スルタンのパワーをまとう #トルコの至宝 #41

西洋と東洋の美の交差点、トルコには、他にはない文化や芸術が息づいています。オスマン帝国の宝物を紹介する「トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」が国立新美術館で始まりました。トプカプ宮殿博物館から来日した宝物の数々は、これまで見たことのないような独特のセンスに彩られていました。

最初の部屋は金銀財宝の嵐。スルタン(オスマン帝国皇帝)にまつわる宝物が展示されているのですが、柄が巨大なエメラルドの短剣とか、大量のエメラルドとルビーに覆われた「儀式用宝飾水筒」「宝飾筆箱」「宝飾手鏡」「宝飾翡翠カップ」など、赤と緑の宝石まみれでデコラティブ感が激しいです。センス的にどうなんだろう……と最初見た時感じるのですが、見慣れるとだんだん素晴らしい至宝に感じられてきます。

ちなみに石の意味を調べると、ルビーは勝者の石で強力なパワーストーン。エメラルドは愛と癒しの力があるそうです。クオリティーの高い宝石なので、スルタンくらい強力なパワーを持った人でないと宝石に負けてしまいそうです。トルコの宝飾品に威圧感を覚えてしまった私は、まだパワー不足のようです。

「皇子用のカフタンとチャクシュル(靴付きズボン)」長靴はそ革底で高級感が漂う作りです。17世紀のもの。

チューリップの文様が織られた付袖。半袖のカフタンを長袖として使用できるように作られた便利アイテムだそうです。

威圧といえば、スルタンが着用する「カフタン」という装束はかなりビッグサイズでモコモコ感がありました。多分、アメリカのラッパーと同じく、体を大きく見せることが権威付けになったのでしょう。スルタン・スレイマン一世の肖像画は、着膨れしまくって、帽子もやたら大きくて200%くらい増量していました。王者の風格です。スルタンの衣装が並ぶ中、目を引いたのは「皇子用のチャクシュル」。チャクシュルは、靴付きズボンです。ズボンと長靴がくっついているデザインで、その発想はなかったですが、急いでいる時などに便利そうです。

香炉やバラ水入れなどに美しい飾りがほどこされています。アロマの香りが漂う宮殿を想像させます。

宝石に続いてトルコ人が大好きなのはチューリップのモチーフ。チューリップ図案の衣装やお皿、敷物、タイルなどもたくさん展示されていました。当時人気だったのは花びらが尖っていて花が細身のチューリップだそうで、図案に入れてもそこまで甘くなりすぎず、絶妙なセンスです。チューリップがここまで愛された理由の一つに、アラビア文字はそれぞれ数値を有していて、チューリップという単語の数値は66。イスラム教の神のアッラーのつづりの数値も66ということで、神との合一を象徴しているということがあるそうです。他にはバラも人気の花で、来客者にバラ水を振りかけてもてなす風習があるとか。「七宝製パラ水入れ」など美しい宝物が展示されていました。

花モチーフは女性の気分を上げるアイテムでもありますが、スルタンのハレム(後宮)にいる女性たちは自由に外出できず、囚われの奴隷の身分だったそうなので同性として切ないです。ジャーリエと呼ばれる奴隷の身分の女性たちは、様々な場所から連れて来られました(というのもひどい話ですが……そもそもオスマンという名称自体も怖いです)。

オスマン帝国支配者の標章である「花押」(トゥーラ)。書道としても発達しています。展示されているのは、スルタン・アブデュル・ハミト2世の花押。

ハレムの女性は、スルタンの寵愛を受けたり自らの才覚によって出世することもあるとか。話術や教養によってステップアップする女性もいたそうです。展示にはスルタンの肖像画は複数あっても、女性を描いた絵はなくて、どのような生活ぶりだったのか謎めいています。少しでも快適な環境だったことを祈ります。トルコの宝物、美しいけれど一抹の怖さを感じるのは、宮廷の女性たちの念が宿っているからでしょうか……。

16世紀後半の「儀式用宝飾水筒」は金、エメラルド、ルビー、翡翠、真珠などで埋め尽くされています。この中に入れた水は、宝石と金のパワーで味変しそうです。

でも、トルコは今に至るまで親日国でもあります。1890年、台風に遭ったオスマン帝国の軍艦が和歌山県のあたりで沈没すると、日本人が必死の救護活動をして、さらに犠牲者遺族に義援金を寄付する日本の紳士もいて、その時からトルコの日本への印象が良くなったそうです。未だに語り継がれているそうで……。何度も何度も繰り返し出てくるルビーやエメラルド、チューリップ柄を見て薄々感じていましたが、トルコの人はわりと粘着気質と言ってはなんですが、こだわりが強いタイプなのかもしれません。宝物のデザインにはその国の人の性格も表れているのが興味深いです。

「サーイェバーン」と呼ばれる儀式の時などに使われた日陰テントがやたらゴージャスでした。スルタンや高官が休憩していたそうです。

 

「トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」

期間:~5月20日(月)
時間:10:00~18:00(入場は閉館30分前まで)
休館日:火曜 ※4月30日(火・休)は開館
場所:国立新美術館 企画展示室2E
東京都港区六本木7-22-2 
https://turkey2019.exhn.jp/

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スルタンのパワーをまとう #トルコの至宝の画像_1
「皇子用のカフタンとチャクシュル(靴付きズボン)」長靴は革底で高級感が漂う作りです。17世紀のもの。
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スルタンのパワーをまとう #トルコの至宝の画像_2
チューリップの文様が織られた付袖。半袖のカフタンを長袖として使用できるように作られた便利アイテムだそうです。
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スルタンのパワーをまとう #トルコの至宝の画像_3
香炉やバラ水入れなど美しい飾りがほどこされています。アロマの香りが漂う宮殿を想像させます。
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スルタンのパワーをまとう #トルコの至宝の画像_4
オスマン帝国支配者の標章である「花押」(トゥーラ)。書道としても発達しています。展示されているのは、スルタン・アブデュル・ハミト2世の花押。
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スルタンのパワーをまとう #トルコの至宝の画像_5
16世紀後半の「儀式用宝飾水筒」は金、エメラルド、ルビー、翡翠、真珠などで埋め尽くされています。この中に入れた水は、宝石と金のパワーで味変しそうです。
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スルタンのパワーをまとう #トルコの至宝の画像_6
「サーイェバーン」と呼ばれる儀式の時などに使われた日陰テントがやたらゴージャスでした。スルタンや高官が休憩していたそうです。
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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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