今月のゲスト:中山咲月さん【シオリーヌのご自愛SESSION 最終回】

助産師であり、性教育について発信するYouTuberのシオリーヌさんが、さまざまなジャンルで活躍する人と「ご自愛」について語り合ってきた連載もついに最終回。ラストを飾るのは、モデルや俳優として活躍する中山咲月さん。昨年9月に刊行したフォトエッセイ『無性愛』で、自らのジェンダーやセクシュアリティにまつわる葛藤を明かした中山さんと、あらゆる属性にまといつく固定観念について語り合った。二人のとっておきのご自愛アイテムも公開!

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(右・中山さん)ジャケット¥23,650・パンツ¥17,600/ジャジャーン(スーパーサンクス ノアール)  中に着たブルゾン¥29,700/ボディソング (左・シオリーヌさん)シャツ¥29,700・パンツ¥35,200/シアン PR(シャリーフ)

Profile

シオリーヌ●助産師/総合病院産婦人科病棟や精神科児童思春期病棟勤務を経て、YouTubeで性教育を発信。著書に『やらねばならぬと思いつつ〜超初級 性教育サポートBOOK』(ハガツサ ブックス)など。


中山咲月●モデル・俳優/13歳でローティーン誌の専属モデルとしてデビュー。クールなルックス&私服が話題になり、俳優としても幅広く活躍中。昨年9月に初のフォトエッセイ『無性愛』(ワニブックス)を上梓。

小柄な女性のサイズに合うメンズ服がない!

シオリーヌ(以下S) 昔から中山さんのインスタグラムを拝見していたので、今日はお会いできて感激です。私はずっとメンズファッションが好きだったので、可愛らしい服はピンとこなくて。そんなとき、中山さんがメンズウェアを素敵に着こなしているのを見て、「私もこういう服を着ていいんだな」と思えるようになったんです。

中山さん(以下N) うれしいです!

S オーダーメイドでメンズスーツを作ったこともあるんです。それを着て友達の結婚式に出席したら、すごく楽しかった。ドレスを着るよりも自信が持てました。中山さんはティーンの女の子向けのファッション誌でモデルデビューをされていますが、いつから今のようなスタイルになったのですか?

N ずっと、仕事で着る可愛い服装に違和感があって、ファッションを好きになれなかったんです。メンズウェアを着てみたいと思っていたけれど、周囲には女性でメンズ服を着ている人は誰もいなかったし、自分が着てもいいのだろうかと悩んでいました。中学生のとき、「どうしても着てみたい」という衝動が抑えきれなくなって、初めてネットでメンズウェアを買いました。自分の好きなスタイルに出合ってからは、服が好きになりましたね。でも、女性の体でメンズ服を着るのには、どうしても限界があるんです。

S わかります〜!何より、サイズが合わないんですよね。

N そうなんです。自分は決して身長が低いほうではないけれど、メンズウェアを着るとなると、Sサイズがやっと。もっと小柄な女性は、着られるサイズがないわけですよね。それに気づいたとき、「じゃあ、自分で作ろう」と思ったんです。今は「エクスパーダ」というブランドをプロデュースしていて、コンセプトは「男性でも女性でも着られるかっこいい服」です。

S メンズ服を着たい女性にとっては救世主のようなブランドですね!

自分と向き合う時間が成長につながっていく

S 私が中山さんを知った頃は、よく「ジェンダーレスモデル」と紹介されていました。あれは、中山さんが自ら名乗っていた肩書だったのですか?

N 実は、自分から「ジェンダーレス」を名乗ったことは一度もないんです。世間に自分のような存在を知ってもらうためには、そういう言葉があったほうが便利なんだろうなと思いつつも、カテゴライズされるのがとにかくつらくて。周囲の求める「中性的でかっこいい女性モデル」像に、ずっと苦しんできました。昨年 9月に発売したフォトエッセイでは「中山咲月というひとりの人間として見てほしい」と書いていますが、そう決意するまで葛藤していた時期が、すごくキツかったですね。

S そうだったんですね。私もフォトエッセイを拝読しましたが、心の奥深くの葛藤が描かれていて感銘を受けました。苦しんでいたときは、どうやって自分自身を保っていたのですか?

N なるべく毎日、自分と向き合う時間をつくるようにしていました。今も、寝る前に1日の行動を振り返るようにしています。自分自身と向き合い続けると、自分を認めて愛せるようになる。内面も外見も、自分を愛さないことには成長できないですよね。自分としっかり向き合った分だけ、いい方向に成長できると思っています。

S すごく前向きな考え方ですね。中山さんは昔から、今のように自己肯定感が高かったのですか?

N 全然そんなことなかったです!自分に自信が持てるようになったのは、ごく最近なんです。フォトエッセイを出した頃から、誹謗中傷にもあまり傷つかなくなってきました。

S 「これが自分なんだ」というアイデンティティが見つかったのが、すごく大きかったのでしょうね。

世間の決めつけや固定観念を疑う

S 性別によって、周囲の対応や人生の選択肢が変わってくることの多い社会の中で、中山さんのようにあえて自分をカテゴライズしないと決断するのは、すごく勇気のいることだと思います。そもそも世の中が、そういう決断を許してくれないことも多い。「それで結局は男女どっちなの?」などと、世間にとって理解しやすい結論を求められることも多いのではないですか?

N 本当に多いです。多すぎて、もはや悟りの境地ですね。というか、悟らないとやっていけなかった。「あなたは○○だから△△なはず」と固定観念でジャッジする言葉ではなく、「あなたはあなたなんだね。素敵だね」というポジティブな言葉があふれる世界にしなきゃいけないと強く思いますね。

S 固定観念といえば、私は今、結婚して2年目なんですね。私は家事が苦手で、仕事をしているほうが得意。夫が主に家事を頑張ってくれています。でもやっぱり、夫のことを「男なのに情けない」と言う人はいるし、自分でも「妻として、もう少し台所に立ったほうがいいのでは」と思ってしまうんです。夫と二人で納得したうえで役割分担をしているのに、それが「夫」「妻」のステレオタイプ的な役割に当てはまっていないことで、モヤモヤすることは多いですね。

N 自分も、ジェンダーのステレオタイプにずっと苦しめられてきたのでよくわかります。でも本来は、人が幸せになる権利は誰にもじゃまできないもののはず。家庭での役割分担も、誰がなんと言おうと二人が幸せならなんの問題もないはずですよね。

S あと、私は今、妊娠しているんですが、動画で妊娠を公表したとたんに「なんだかお母さんの顔になってきましたね!」と言われたりするんです。今までの人生で培ってきた私の表情や雰囲気が、妊娠してたったの数週間で急に変わったりするはずないのに。私は私のままなのに、「妊婦さん」という肩書が加わった瞬間から「幸せな妊婦さんらしい振る舞い」が求められている気がしてしまいますね。もちろん、みなさんの温かな気持ちは伝わっているし、とてもありがたいのですが。

N 自分の場合は、トランスジェンダーだと公表したせいか、常に苦悩していると思われがちで。「すごく深い闇を抱えた人なんだろうな」と、思われている気がするんです(笑)。でも本当に、全然そんなことないんですよ!

S 私の周囲にいる性的マイノリティの友人からも、同じ悩みを聞きます!

N 自分は写真ではあまり笑顔を見せないほうですが、真顔だからって深刻に悩んでいるわけではなくて、「今日は何を食べようかな」とか考えているだけなのに(笑)。心配してもらえることは本当にありがたいです。でも、「自分、意外と元気ですよ!」と声を大にして言いたい。

S そういう決めつけ、確かにありますね!誰だって、悩んでいる時間もあれば、能天気にすごす時間もあるのは当たり前なのにね。結局、そうやってカテゴライズしたほうが、ラクに相手のことを理解した気になれるからだと思うんです。本来なら、ひとりの人間を理解するには、すごく長い時間が必要なはずなのに。

N そうですね。そして自分の中にも、そういう偏見はたくさんあるんだろうなと思います。だから、人と交流する中で誰かを傷つけてしまったときは、ちゃんと謝れる人でありたいですね。

S 本当にそうですね。

N 「ごめんなさい」と「ありがとう」が言えること。いろいろ悩んできたけれど、今の自分の軸になっているのは、やっぱりこういった「人間として大切なこと」なのだと思いますね。

中山さん&シオリーヌさんのご自愛アイテム

夢中になれる瞬間をカメラで記録
「人の目を気にせず、好きなことに没頭している時間が何よりのご自愛」だと言う中山さん。大好きなディズニーリゾートでいい写真を撮ろうと始めたカメラにハマっている。「こだわり出すと、どんどんいいレンズが欲しくなるんです」。愛機はキヤノン EOS 5D


気持ちの沈む日は暖かい毛布にくるまって
シオリーヌさんの"ご自愛アイテム"は、ふかふかしたグレーの毛布。「何を考えても悲観的になってしまうような日は、いっそ何もしないと決めて、この毛布にくるまってソファに寝転がっています。不調は早めにキャッチして休んだほうが、回復も早いですね」


SOURCE:SPUR 2022年3月号「シオリーヌのご自愛SESSION」
photography: Kae Homma styling: Yuma Tagawa hair & make-up: Moeka Kanehara interview & text: Chiharu Itagaki

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