絶妙な妖怪ディスタンスを体感できる展示 #60

このところの埼玉県の勢いを感じさせる新スポット、「ところざわサクラタウン」。キャッチフレーズは「日本最大級のポップカルチャーの発信拠点」で、埼玉県出身としてぜひチェックしなければと思って行ってまいりました。想像以上の広さで、隈研吾設計によるランドマーク的な「角川武蔵野ミュージアム」が目を引きます。隈研吾設計の建物は木材を使ったものが多い印象ですが、こちらの外観は石造りで、文明が滅んでも後世に遺っていきそうな堅牢な建物です。

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「角川武蔵野ミュージアム」の外観。埼玉県の中で最も斬新な建物かもしれません。

「角川武蔵野ミュージアム」内には「マンガ・ラノベ図書館」や「角カフェ」そして先日の『紅白歌合戦』でYOASOBIがパフォーマンスした「本棚劇場」など、カルチャーのるつぼのよう。しかもエントランスに、会田誠や奈良美智などの作品が展示されていて、無料で現代アートを鑑賞することもできます。そんな中、今回ご紹介したいのは1Fグランドギャラリーで2月末まで開催予定の「荒俣宏の妖怪伏魔殿2020 YOKAI PANDEMONIUM」。「角川武蔵野ミュージアム」のアドバイザリーで妖怪研究の第一人者・荒俣宏氏監修による展覧会なので、期待が高まります。

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現代のアーティストが描く繊細な妖怪画が見られる回廊。この展示、明らかにお金かかってます。

雰囲気がありすぎる入り口をくぐると、そこは妖怪絵の回廊。お化け屋敷っぽい薄暗い空間で、現代のイラストレーターが細密なタッチで描く妖怪絵を鑑賞できます。座敷童子、のっぺらぼう、大ガマ……西洋のハロウィンのパンプキンまでいました。


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全国各地、津々浦々の妖怪を紹介するコーナー。全部熟読したいですが時間が足りません……。

続いて情報量が膨大な、全国各地の妖怪についての「日本の妖怪大集合」展示ルームが。個人的に妖怪と何度か遭遇したことがあり(座敷童子、狸囃子、山姥、バックベアードなど)、妖怪には親しんできたつもりですが、知らない妖怪がたくさんいました。例えば気になった妖怪は……
・オッケルイペ(北海道)
 くさいオナラをしても知らんふりをする、見えない妖怪。(妖怪のせいにしているだけという気も……)
・ニタッラサンペ(北海道)
 茶色っぽくてマリモのような妖怪。見た者は運気が下がる。(枯れたマリモの恨みでしょうか)
・手なが婆(青森)
 腕が40キロ以上にも長く伸びる老婆。貝を採って食べる。(強欲に生きているとこんな風になってしまいそうな……)
・寝肥(ねぶとり)(岩手)
寝ている間、体が膨らむ女。(食べすぎたとかいうレベルではないようです)
・殺生石(栃木)
九尾の狐が変化した、有毒ガスを噴出する巨石。(ポケモンGOに出てきそうです)
・囀石(さえずりいし)(群馬)
一見4メートルの巨石だけれど時々しゃべる。役に立つ情報をくれることも。(元祖ハードディスクのような妖怪です)
・天井嘗(群馬)
長い舌で天井のホコリをなめる。天井にできたしみは不気味な人や化け物に見える。(一見掃除してくれて便利だと思ったら逆効果です)
・伊草の袈裟坊(埼玉)
袈裟を着た河童。人間のはらわたが好き。所沢市に棲む河童がお中元として人間の子供のはらわたを袈裟坊に献上していた。(河童にも身分の格差があるのを感じます)
・猫又(東京)
年老いた猫が霊力を宿し、二本足で歩いたり人間の言葉をしゃべったりする。尾が2つにわかれ、手ぬぐいを頭に乗せて踊る。(かわいい妖怪もいます)
・人魚(富山)
女の頭がついた人面魚。漁船を転覆させる。(西洋の人魚のようになまめかしい女性の半裸と魚の下半身ではなく、魚のボディに人間の顔だけがついているインパクトある姿です)

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絶妙な妖怪ディスタンスを体感できる展示 の画像_5
ツチノコの標本。荒俣先生の倉庫からそのまま運ばれてきたような段ボールのケースが臨場感あります

・ツチノコ(山梨)
槌のように体が膨らんで、ネズミのようなシッポがついている。『古事記』にも登場したレジェンド的妖怪。(地味な見た目ですがツチノコにはロマンがあります)
・無三殿(岐阜)
尻子玉の代わりにお尻にできた痔を抜き取ってくれる。痔を治すことを「根抜き」という。(珍しく役に立つことをしてくれる妖怪。それにしても河童系多いです)
・件(京都)
人面牛身の予言する妖怪。件の絵を貼れば疫病から逃れられて商売繁盛する。(ブームになったアマビエと同じく予言獣系です)
・赤子(奈良) 
生まれたばかりの赤ん坊のような姿で集まって踊る。次第に増えて数百人に達することも。(かわいい系と油断したら数百人とは怖すぎです)
・白粉婆(奈良)
顔におしろいを雑に厚塗りした老婆の妖怪。(こうならないように気を付けます)
・送りオオカミ(高知)
夜の山道などであとをついてくる。正しく対処すれば守ってくれる。(送りオオカミという言葉の元になった妖怪のようです)
・茶袋(高知)
空中にぶらさがる茶袋型の妖怪。遭遇すると病気になると言われる。(地味に不吉な妖怪です)
・アマビエ(熊本)
海中から現れ、疫病を予言した三本足の妖怪。新潟には同様の妖怪でアマビコと呼ばれる妖怪がいて、アマビエの名前はアマビコの誤字に由来する説が。(コロナ禍で大ブームになった予言獣。仲間もたくさんいるので、救いを求めたいです)

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展示室の風景。段ボールの展示ケースが逆にインパクトあって引きつけられます。

充実の「日本の妖怪大集合」に続いては、人形道祖神という、厄除や五穀豊穣を願って作られた巨大な藁人形の展示が。妖怪の陰の気から一転、陽の気に浸れます。後半は、2005年の映画『妖怪大戦争』で使われた妖怪の展示や、インタラクティブなデジタルアート、ちょっとエロい春画系の妖怪の絵、そして子どもたちによる妖怪の絵の展示まであって、一生ぶんの妖怪を見た感じです。所沢まで行って損はしません。

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秋田の人形道祖神たち。素朴だけれど五穀豊穣ヴァイブスを感じるご神体です。

今、人間は災いに見舞われて不安や危機を感じていますが、古来からそんなもやもやした思いや、災いを具現化したのが「妖怪」なのかもしれません。形があって名前を付けるだけでも心の整理ができてちょっと安心できます。自分の中のネガティブな思いを妖怪の絵で笑いながら昇華できる展示です。

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疫病を予知する人面牛身の妖怪、件のミイラ。拝見することで疫病から逃れるご利益を期待したいです。
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映画『妖怪大戦争』で使われた妖怪のオブジェたちはクオリティが高すぎて本物かと見まがうほど。
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「妖怪盂蘭盆会」コーナーではお盆を持つと妖怪が乗ってきて一緒にひととき戯れられます。

荒俣宏の妖怪伏魔殿2020 YOKAI PANDEMONIUM

期間:~2021年2月28日(日)まで
時間:10:00~18:00 日~木曜  10:00~21:00 金・土曜 
※入場は閉館30分前まで
休:第1・3・5火曜日 ※休館日が祝日の場合は翌日休館
※開催日時などにつきましては、新型コロナウイルス感染症の発生状況により、変更の可能性もあるので、念のため下記HPなどでご確認ください。
会場:角川武蔵野ミュージアム
住所:埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3 ところざわサクラタウン内
https://kadcul.com/event/21

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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