2022.05.08

声を上げ続けることは、 変化をつくる道筋になる【UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音】

UMMMI.

うみ●映像作家。これまでに愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ・ヴィトンやナイキなどとの仕事の傍ら、ミュージックビデオの制作も行う。

マヒトゥ・ザ・ピーポー

まひとぅ・ざ・ぴーぽー●2009年にバンド・GEZANを結成。作詞作曲とボーカルとして活動。また国内外の多彩な才能を送り出すレーベル・十三月も主宰。

vol.15 声を上げ続けることは、変化をつくる道筋になる

『今の時代がいちばんいいよ』 前野健太

現代の吟遊詩人・前野健太が2015年にリリースした初の全曲弾き語りアルバム。楽曲を通して、100年後の人たちは現代に思いを馳せることがあるのかを問いかける。

UMMMI.(以下U) 東京におらず足を運べませんでしたが、マヒトさんが主催した3月5日の新宿で行われたデモ「No War 0305 presented by 全感覚祭」は、配信で参加しました。さまざまな境界線を越えて、多くの人が声を上げられる場所をつくったのが素晴らしいなと思います。

マヒトゥ・ザ・ピーポー(以下M) 今回の戦争は日本人の暮らしと直接つながる問題で、全員が当事者だと思います。もちろん、人の数だけ考え方や言い分がありますが、それがどんなものであれ戦争は絶対に起きてはいけないこと。だからデモでは社会運動的な目線で語るのではなく、一市民の言葉を大切に、話す機会が生まれることに意識を向けました。まずは入り口を広げて、デモの参加に慣れている人もそうでない人も、その場に居合わせることが大事かなと。なので、この問題について共感できるアーティストを集め、デザインされた会場で、バンドがライブを行なったり、アクティビストがスピーチをしたりする場所にしました。さまざまな目的を持つ人が集まって、戦争についての会話が生まれたらいいなって。

 これまでのデモとは少し違った政治参加になったのかなと思いました。あまりデモに参加したことがない層も多く集まっていたように感じます。

 デモを終えて、達成感があるわけでもないし、なにかが大きく変わったわけではない。こうした活動を続けていくことは、体力のいることではありますが、そういった気持ちと共存しながらも、継続しなければならないと実感しました。

 声を上げていくことは疲れるけれど、やり続けることが重要だと自分に言い聞かせています。

 そのとおり。今回のデモについて思いを巡らせたときに、日本で、ジョン・レノンのようなプロテストフォークを歌うミュージシャンは誰だろう?と、ふと考えたんです。そこで頭に浮かんだのが、前野健太さんでした。特に『今の時代がいちばんいいよ』は、タイトルを見たときに、この時代にあえてこの言葉を投げる彼のフォークシンガーとしてのブレない姿勢がいいなと思いました。改めて聴き直した一枚です。

 変化は目に見えないものなので、作品を発表していくことやデモによって、どれほど多くの人を変えられるのかはわからない。だけど、確実に誰かの心には響いていると思って、これからも次なる一歩を考えていきたいです。

MONTHLY SELECTION

『Wet Leg』
Wet Leg
¥2,420/Beat Records
今年の英国音楽界きっての有望新人と目されているのが、ワイト島出身のこちらのガールズ・デュオ。エフォートレスな斬新さを誇るガレージ・ポップを聴けば、それも納得がいく。旺盛なクリエイティビティとひねくれたユーモアで、生きにくい世の中をナビゲートするふたりの冒険に、つき合って損なし。
『I Can’t Let Go』
Suki Waterhouse
¥2,640/Big Nothing
数年前から音楽活動をしていた英国人モデル兼俳優が、いよいよデビュー作を送り出す。彼女が選んだのは、ムーディな歌声とも相性がいい、カントリー風味のアメリカンなサウンド。その枯れた響きに乗せて、心の中に積もっていた苦い感情や記憶を掘り起こす。遠い目をした、やさしくも切ない一枚だ。

SOURCE:SPUR 2022年6月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
photography (portrait of UMMMI.): Mayumi Hosokura  text: Hiroko Shintani (review), Fumika Ogura (interview) edit: Ayana Takeuchi

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