恐ろしく、美しく、生々しい——女性によるホラー最新作『RAW』

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2017年、個人的に一番インパクトが大きかった映画が『RAW〜少女のめざめ〜』。どうしても話が聞きたくて、12月号の「女性監督特集」では本作で長編デビューしたジュリア・ドゥクルノー監督に取材しました。海外で失神者続出のカニバリズム・ホラー、という評判はもう伝わっているでしょうか。

とてもスタイリッシュな作品とはいえ、ホラーとしての怖さ、「うっ!」と唸ってしまうようなショッキングなシーンもふんだんにあるので、気軽にはお勧めできません。ただ、『RAW』は16歳の女の子が通過する変身=トランスフォーメーションを「食人」への目覚めに重ねていて、その発想がとにかく素晴らしいのです。

10代の頃、肌の不調に悩んだり、食欲が抑えられなかったり、性体験を人と比べたり――というのは女性なら覚えがあるはず。心と体が変わりはじめるときの焦りや違和感が、この映画では次々小さなエピソードとして語られます。それが積み重なり、生理的な欲求が抑えられなくなると同時に、主人公は「自分のなかにあるもの」に気づいていく。日常的な感覚との繋がりがあるからこそ、物語はまさに「ロウ」に――生々しく、ヒリヒリと見る人の感覚に入り込んできます。

美しいけれど毒々しい映像も、笑えるほどドラマチックな音楽も、もちろん主人公を演じたギャランス・マリリエのたたずまいも、ホラーというよりは青春映画やアートムービーの趣。だからといって油断していたら、びっくりさせられます。女性が作る「フィーメル・ホラー」の最新トレンドを、ぜひ体感してください。



『RAW〜少女のめざめ〜』
監督/ジュリア・デュクルノー
出演/ギャランス・マリリエ、エラ・ルンプフ
2月2日、TOHOシネマ六本木ヒルズほか全国ロードショー

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映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。