Videoで見放題配信中

ドロッドロとした18世紀のロシア宮廷のいざこざを、現代劇として楽しめるのがこちらの作品です。例えるなら、1月9日から放送開始されたNHK大河ドラマ、三谷幸喜さん脚本の『鎌倉殿の13人』。台詞は現代語、随所にコメディ要素を交えるなど、“三谷大河”ならではの現代劇風な演出が多くのファンをつかんでいます(私ももれなくそのひとり)が、そんな感覚です。

サブタイトルにある“時々真実の物語”が表すように、史実をベースにしながら、当時のスキャンダルやロマンスが、ブラックユーモアたっぷりに描かれます。シリアスとコミカルの絶妙なミックスマッチが斬新で、舞台は近世ロシアなれどモダンでコンテンポラリーな印象を受ける不思議

歴史ものはちょっと……という人にも「とりあえず観て!」とプッシュしたい、百聞は一見にしかずの、一度観たらやみつきになる、このドラマ独特の粋な世界観がそこにあります。

公式サイトによると、公開以降、Huluオリジナル作品の中ではグーグル検索率No. 1、ウィキペディア検索率No. 1を記録し、IMDbやRotten Tomatoesの視聴者評価も高得点が相次いだというのだけど、それも納得。

それはやはり、2018年公開の『女王陛下のお気に入り』でアカデミー賞脚本賞にノミネートされた脚本家・トニー・マクナマラによるものが大きいかと。また、主人公エカチェリーナを演じたエル・ファニングが製作総指揮として参加し、フレッシュなアイデアを投じたことも起因してそう。

エル・ファニング扮するエカチェリーナとニコラス・ホルト演じるピョートルの2人の、風刺とユーモアたっぷりな掛け合いも面白く相性の良さを感じさせます。2人ともにゴールデングローブ賞にノミネートされていますね。

もうひとつの見所は、手の込んだ美術に衣装。壁紙や家具などは当時のもの。衣装もすべて布地から手作りしたオリジナルというから驚き。舞踏会のシーンなどは、まるでオートクチュールのショーを観ているよう。(豪華絢爛な衣装は公式インスタグラムで!)。

主人公は、ロシア黄金時代を築き、ロシア史上最長の女性統治者にまで上りつめることになる女帝エカチェリーナ。シーズン1は、ピョートル3世に嫁ぐシーンから始まります。

「偉大なロシアの役に立ちたい」というエカチェリーナに向かって、目も合わせず「世継ぎを生め」と言い放つピョートル。ほかにも、女性だからという理由で、現代からみると「え、さすがにちょっと無理かも」というあしらいを受けるシーンの目白推しで、まさに“無理ゲー”どころか、ゲームへの出場権すら与えられない状況が続きます。

そんななかで、エカチェリーナは一念発起し、ニコラス・ホルト演じるピョートルを失脚させ(つまり殺し)、自分が政権を掌握することでロシアの再起と発展を試みようとします。がしかし、そこに立ちはだかるのは、忠誠と裏切り、希望と絶望、優雅と腐敗……。

ロシアで女学院を創設し、文化、教育の振興などにも尽力したというエカチェリーナ。理不尽な状況下でも歩みをとめない姿は、女性をエンパワーする作品としての側面も。

エカチェリーナの、政権の座につくための無血クーデター直前で終わるシーズン1。アメリカなどでは、昨年の11月よりシーズン2の放送が開始されました。シーズン2では、『ザ・クラウン』でマーガレット・サッチャー(名演!!!)を演じ、第73回エミー賞の助演女優賞を受賞したジリアン・アンダーソンが、エカチェリーナの母親役として登場するそう。日本での配信が待ち遠しいです!

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Photo: Aflo 『THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~』Prime Videoで見放題配信中

★第79回ゴールデン・グローブ賞(2022年)★
〈コメディ/ミュージカルシリーズ部門〉
作品賞、男優賞(ニコラス・ホルト)、女優賞(エル・ファニング)
※すべてノミネート

STORY
プロイセンの貧乏貴族の娘だったエカチェリーナ。幸せと期待いっぱいでロシア皇帝ピョートルに嫁ぐが、まちうけていたのは、横暴なピョートルの独裁で秩序を失っていた堕落に満ちた保守的な世界だった宮廷内は。ロシアのために一念発起したエカチェリーナだが……。

私的作品賞はこれ! 多様性時代の今こそ観ておきたい/『ザ・モーニングショー』

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『ザ・モーニングショー』 Apple TV+にて配信中

シーズン1でその面白さに魅了され、2020年の私的ベストだった『ザ・モーニングショー』。現在はシーズン2が完結し、シーズン3の配信も決定とのこと。

ゴールデン・グローブ賞はノミネートどまりでしたが、女優賞候補にあがった、ジェニファー・アニストンがシーズン2でも絶好調の演技で魅せます。

大手放送局UBAの朝の情報番組「ザ・モーニングショー」の電波を乗っ取り、旧態依然とした局に一石を投じた2人のキャスター、ブラッドリー(リース・ウィザースプーン)と、アレックス(ジェニファー・アニストン)のその後を描くシーズン2。物語は、事件から8カ月後の2020年大晦日の直前からはじまります。現在と近い時間軸で話が進みますので、まるでパラレルワールドの中の出来事のようでリアル。

米大統領選にパンデミック、MeeToo、フェミニズム、キャンセルカルチャー、人種問題、LGBTQ、家族問題、パワハラ、ミソジニー……。現代社会が抱える複雑な問題(そして裏側)を物語とうまく絡め、躊躇なく踏み込み映像化するあたりに、制作陣の意気込みを感じます。なのにとっちらかることなく、各話ごとにうまくまとめ且つ続きが観たくなる結末に着地させるのは本当にすごい。

このドラマの私的推しポイントは、ウィットに富んだ会話劇。話すことを生業にしているプロフェッショナル同士の言葉のやり取りがとにかく面白い。今回も名台詞がザクザクで、「あ、これは覚えておきたい」と、タイムキーパーのように、メモする手がとまりませんでした。

どのシーンか記憶が曖昧なのですが、おそらくコリー(テレビ局のトップ)が言い放った、「言い訳は子供のすること。大人なら状況を変える」には、「す、すみません」と思わず声に出して返事をしてしまいました(笑)。

各ストーリーの最後には、おまけとして出演者、制作陣への舞台裏インタビュー映像があります。 これが実に興味深いので必見。創る、または、演じる上での心意気などを語ってくれるのですが、それを知ることで新たな発見が。おかげでより多面的かつ深いところで作品を理解でき面白さも倍増。

制作総指揮/監督のミミ・レダーが語っていたように、シーズン2に投下したのは、「誰にでも贖罪の機会は与えられるのか」というテーマ。「罪を犯してしまった人間に再生の機会はないのか」そして、「その問いに答えるのは視聴者だ」とも。

このドラマの主要キャストは、大なり小なり過ちを犯しています。でもそれは誰かのために行ったことが他の誰かを傷付てしまったり、よかれと思ってやったことが避難を浴びてしまったり、自分の保身ために誰かを犠牲にせざるを得なかったりと、悪意があったわけではないものも。どれも、私達にも起こりうるシチュエーションです

また、ほんの数年前までの当たり前が、今はタブーとなる時代。スピーディに進む価値観の変化のなかで生きる大人たちの迷いや苦悩も描かれます。

どの登場人物にも肩入れしてしまい、「え、私だったらどうしよう……」と、当事者気分にさせられ、全集中で観て考えさせられる吸引力がこのドラマにはあります。多様性時代の今こそ、観ておきたい作品だと強くプッシュします。

『ザ・モーニングショー』 Apple TV+にて配信中

★第79回ゴールデン・グローブ賞(2022年)★
〈ドラマシリーズ部門〉
作品賞、女優賞(ジェニファー・アニストン)
〈全TVカテゴリー〉
助演男優賞(マーク・デュプラス、ビリー・クラダップ)
※すべてノミネート


STORY
シーズン1でアレックス(ジェニファー・アニストン)とブラッドリー(リース・ウィザースプーン)が起こした衝撃的な事件後、ブラッドリーは「ザ・モーニングショー」のメインキャスターとして活躍するが視聴率がふるわない。一方、アレックスは表舞台から姿を消し……。


作品賞と男優賞のダブル受賞も納得! 巨大メディア企業創業家の骨肉の争いを描く、HBOの看板ドラマ/『メディア王~華麗なる一族~』

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ゴールデン・グローブ賞テレビドラマ部門において、作品賞、男優賞、助演女優賞の最多3部門受賞。今や、HBOの看板ドラマのひとつとして、目が離せない作品となりました。なお、受賞したのはシーズン3ですが、日本ではまだ未配信なので、ここではシーズン2を中心に紹介します。

作品を(やや乱暴に)一言でいうと、巨大メディア企業の後継者を争うお家騒動。世界的メディア企業を経営するローガン・ロイと、その4人の子供たちの天下取り合戦です。ただ、そこに壮大なロマンや、企業家としての大義、ゴッドファーザーのような心震わす家族愛などはほぼ皆無で、ただひたすら「権力」を欲するパワーゲームが繰り広げられます。

それなのに、面白い!と感じるのは、展開の意外性かなと。登場人物が良心を持っていることをどこかで期待しながら観ているから、気持ちいいくらい自己中心的な行動をとる姿に「そうくる!?」の連続で、それがクセになります(笑)。人物描写も巧み。常に誰かが何かをやらかしそうでハラハラします。

シーズン2は、男優賞を受賞したジェレミー・ストロング演じるケンダルの演技が見所。前半と後半でのキャラ変が激しく、観ているこちらが情緒不安定になりそうです。頑固で暴君な父親にこてんぱんにされ、ドラッグに救いを求めるのも「しょうがないよね」と同情してしまう前半。それが後半になると……。トロフィー獲得も納得の名演技をぜひその目で確かめてください。

父親ローガン・ロイ役のブライアン・コックスも男優賞にノミネート。権力志向でしぶとくて古くさくて、今風にいうと“老害”という表現がぴったりの悪玉を見事に(?)に演じています。ちなみに、ローガン・ロイは、実在のメディア王、ルパート・マードック氏がモデルだそうです。そうそう。助演男優賞にノミネートされた、キーラン・カルキンは、マコーレー・カルキンの弟ですね。

個人的には、ロイ家のみなさんが、なぜそこまでして面倒くさいストレスフルな後継者争い身をのりだすのかが、いまいちピンときません。やみくもにCEOの地位にしがみつこうとするその姿がときに滑稽で、権力志向で保守的といわれる「地の時代」の置き土産のようなドラマだなとも思いました。「風の時代」的には、だったら自分の会社を起業すればいいのに(お金もありそうだし)でしょうか(笑)。

なお、すでにシーズン4の製作が発表済み。冒頭でもふれたように、2月4日より、ゴールデン・グローブ賞を受賞した待望のシーズン3が、U-NEXTにて見放題で独占配信予定。個人的には、シーズン2で4人の子供それぞれの布陣が整った感。CEOの座を巡って「合戦のはじまりじゃ!」となりそうな、シーズン3が楽しみでなりません。骨肉の争いの行く末を、ドキドキしながら見守りたいと思います。

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★第79回ゴールデン・グローブ賞(2022年)★

〈ドラマシリーズ部門〉
作品賞、男優賞(ジェレミー・ストロング)受賞、男優賞(ブライアン・コックス)ノミネート
〈全TVカテゴリー〉
助演女優賞(サラ・スヌーク)受賞、助演男優賞(キーラン・カルキン)ノミネート


STORY
世界的巨大メディア企業ウェイスター・ロイコの創設者の息子、ケンダルが経営陣に戻り、自ら買収したヴォルター社を父の命令で閉鎖する。一方ローガンは娘のシヴに、後継者の座を譲ることをほのめかし……。

【海外ドラマ ナビゲーター】
エディターR

一日の終わりを、ワインとショコラとドラマで締めくくるのが愉悦のとき。“SATC”よりゴシップガール派。映像美と緻密な脚本ものが好物。最近は動画配信サービスのオリジナル作品のチェックに余念がない。作品でいうと、Netflix『ザ・クラウン』、Apple TV+ 『ザ・モーニングショー』などがお気に入り。ドラマに出てきた名台詞をコツコツとしたためていて、いつかどこかでアウトプットするのがささやかな目標。

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