2021.09.08

学び続けることは、文化を照らし続けること【UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音】

UMMMI./うみ
1993年東京都生まれの映像作家。これまでに、愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ファッションブランドとの仕事の傍ら、MVや映画なども制作。

vol.7 学び続けることは、文化を照らし続けること

GUEST
空 音央
そら ねお●ニューヨークと東京を行き来し、映画監督、翻訳家として活動中。2020年に『Filmmaker Magazine』で、25 New Faces of Independent Filmの一人として選出される。
『Tahoe』
Dedekind Cut
Lee Bannon名義でも活動し、ヒップホップのトラックメーカーとしても名を知られるDedekind Cutが2018年にリリースしたアルバム。アンビエントな音響が、脳内へしみ込んでいくような作品。

UMMMI.(以下U) ニューヨークをベースに活動している音央くんは、映画制作のために、去年日本へ引っ越してきたんですよね。
音央(以下N) 長編を製作する前に、パイロット版で『アメガラス』という短編を撮りました。利益のことしか考えない都市開発を企む不動産会社に対し、二人の高校生がハウスレスの男性と連携していたずらで対抗するという内容です。
U 政治的なメッセージを込めながらも、エンターテインメント性を感じる作品で、素晴らしかったです。でも、公開ができなくなってしまったんですよね。
N 映画の楽曲を小山田圭吾さんが担当していました。彼の過去は知らずに依頼しましたが、オリンピック開会式を機に炎上し、公開の翌々日から非公開に。映画に社会的な内容も絡めたので、皮肉な出来事でしたね。怒りと悲しみでどうにかなってしまいそうなときに、聴いていたのが今日紹介するDedekind Cutの『Tahoe』でした。黒人アーティストということもあり、ヒップホップの文脈で語られがちですが、アンビエントのアーティストです。何かが起きたとき、すぐに言葉を発さなくてはならない世の中で、毎秒あふれるように更新される、嘘か本当かもわからないニュースや、ネットの情報から少し距離を置きたかった。自分のポジションを明確にしたかったんです。そんなときに、彼が響かせる静謐な音世界を旅することで、心に余裕を持たせることができたんです。
U 作品に関わった人の過去の言動が原因で非公開になりましたが、このようなキャンセルカルチャーに関してはどう思いますか?
N キャンセルすることでしか正義を得られない状況もある中、企業が問題に向き合おうとしないまま保身のために使うケースも増えているように感じます。どちらにせよ、キャンセルをしたからすべてを白紙にしてしまうのではなく、どんな問題があったのかを明確にし、向き合うことが必要ですよね。議論を生まずに、思考を止めてしまったら、前に進んでいくことができないから。
U 失敗しない人は誰ひとりいないことを前提のうえで、どうしたら同じことを繰り返さないかを考えながら、社会全体で学び続けていくことが大事ですよね。

Monthly Pick-up

『Refuge』
Devendra Banhart & Noah Georgeson
¥2,530/Big Nothing
東洋の思想に関心を抱く米国人のベテラン・ミュージシャンふたりが、まさにマインドフルネスを音で表したかのような、アンビエント・アルバムを制作。ハープやスチールギターの音でノスタルジアをかき立てて、シンセサイザーのドローンで非日常に誘い、聴き手の心の中に、無になれる空間を広げていく。
『Change』
ANIKA
¥2,640/Big Nothing
ここに11年ぶりのソロ・アルバムを発表するのは、政治ジャーナリストからシンガー兼DJに転身した、英国系ドイツ人女性だ。彼女が鳴らすエレクトロ・ポップの感触はクールで、歌声もふんわり軽やかだけど、言葉はとことん熱い。今の世界に抱く危機感や憤りを吐露していて、そのコントラストが鮮烈。

SOURCE:SPUR 2021年10月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: Fumika Ogura(interview), Hiroko Shintani(review) edit: Ayana Takeuchi