バンクシーの風刺力と金運力 #54 #バンクシー展 #BANKSYJAPAN

世界5都市で100万人以上動員した「バンクシー展 天才か反逆者か」が横浜のアソビルにて開催。なんと9月27日までの約半年間、バンクシーの作品70点以上が日本で展示されているとは……都庁までわざわざ「バンクシー作品らしきネズミの絵」を見に行った身としては感無量です。

入り口ではバンクシーの重要なモチーフである巨大なネズミの絵が出迎えてくれます。今年はちょうどねずみ年なので、相乗効果で集客力が高まりそうです。

存在が謎に包まれている匿名のカリスマアーティスト、バンクシー。今回の作品の数々はコレクターの方々からの出品だそうで、本人の収益にはなっていないようです。もはやお金には興味がないのだとしたらバンクシーらしいというか潔いです。(ありがたいことに作品の写真も撮影OK)

バンクシーの風刺力と金運力  #54  の画像_1
覆面アーティスト、バンクシーの写真や映像から推測されたスタジオ再現コーナー。英国の某音楽グループのミュージシャンという説もささやかれていますが……未だ謎に包まれています。

展示は、まずバンクシーの想像のスタジオ再現コーナーから始まります。制作中の作品や画材に囲まれて、黒いパーカー姿の等身大人形が座っています。顔は影になっていて見えないのがただならぬ存在感を感じさせます。どこか死神っぽい雰囲気ですが、バンクシーも人類に警鐘を鳴らす存在であることは変わりありません。作品のテーマは消費、政治、文化、戦争など。メッセージ性は強く、タイトルの「天才か反逆者か」の通り、巨大権力に対して反対の立場を貫いています。

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ケイト・モスの新婚旅行中、バンクシーからの結婚祝いとして留守中に彼女の家のバスルームに設置されていたそうです。ちょっと怖いですが、ケイト・モスの知り合いの知り合いくらいの関係なのでしょうか。

「消費」のコーナーでまず目立っていたのは、アンディ・ウォーホルのマリリン・モンローのアート作品のようにケイト・モスのプリントを並べたもの。セレブでも何でも人気がある存在を消費し尽くす現代社会への風刺のようです。バンクシーの反消費主義をテーマとした作品は他にもあり、「バーコード」は、バーコードがプリントされたトラックとヒョウが描かれていて、狩りをする感覚で消費する現代人へのメッセージのようです。

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「セール・エンズ」 宗教画に出てきそうな男女がセールの終わりを嘆く図。バンクシーが消費主義を皮肉った作品ですが、感情移入してしまいます。

「セール・エンズ」は、「セールは今日までです」という赤地の看板を前に、中世風の人々が悲嘆にくれている図。自分もセール終了の時こんな心境になっていたかもしれません。少女がカートと共に落下する「フライング・ショッパー」、国旗の代わりにショップの袋が掲揚されている「ベリー・リトル・ヘルプス」など、「消費」の作品コーナーは身につまされる作品が多いです。

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「資本主義が崩壊しない限り、世界を変えるためにできることなんて何もないです。それまでは気休めにショッピングしましょう」というバンクシーの言葉が壁に書かれていました。バンクシーらしき人物の映像や写真を見る限り、いつも同じようなパーカー姿で、ふだんあまり買い物しなさそうです。たまたま物欲が薄いからこそ、意識が高いメッセージを繰り出せるのでしょう。

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議員が猿になっている「モンキー・パーラメント」。イギリスの議員たちの経費不正申告というスキャンダルのあとに制作されたそうです。

「政治」コーナーでは、さらに風刺の攻撃力が増し、イギリス議会議事堂の下院で議員が猿と化している「モンキー・パーラメント」、イギリスの君主の肖像画を猿に置き換えた「モンキー・クイーン」などがドキッとさせられます。日本でこれをやったら炎上しそうな……。これらの作品を見て、バンクシーは危険な作風で、消されないために匿名にしているのでは? と気付かされました。匿名は自由に作品を制作できて、自分を守ることにもなり、結構便利です。

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警察をおちょくる作品も多いです。「スマイリング・コッパー」は、フレンドリーな笑顔だけれどマシンガンを抱えた油断できない警察を描いています。

さらに危険なのが「ディズマランド」という、2015年の夏の期間にブリストル・ベイに実際に設置された、呪われたテーマパークのインスタレーション。廃虚のような城、事故でひっくり返ったカボチャの馬車、歪んだマーメイドの像、ライドに乗る死神など、子どもにとってはトラウマものの光景が広がっています。こちらのインスタレーションには、ダミアン・ハーストやジェニー・ホルツァーなど58名ものアーティストが参加。匿名のバンクシーがどうやって彼らに企画を打診し、打ち合わせしたのか気になります……。それにしてもタブーに切り込みまくるバンクシーの恐れ知らずぶりに驚かされます。日本でもテーマパークとかリア充のスポットを嫌うシニカルな文化系男子の存在が確認されていますが、バンクシーはその究極の存在かもしれません。今回改めてバンクシーの攻撃力に戦慄しました。

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爆弾を抱えた少女を描いた「ボム・ラブ」、軍用ヘリコプターにリボンをつけた「ハッピー・チョッパーズ」など、戦争への強烈な風刺を感じさせる作品も。
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バンクシーが建てた「ザ・ウォールド・オフ・ホテル」は、イスラエル政府がパレスチナとの間に建てた分離壁を窓から眺めることができるホテル。その室内が再現されているコーナーです。

展示のところどころには、バンクシーの絵が描かれたベンチや、バンクシーがプロデュースしたパレスチナの「ザ・ウォールド・オフ・ホテル」の客室再現コーナーなど、写真映えスポットがあって、メッセージの刺激に疲れた心を休めることができます。監視カメラに抗議するインスタレーションでは自分の姿を映り込ませて撮影できたり、バンクシーの世界観に没入できます。

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バンクシーといえば思い浮かぶのがネズミの絵。「ファリントン・ラット・フォトグラフ」はロンドンの柱に描かれていて、当初メッセージボードには「何をやってもうまくいかない」と描かれていたそうですが、消されてしまったそうです。

全ての作品がメッセージ性とメジャー感に満ちあふれていて、本人の意図とは関係なく、巨万の富を生み出し、時には町おこしにもなる、作品の強いパワーを感じました(名前にBankが入っているからお金を生むのでしょうか……)。バンクシーに触発され、何かメッセージを発信しなければ、という使命感にもかられます。展示の最後にはホワイトボードが設置され、誰でもバンクシー気分で絵が描けるようになっていましたが……マジックを手に取ったもののスケールの小さいイラストしか描けず、天才との差を実感させられました。伝説のバンクシーと同じ時代に生きているだけでも光栄だと思って、地道に都会のネズミとして生きていきたくなる展示です。

バンクシー展 天才か反逆者か
期間:~9月27日(日)
時間:10:00~20:30  ※入場は閉館30分前まで 

休:無休 
※開催日時などにつきましては、新型ウィルスの問題で変更の可能性もあるので、念のため下記HPなどでご確認ください。 
※事前チケット予約制
場所:アソビル 
神奈川県横浜市西区高島2-14-9 アソビル2F
https://banksyexhibition.jp/

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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