セレブの輝きを伝える肖像芸術 #31 #ルーヴル美術館展

今やロイヤルファミリーやセレブの写真はネットで世界中に拡散され、スピーディに消費されてゆきます。身分のある人にとっては、生きづらい世の中かもしれません。古き良き文化、肖像画が描かれていた古代から19世紀までの時代は、今よりも天上人との格差が開いていたのだと推察されます。国立新美術館での展示「ルーヴル美術館展 肖像芸術  ―人は人をどう表現してきたか」は、歴史に名を残した人々の肖像に畏怖の念を抱かされます。ちなみにオフィシャルサポーターは高橋一生氏。実際にルーヴルに行かれたそうで、音声ガイドでは貴族が降りてきたかのような威厳ある語り口調で解説してくださいます。

第1章は「記憶のための肖像」。亡くなった人のメモリアルとして作られた彫像や絵画が紹介されています。例えば、エジプトの神官ファミリーの像「第4アメン神官カミメン、妻メリトレと息子」(紀元前1400年代)。お互いの体に腕を回して仲の良さそうな夫婦と、真ん中にお子さんがいてほほえましいです。「ソシッポスから英雄テセウスに捧げられた奉納浮き彫り」は大理石でできた紀元前400年頃のレリーフはシュールでした。

ミノタウロスを倒した英雄テセウス(股間丸出し)に、一般男性ソシッポスが挨拶し、息子を紹介するという。わざわざこのシーンをレリーフにする意味は……。ソシッポスが、自分は英雄と知り合いだったという自慢を後世に伝えたかったのかもしれません。

一方「アッティカの墓碑: 握手をする二人の男性、『デクシオシス』の場面」は、ヒゲの男性二人が握手しているレリーフですが、握手は親しい者との別れを意味しているそうで、ちょっと泣けるシーンです。

「墓碑肖像」家族全員、顔が似ていて血縁の強さを感じさせます。

「墓碑肖像」シリーズも圧巻でした。顔がそっくりの家族全員の顔が彫られた2~3世紀の作品。幸せな家族たちが生きていた証です。お墓関係では、1510-30年頃の「ブルボン公爵夫人、次いでブローニュおよびオーヴェルニュ伯爵夫人ジャンヌ・ド・ブルボン=ヴァンドーム(1465-1511)」と題された彫刻はインパクト大でした。生前は優雅で美しかったと思われる貴族の女性が、肉はそげ落ちた骸骨っぽい顔で、お腹からウジが這い出し、腸まではみ出ているというグロさ。「罪を犯した肉体を罰することで救いを得る」という意味があったとされています。後世の人々を気持ち悪くさせて、さらなる罪を加算しているような気も……。でも、お墓関連の芸術、それだけで展覧会ができてしまいそうな充実ぶりと深みがありました。

第2章は「権力者の顔」がテーマ。『王の頭部』、通称『ハンムラビ王の頭部』(紀元前1840年頃)はヒゲに王者の貫禄が。ヒゲ系では「胴鎧をまとったカラカラ帝の胸像」「ハドリアヌス帝の理想的肖像」なども、波打つヒゲが男性ホルモンを感じさせます。頭髪をライオンっぽくして威厳を持たせる場合もあります。

アレクサンドロス大王の性格を美化する形で作られた像。赤い壁が権力者ゾーンにぴったりです。

『アレクサンドロス大王(在位 前336-前323)の肖像』、通称『アザラのヘルメス柱』は、もとはブロンズの全裸像だったのを、後世に頭部だけ大理石で複製したもの。バビロンからペルシャやインドまで征服した大王ですが、表情は冷静で不敵な笑みを浮かべています。ライオンを思わせる、かつての佐野元春氏のようなヘアスタイルに、いさましさが表現されています。「神官としてのアウグストゥス帝の胸像」は紀元前1世紀末~紀元一世紀初頭頃の彫刻ですが、そんな時代を感じさせない、布をかぶった皇帝に、フードをかぶったHIP HOPスターのような威圧感が漂っています。

ナポレオン1世の、若い時のイケメン風の肖像画から、皇帝としての大理石像、そしてやり切った感漂うデスマスクまで走馬灯のような展示も感慨深いです。気になったのは、ディエゴ・べラスケスによる「スペイン王妃マリアナ・デ・アウストリア(1644-1696)の肖像」です。「王妃は、貴族階級の肖像の伝統的なモティーフである大きなハンカチを手にしています」と説明プレートにありましたが、それより気になったのが、半円形の横に広がったヘアスタイル。でもそれには一言も触れられていませんでした……。当時としては珍しくない風俗だったのでしょうか。

「詩人の彫像」など、知識人の肖像も。詩人さん、ヒゲが立派ですが多少お腹が……。

『国王の嗅ぎタバコ入れ』のための「フランス国王ルイ18世のミニチュアール・コレクション」。小さい肖像は、現代でいうトレカのようなもの? 王侯貴族や著目人の顔が並びます。
 

第3章「コードとモード」では、ルネサンス以降のヨーロッパで、もっと一般に広がった肖像を集めています(とは言っても貴族系が多いですが……)。今回の展示のポスターになっている、ヴェロネーゼの『女性の肖像』、通称『美しきナーニ』はルネサンスの肖像の最高傑作の一つとして名高い作品。ほのかに紅潮し、幸せそうな女性。既婚者しか身につけられない、四角く開いた胸元のドレスを着用し、胸に手を当てて伴侶への忠誠さを示すポーズをしていて、夫婦仲も良さそうです。ポスターよりも実際に見た方がきれいで、幸せヴァイブスが伝わってくる作品。開運しそうな絵画ですが、女性が目をそらしているので、どこから見ても目が合わず、神秘的です。

「美しきナーニ」の傍らで、プレス向けの内覧会日にルーヴル美術館の学芸員さんが解説してくださいました。「暗い背景が白い肌を引き立たせる」そうです。


肖像は、見る側の気持ちや精神状態も投影されるようです。そしてどの肖像に感情移入できるかにも、自分の状態が表れます。油断していると、ジョゼフ・デュクルーの「嘲笑の表情をした自画像」とか、顔をしかめたフランツ・クサファー・メッサーシュミットの「性格表現の頭像」、「老齢の家庭教師」などに感情移入しそうです。なんとかメインビジュアルの「美しきナーニ」に意識を合わせていきたいです。

 

ミュージアムショップで心惹かれたお土産はアイディア商品、貴婦人になれるセンスです。試してみたら肌の色が違って奇妙な感じに……。l

ルーヴル美術館展 肖像芸術 —人は人をどう表現してきたか
期間:~2018年9月3日(月)
時間:10:00~18:00(毎週金・土曜日は、5・6月は20:00まで、7・8・9月は21:00まで。 入場は閉館30分前まで)
休館日:火曜日(8月14日(火)は開館)
場所:国立新美術館 企画展示室1E 
東京都港区六本木7-22-2
電話:03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.ntv.co.jp/louvre2018/

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「墓碑肖像」家族全員、顔が似ていて血縁の強さを感じさせます。
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アレクサンドロス大王の性格を美化する形で作られた像。赤い壁が権力者ゾーンにぴったりです。
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「詩人の彫像」など、知識人の肖像も。詩人さん、ヒゲが立派ですが多少お腹が……。
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 「フランス国王ルイ18世のミニチュアール・コレクション」。小さい肖像は、現代でいうトレカのようなもの? 王侯貴族や著目人の顔が並びます。  
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「美しきナーニ」の傍らで、初日にルーヴル美術館の学芸員さんが解説してくださいました。「暗い背景が白い肌を引き立たせる」そうです。  
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ミュージアムショップで心惹かれたお土産はアイディア商品、貴婦人になれるセンスです。試してみたら肌の色が違って奇妙な感じに……
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