トム・サックスの茶道とビジネス道 #43

NYの現代アーティスト、トム・サックスの展示が都内各所で開催。まずは6月23日まで東京オペラシティ アートギャラリーで開催している「トム・サックス ティーセレモニー」展へ。NIKEともコラボしていて、最近周りのデザイナーさんとかおしゃれピープルの間で人気があるアーティストなので、展示を拝見するのははじめてですが楽しみです。

会場に入ると、映像コーナーにNASAのロゴ入りチェアが並んでいました。トム・サックスは、過去にもプラダのロゴを便器にプリントしたり、手作りの既製品と評される作品で有名です。この展覧会ではNASAのロゴをフィーチャーしているのでしょう。

「Pond Berm」手作りの池の中には立派な錦鯉が泳いでいました。 
「Pond Berm」手作りの池の中には立派な錦鯉が泳いでいました。 

映像の内容は、トム・サックスが手作りの茶室や茶道具を使い、外国人女性を招いてお茶をt点てる、という一連の流れでした。工業用素材や日用品で自作された茶道具は、どこか無骨だけれどユーモラスです。しかもトム・サックス自身がふざけてやっているのではなく、真剣な表情と一挙一動に茶道へのリスペクトが感じられます。

「Tea House」外側はコンテナ風ですが、内部は和室でした。掛軸にカタカナが書かれているのがシュールです。
「Tea House」外側はコンテナ風ですが、内部は和室でした。掛軸にカタカナが書かれているのがシュールです。

ただ、茶道具が並んでいる棚の中心に、エネマグラ(前立腺マッサージ器具)が鎮座しているのはどうかなと思いましたが……。お茶菓子はオレオクッキーとか、泡立て器みたいなマシーンでお茶を点てるとか、ペッツのヨーダを飾っているとか、ところどころアメリカ感が出てきて、トム・サックスの愛国心も感じられます。

茶器のセット。横にはお茶の聖人っぽくヨーダが佇んでいます。
茶器のセット。横にはお茶の聖人っぽくヨーダが佇んでいます。

やはり目を引くのはNASAのロゴ入り茶碗です。これまでに作った大量の茶碗が並んでいるのが目を引きました。コンテナを改造したような茶室、どこかの飛行機のトイレの流用らしきトイレ、バケツや様々な日用品を重ねて作った灯籠、綿棒と筒で構成された松の盆栽、ダンボールの石のオブジェなど。脱力感と完成度のバランスが絶妙です。NY出身のセンスに痺れました。

道具が配置された棚。茶道具を工業用素材や日用品で自作しています。
道具が配置された棚。茶道具を工業用素材や日用品で自作しています。
 マクドナルドのロゴとアメリカの国旗が配置された、母国への愛があふれる掛軸。
マクドナルドのロゴとアメリカの国旗が配置された、母国への愛があふれる掛軸。

トム・サックスについて興味が出てきて、駒込の「KOMAGOME1-14 cas」で開催された(5/14まで、現在終了)、「INDOCTRINATION CENTER」展にも伺いました。作品の雰囲気から、いい意味で適当でフランクな方なのかなと思いましたら……NYに大きなスタジオを構えて、かなりしっかりとしたルールで運営していました。展示会場には、実際のスタジオの作業台も設置されていました。多数の工具や素材が整理整頓されて、すぐ取り出せるようになっていて、それ自体が作品のような美しさです。世界で成功する人のポテンシャルを感じます。

駒込のギャラリーにて。トム・サックスのスタジオの美しい作業台。仕事ができる感が漂います。
駒込のギャラリーにて。トム・サックスのスタジオの美しい作業台。仕事ができる感が漂います。

映像作品がいくつか流れる中、印象的だったのは「Ten Bullets」という、トム・サックスがアシスタントに課しているルールをまとめたもの。「このマニュアルに注意深く従えば、おそらく解雇されないであろう」とのことです。

「Work to Code」(コードに従う)、「Sacred Space」(聖なる空間)、「Be on time」(時間を守る)、「Be Thorough」(丁寧であれ)、「I understand」(了解する)、「Keep a List」(リストを持つ)、「Always Be Knolling」(常に整理整頓を心がける)といったルールは、現代アーティストのアシスタントだけでなく全ての働く人にも有効だと感じました。

動画を見ながら「仕事に関係ない動きをしない」「他人の仕事に気を取られない」「相手がメッセージを受け取ったか確認する」「わからないときはわかりませんと言う」「自分のタスクに集中」「送信済みは受信済みではない」「優先順位のリストを持つ」といった細かい決まり事に耳が痛かったです。

全ておっしゃる通りです。こちらのスタジオは罰金制もあり、鍵をかけないで出かけたら20ドル、電灯やエアコンを夜中つけっぱなしにしたら5ドル、連絡なしに遅刻したら5ドル、メモを取り損なってタスクを忘れたら10ドルなど……。ハンドメイド風の作品と、システマチックなルールのギャップに驚きました。そして現代アートの展示でこんなに、仕事について学ばされたことはありません。アートギャラリーで、仕事の姿勢について感化された体験が新鮮でした。見に来た人がトム・サックスの仕事術で能率が上がって収入アップし、彼の作品やコラボ製品を買えるようになる、という流れが理想的です。

トム・サックス ティーセレモニー

期間:~6月23日(日)
時間:11:00~19:00 ※金・土は20:00まで(入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日
場所:東京オペラシティ アートギャラリー[3Fギャラリー1, 2]
東京都新宿区西新宿3丁目20−2 
https://www.operacity.jp/ag/exh220/

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トム・サックスの茶道とビジネス道 #43の画像_1
「Pond Berm」手作りの池の中には立派な錦鯉が泳いでいました。 
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トム・サックスの茶道とビジネス道 #43の画像_2
「Tea House」外側はコンテナ風ですが、内部は和室でした。掛軸にカタカナが書かれているのがシュールです。
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トム・サックスの茶道とビジネス道 #43の画像_3
茶器のセット。横にはお茶の聖人っぽくヨーダが佇んでいます。
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トム・サックスの茶道とビジネス道 #43の画像_4
道具が配置された棚。茶道具を工業用素材や日用品で自作しています。
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トム・サックスの茶道とビジネス道 #43の画像_5
マクドナルドのロゴとアメリカの国旗が配置された、母国への愛があふれる掛軸。
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トム・サックスの茶道とビジネス道 #43の画像_6
駒込のギャラリーにて。トム・サックスのスタジオの美しい作業台。仕事ができる感が漂います。
辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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