2017.07.31

社会に疑問を投げかけるティーンエイジャー、デクラン・マッケンナ

interview & text:Hiroko Shintani photography:Akihito Igarashi〈TRON〉

地元英国では、“ジェネレーションZの代弁者”と呼ばれて大きな注目を浴びているのが、こちらの青年。現在18歳の新人シンガー・ソングライター、デクラン・マッケンナだ。その魅力は何よりも、メロディックなギターロックに乗せて彼が届ける歌詞の世界にある。日々の自分の体験だけでなく、政治や社会にまつわるさまざまな題材を取り上げて、疑問を投げかけるデクランの言葉には、ティーンエイジャーらしい無邪気さと思慮深さが入り混じっていて、好感度は満点。デビュー作『What Do You Think About The Car?』のリリースを前に初来日した彼が、そんな歌詞にも通じる語り口で、アルバム完成までの歩みを振り返ってくれた。

Profile
1998年、英国ハートフォードシャー生まれ。15歳の時に発表した、FIFAの汚職事件を題材にした曲『Brazil』で脚光を浴びて、2015年にグラストンベリー・フェスティバルが主宰する新人コンテストで優勝。大手レーベルとの契約を機に高校を中退して、本格的に音楽活動を始めた。今年のサマーソニックにも出演が決定している。http://www.sonymusic.co.jp/artist/declanmckenna/

音楽は、ほかの何よりも僕をハッピーにしてくれる

――8歳の時にギターを弾き始めて以来、ずっとミュージシャンを志してきたということですが、「自分がやるべきことは音楽しかない」と確信していたんですか?

「そうだね。僕はいつも、“自分はそれを楽しんでいるのか?”と“それは自分をすごくハッピーにしてくれているのか?”を基準にいろんな物事を判断しているんだ。それに照らし合わせると、間違いなく答えは“イエス”だね。音楽は、ほかの何よりも僕をハッピーにしてくれる。それを仕事にできているんだから、これ以上は望めないよ!」

――初アルバムには、14~15歳の頃に書いた曲も収められているそうですが、成長期の記録だと思って良さそうですね。

「うん。過去数年間の僕の成長と変化の過程を辿っていて、たくさんの疑問を投げかけていて、同時に今後の僕を予感させるような作品にもなったと思いたい。大多数の曲は、最終的にアルバムに収めるとか、先のことをまったく考えずに、その時々に気になったことを書いて歌ったものなんだ。そういう意味では限りなく自然体だし、すごく素直に自分を表現した曲ばかりだよ。で、あとで振り返ったとき、“受け入れてもらうこと”をテーマにした曲が多いことに気付いた。常日頃から僕は、寛容であることを重視しているんだ。自分自身もありのままに受け入れて欲しいし、他人のこともありのままを受け入れるべきだと思っていて、それが曲に表れたのかもね」

若者は政治に無関心だと言われがちだけど、そんなことはないんだ

――あなたは政治や社会問題を題材として取り上げていますよね。そういったことに深い関心を抱いたきっかけは?

「主に学校での体験に根差しているんじゃないかな。友達との会話だったり、授業で勉強したことだったり。政党ごとのイデオロギーや政治の仕組み、投票制度、それが国によってどう違うのか……そういったことを詳しく学ぶようになって、すごく面白かったし、いつも友達と議論し合っていた。若者は政治に無関心だと言われがちだけど、そんなことはないんだ。何か問題があるとしたら、それは、政治に希望を抱かせてくれない政治家たちのほうにある。自分の生活には関係ないと思ってしまうんだよね。でも実際は大きな影響を与えるわけだし、僕にとって最良の結果を引き出すには、できるだけ多くの人に幸せをもたらすには、どう行動したらいいのか知りたい。そういう好奇心が僕を駆り立てているんだよ」

――それが自然に歌詞にも反映されるようになったわけですね。

「うん。僕はずっと自分にとって身近なことを曲にしていたから、政治や社会について学んで、理解を深めるにつれて、いつの間にかごく当たり前のこととして、歌詞に綴るようになっていたんだ。人間関係だとか、日々パーソナルに体験することと同じようにね」

デヴィッド・ボウイの影響は大きいと思う

――ちなみに、アーティストとしてデヴィッド・ボウイを理想に掲げているそうですが、どこに惹かれますか?

「常に変化し続けたことも素晴らしいし、ほかのアーティストたちと比較した時、何ごとにおいても一歩先まで踏み込んでいた気がする。そこまでやらなくてもいいっていうところまで。だからこそ唯一無二なんだ。そして人々は、SFじみた彼のフィクショナルなストーリーなんかを、半ばリアリティとして受け止めていたところさえあった。亡くなったときの衝撃が大きかったのも、みんなボウイが不死身の存在だと思い込んでいたからだと思う。文字通りに、火星からやって来たロックスターだった。そういう風に、自分の周りに独立した世界を作り上げちゃった人って、ほかにはいないよね」

――今日はごくカジュアルな服装だけど、ステージに立つときはメイクアップをしたり、派手にドレスアップしていますよね。それもボウイの影響?

「ほかにもインスピレーション源はあるけど、彼の影響は大きいね。今考えてもぶっ飛んだ格好を40年前にやっていたわけだし、ボウイのおかげで当時の若者は、自由に自己表現することの楽しさに目覚めた。そういう解放者という面でもボウイをお手本にしていて、ライヴの回数を重ねるごとに、日々の自分の気分をファッションやメイクアップで表現することが、どんどん重要になってきたよ」

――クローズアップの顔写真を使ったアルバムジャケットも、インパクトがあります。

「デビュー・アルバムだから、まずは余計なことをせずに、顔を見せるのがスジじゃないかと思ったんだ。誰が作った音楽なのかみんなに知ってもらいたいし、“こういう面構えの男がこれらの曲を書いたんだ!”と宣言しているのさ。それに、“汗だくの若い男の写真なんかキモい”って思われるかもしれないけど、何しろまだ新人だから、話題にならないよりは、少々物議を醸すくらいのほうがいいんじゃないかな(笑)」

 

 

INFORMATION

『What Do You Think About The Car?』
Declan McKenna

SONY MUSIC

発売になったばかりのデビュー・アルバムは、ジェイムス・フォードやロスタム・バトマングリといった、英米の人気プロデューサーとレコーディング。サイケデリア、シューゲイザー、フォークなどなど、その時々にハマっていたサウンドを素直に反映させて、友達との関係から宗教やジェンダーに至るまで、幅広いテーマを論じている。
01.Humongous
02.Brazil
03.The Kids Don't Wanna Come Home
04.Mind
05.Make Me Your Queen
06.Isombard
07.I Am Everyone Else
08.Bethlehem
09.Why Do You Feel So Down
10.Paracetamol (New Edit)
11.Listen to Your Friends

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