きっと、「あの夏」を思い出す。『悲しみに、こんにちは』

©2015, SUMMER 1993
©2015, SUMMER 1993


本作はカルラ・シモン監督が少女時代の体験をもとに撮った映画です。でも、見ている私も子どもの頃の夏休みを思い出しました。毎夏ひとりで祖父母に預けられることが多かったので、いつもとは全然違う田舎の家で遊びながら、楽しいようなさびしいような、長い長い夏を過ごしたこと。この映画のように大きな出来事はなかったけれど、あの時の感覚がそのままよみがえってくる気がしました。

6歳のフリダは母を亡くし、バルセロナの街中から引っ越してカタルーニャの田舎に住む叔父に引き取られます。3歳のいとこのアナが妹となり、叔父叔母は新しい父母になる。でも、そんな理屈はフリダの混乱した気持ちの助けにはなりません。子どもが主人公の映画はたくさんあっても、この作品のように「大人の世界」で決められることが子どもにはよく理解できない、でも理解できないからこそ感情の中心に居座っていて、行動に出てしまう――そのことがていねいに描かれた映画はあまりないかも。

母が死んだ理由も、自分がアナに意地悪してしまう理由も、フリダにはわからない。悲しみはあっても、毎日の生活には珍しくて楽しい瞬間もある。そんな少女の内面が小さなエピソードとして積み重ねられます。見ている方も、フリダと同じように「わからない」場所に立たされながら、想像力を働かせると、だんだん記憶を読み解くような気持ちになる。その距離感が最後の場面では一気になくなって、自分とフリダがぴったり重なるような構成になっています。そして、フリダとアナを演じる二人の少女の素晴らしいこと!

私自身、映画や本で他の人のストーリーを見たり読んだりしているうちに、何十年も前に体験したことが「こういうことだったんだ」と気づく瞬間があります。と同時に、それが自分の中でずっとひっかかっていたことも。どんなに昔の出来事でも、それは大人の私の一部になっている。それはきっと、カルラ・シモン監督も製作中に思ったことではないでしょうか。『悲しみに、こんにちは』は「あの夏」に置いてきた小さな宝物を、また見つけだすような映画です。


『悲しみに、こんにちは』
監督/カルラ・シモン
出演/ライラ・アルティガス、パウラ・ロブレス
7月21日、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。