インナーチャイルドが浄化される水森亜土グッズコレクション #55

キュートでセクシーでおしゃれな水森亜土さんのイラストや絵画は時代を超えて普遍的な人気を保っています。かつて少女だった人は当時を思い出し、今現在少女の人は女性としての成長をサポートしてもらえそうな亜土グッズ。コケティッシュな魅力もあるので男性にとっても見応えありそうで、動物好きの人は猫やウサギのPOPなイラストに癒されるでしょう。

そんな老若男女に愛される水森亜土さんの作品を集めた「水森亜土グッズコレクション いつみても、いつでもラブリー」展が、休業期間を経てついに弥生美術館で始まりました。

待ち望んでいた開幕。会場の入り口横には「キャッホーイ 好きなところから見てみてネネネ 間隔あけるんよ 亜土展楽しんでネネネ 亜土」というイラスト入りのハートウォーミングなメッセージが。来場者のソーシャルディスタンスにも気にかけてくださる優しさに感じ入ります。

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日本橋で遊んでいた少女時代の思い出を綴ったコーナー。当時の日本橋川はメタンガスがわくドロドロの川で、何度か落ちたトラウマで今でも夢に出てくるそうです。

まずは、亜土さんの少女時代の写真や思い出コーナーからスタート。生まれ育ったのはなんと日本橋室町1-1という、日本橋のたもと。日本橋の敷石にロウセキで絵を描いたり、橋の外側の50センチ幅のでっぱりを通って肝試ししたり、三越のライオン像にまたがったりして遊んでいた生粋の江戸っ子です。

子ども時代の家族写真を見ると、財力も感じさせられます。父は建築関係の事務所を営み、母は絵やお花を教えていて、料理上手で多才な人だったようです、そのDNAを亜土さんは受け継いでいるんですね。ちなみに母娘とも超難関校、桜蔭学園ご出身です。

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モロカイ・ハイスクールの絵日記。東京のまじめな女子校とは全く違う自由な環境だったようです。

桜蔭では飼っていたジュウシマツを連れて行ったり自由すぎる学園生活を送っていましたが、高校卒業後進路が決まらず、母のつてでハワイのモロカイ島の高校に入ることになります。そこで母と毎日絵日記を書くことを約束し、そのハワイ絵日記が帰国後評判になり、英語雑誌にイラストを描くことになった、というのが初仕事だそうです。

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自然豊かなハワイでリフレッシュし、フラやウクレレなど南国のカルチャーを吸収した亜土さんの絵は、日本人離れしていました。会場にはハワイの絵日記も何枚か展示。ピアスを友達に開けてもらったら体調を崩した話、ハワイの食材についてなど、かわいいイラストとともに綴られています。多才な亜土さんは先生に弟子入りしたり、オーディションを受けたりしてジャズ歌手としても活動をはじめます。

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「たのしいきょうしつ」でガラスやアクリルに絵を描くときの画材も展示。ポスカがまだ売られていない頃はマヨネーズの容器とフェルトで道具を自作していたとか。

そして転機になったのがNHKの「たのしいきょうしつ」。元々左利きで右手も使えるようになっていた亜土さんだからこそできたのが、有名な両手を使って透明なガラスやアクリルに絵を描くパフォーマンスです。

番組には1965~67年、1974~83年にわたって「亜土たんコーナー」が。私も幼稚園時代に大ファンで、手紙を送ったら直筆のハガキが届いて感動した思い出があります。この時日本中に亜土チルドレンが生まれたことでしょう。ただ本人は、一発勝負で時間ぴったりに歌と絵を終わらせなければならないプレッシャーで、頭痛薬が手放せなかったそうです。スプレーを大量に使うことでトリップしそうな危険も……。

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数えきれない程の亜土ちゃんグッズ。デザイナーもきっと亜土さん好きであることが伝わるクオリティです。

こうしてメディア露出も増え、人気が出てくるにつれて、グッズ化の話もどんどん来るようになります。会場には文房具から食器、エプロン、オルゴール、ハンカチ、人形、アクセサリーなどありとあらゆるグッズが展示。そして現代ではスマホケースやLINEスタンプまで。サステイナブルな需要と供給に驚嘆の念を禁じ得ません。当時持っていたアイテムを見つけるとタイムスリップしそうです。そして時代を超えても古さを感じさせない絵柄の魅力は何なのでしょう。亜土さんの優しさのヴァイブスがあふれていて、それが普遍性をもたらしているように思います。

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両手でガラスに描いた絵も展示されています。スプレーで塗られた色のセンスが絶妙です。

実は苦労人でもそれを見せないポジティブな作品

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亜土さんの絵にたびたび出てくる、お尻がプリッとした女性の絵は、ご本人の理想のスタイルだそうです。

今回、展示を拝見しながら弥生美術館学芸員の内田静枝さんにエピソードを伺い、亜土さんの素晴らしい包容力について改めて感動しました。自分のグッズが売れて収入が入ると、夫・里吉しげみの「劇団未来劇場」(女優としても出演)の制作費に注ぎ込み、家に集まる劇団員のために数十人分の料理を作り、夫の度重なる浮気を乗り越え、両親や義父母(&なぜか近所の人)の介護をするという、博愛的なお方です。夫の劇団のポスターの仕事はノーギャラ。しかも描き直しを何度も要求されて……とても愛がないとできません。亜土さんはイラストレーター、画家、歌手、女優として活躍しながら家事や介護をこなし、夫を経済的に支えていました。

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父親は遊び人で日劇ミュージックのヌードダンサーにハマっていて、少女時代の亜土さんも劇場に同行。セクシーなイメージが刷り込まれたそうです。

会場ではそんな亜土さんのジャズの曲が流れている部屋がありますが、人生経験を感じさせつつもポジティブな歌声に包み込まれ、癒されます。亜土さんはずっと人気で羨望を感じますが、多くの徳を積んでこられた結果でもあるのかもしれません(もちろん才能あってこそですが)。良いことをすれば良い結果が返ってくる……そして根底にある無私の精神にも感じ入りました。

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中高時代セーラー服に憧れていたという亜土さんの渾身のセーラー服グッズ。セーラー服タオルなどシュールなアイテムも。

亜土グッズや絵の魅力は、人生に何があっても、亜土さんの絵を見ている間は少し現実逃避できて、気持ちが楽になるというところでしょうか。今こそ必要な絵です。青い目の人物画が多く、その瞳に吸い込まれた先には宇宙や大空が広がっているようです。

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ショップではハガキやクリアファイル、今回の図録的な本『水森亜土グッズコレクション』と自伝本『右向け~っ、左!!』なども販売。

キャッホー!いつ見ても、ラブリー♥ 水森亜土展 
期間:~10月25日(日)
時間:10:30~17:00  ※入場は閉館30分前まで 

休:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、展示替え期間中
※開催日時などにつきましては、新型ウィルスの影響で変更の可能性もあるので、来館の際は念のため下記HPなどでご確認ください。 
オンラインによる事前予約制
場所:弥生美術館
東京都文京区弥生2-4-3
http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/yayoi/exhibition/now.html

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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