異次元に没入してGUCCIの魔法の虜になる「グッチ ガーデンアーキ タイプ」#68

海外旅行より刺激的かもしれない、GUCCIの世界にトリップできる「グッチ ガーデン アーキタイプ(Gucci Garden Archetypes)」が開催。ブランド創設100周年を祝した展覧会で、クリエイティブ ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレが描くビジョンと美学、インクルーシブな哲学を映し出す内容です。東京・天王洲で行われ、入場無料(事前予約制)とのことで、ノーブレス・オブリージュ精神に感動しながら会場へ。

広い会場は13の部屋にわかれていて、それぞれGUCCIの広告キャンペーンの世界を具現化しています。メディアやお店で目にしてきた当時のコレクションがなつかしく思い出されます。


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「Gucci Collectors」の部屋に並ぶ夥しい鳩時計。壁にはコレクターとの会話の一部も展示。「鳩時計のどんなところが好きですか?」「それぞれが、独自の世界を確立しています。壁にかけられる、小さくて実用的な宇宙です」だそうです。

多数のモニターに、キャンペーンムービーの映像が流れるイントロダクション的な部屋を抜けると、鏡張りの部屋が現れました。2018年秋冬コレクションの広告キャンペーン「Gucci Collectors」の世界を表現しています。蝶の標本や大量の鳩時計、ぬいぐるみなどの熱量に圧倒。「GGマーモント」のバッグがひときわ大事にケース内に陳列されていました。GUCCIのバッグと同じ空間に並んでいる鳩時計が妙におしゃれに見えてくるのが不思議です(これが「みうらじゅん展」の会場だったら見え方が全然違ったものに……)。

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「Of Course A Horse」の部屋には人馬一体となったロボットが。時々たてがみが揺れ動きます。ブーツには馬具由来のホースビットがあしらわれています。

急に「アマリリス」の曲を奏で出したり、音を発する鳩時計に驚きつつ、次の部屋「Of Course A Horse」へ。こちらは2020年春夏コレクションをイメージした部屋で、人間と馬のアンドロイド的な不思議なマシーンが鎮座。ロングの毛が急にバサバサと動き出して、先ほどの部屋に続きお化け屋敷的な楽しみもある展示です。毛は人間ではなく馬のしっぽで、馬と人との素敵な生活を表現したムービーが流れていました。一緒に車に乗ったり海岸で昼寝する馬がかわいすぎです。GUCCIと馬具、GUCCIと馬との深い関係を想起させる映像。こちらは『女王陛下のお気に入り』のヨルゴス・ランティモス監督によるもの。その後の部屋に出てくる「Come As You Are_RSVP」(2020クルーズ)のキャンペーンムービーを監督したのはハーモニー・コリンだったりと、豪華な人材にも注目です。

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「Urban Romanticism」は都会の地下鉄が舞台。リアルなマネキンに接近して眺めることができます。

2015年秋冬コレクション「Urban Romanticism」は、都会の地下鉄が舞台。まだどこにも着いていない狭間の空間で、人は無に近付くのかもしれません。車窓には、どこでもない橋の風景が映し出されていました。なんとなく多摩川っぼい……という先入観は捨てて、NYあたりだと空想したいです。つり革のデザインもおしゃれに見えてきます。

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東京のデコトラやパチンコ屋、茶室などがモチーフになった「Tokyo Lights」。ネオンの洪水に包まれてテンションが上がります。

2016年秋冬コレクション広告キャンペーンの栄えある舞台に選ばれたのは東京。「Tokyo Lights」の部屋には、その時の撮影に使われたデコトラの模型が展示され、キッチュで派手なネオンがきらめいていました。外国人のモデルたちがデコトラでパチンコ屋に乗り付ける映像も流れています(監督はグレン・ルックフォード)。どことなく、休業中のロボットレストランを思い出させ、なつかしいです。海外を巡回している展示なので、東京のイメージがデコトラ+パチンコになってしまいそうですが……。

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「Dans Les Rues」は、パリの「五月革命」をモチーフにしています。日本の学生運動の看板に比べて色合いもおしゃれです。

2018年プレフォール コレクションの広告キャンペーンは、「Dans Les Rues」がテーマ。1968年の学生と労働者によるデモ「五月革命」当時の喧噪がよみがえる展示で、通路の壁にはフランス語でスローガンやメッセージが書かれていました。メッセージのいくつかを翻訳したら「明日は美しい」「若さを保つ」「楽観主義を選ぶ」「愛が全てです」と意外とポジティブな内容で、荒々しい筆跡とのギャップが。良い言霊のパワーを浴びられる通路でした。

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SF風「Gucci And Beyond」の世界。おしゃれすぎる宇宙人に注目です。

2017年秋冬コレクション「Gucci And Beyond」の世界も楽しいです。60~70年代のSF映画をモチーフにした映像やジオラマが展示。探検隊とエイリアン、恐竜、ロボットなどが宇宙船内や別の惑星で一堂に会していました。エイリアンのファッションがおしゃれすぎて威圧感が。高度に進化した惑星ではファッションも進化しているのでしょう。

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「Rebellious Romantics」の部屋は、ベルリンのクラブのトイレを再現したスリリングなインスタレーション。

2016年春夏の広告キャンペーン「Rebellious Romantics」の部屋では、ベルリンのクラブのトイレを再現したインスタレーションを展示。マネキンの顔色が若干悪いですが、刹那的に生きる若者たちの姿をリアルに表現しているようです。


宇宙空間に始まりデコトラ、クラブのトイレまで自在に行き来できるアレッサンドロ・ミケーレのクリエイティビティは、時空や価値観を超越していて多様性を超えた多次元性を感じさせます。銀座のGUCCI6階でも「GUCCI BAMBOO ROOM」という展示が10月17日まで開催されていて、そちらの会場ではバンブーを用いたバッグのアーカイブや、アレッサンドロ・ミケーレのインタビュー映像、ファッションショーの映像なども公開されています。そこで彼が語っていた「グッチの魔法。私もその魔法にかかっています」という一言が心に残りました。「グッチ ガーデン アーキタイプ」の会場も魔法の力がうずまいていて、すっかり魔法の虜になってしまったようです。めくるめく世界を無料で体験させてくれたGUCCIに感謝の念が湧いてきたので、もはや安く思えてきた展示ショップのアイテム(4000円のノートなども販売)を購入すれば、魔法から現実に戻れるかもしれません。
 

「グッチ ガーデン アーキタイプ

期間:~10/31(日)
時間:11:00~20:00(金・土・祝前日は21:00まで) ※最終入場は閉館時間の30分前まで
※チケットはグッチ公式LINEアカウントにて事前予約受付
※開催日時などにつきましては、新型コロナウイルス感染症の状況により変更の可能性もあるので、公式HPやLINEなどでチェック。最新状況などはグッチ ジャパン クライアントサービス(TEL:0120-99-2177 受付時間 10:00~21:00)に問い合わせください。

会場:B&C HALL・E HALL
東京都品川区東品川2-1-3

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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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