進化するクラフトの世界を牽引する「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ2019」。グランプリは漆の作家、石塚源太の手に

2013年にジョナサン・アンダーソンがクリエイティブ ディレクターに就任して以来、手仕事の重要性によりフォーカスするようになったロエベ。'16年に「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ」を設立した背景には、伝統と革新性、若々しさと深遠さを併せ持つ表現でブランドを活気づけてきたアンダーソンのクラフトへの情熱がある。

「毎年審査においてはロエベが伝えたいことを体現している作品を選ぶようにしている」と話すアンダーソン。3 回目となる今回は、100カ国以上の2500名を超える応募者の作品の中から、専門委員会が厳正な審査により29組のファイナリストを選出。ここには「クラフト、ファッション、アート、建築の境界をなくす、そして相互に影響し合うこと」を目指す、この賞に関する彼の哲学が反映された作品が揃ったと言える。

そんな中から、選考委員長のアナツ・サバルベスコア(スペインの有力紙「エル・パイス」建築・デザイン担当評論家)以下、ジョナサンや深澤直人(デザイナー、日本民藝館館長)やパトリシア・ウルキオラ(建築家、工業デザイナー)、ワン・シュウ(プリツカー賞受賞建築家)ら審査委員によって授賞式当日の朝に行われた「白熱した会議」(深澤)の末、グランプリに選ばれたのは、京都を拠点に活動する1982年生まれの作家、石塚源太だ。

授賞式の壇上で喜びを分かち合う受賞者たち。左から特別賞のハリー・モーガン、グランプリのプレゼンターとして登場した鈴木京香、グランプリを受賞した石塚源太、ロエベのクリエイティブ ディレクターでこの賞の発案者であるジョナサン・アンダーソン、特別賞の高樋一人。石塚が手にしているのはイギリスの銀細工師、アレックス・ブログデンによるトロフィー。
授賞式の壇上で喜びを分かち合う受賞者たち。左から特別賞のハリー・モーガン、グランプリのプレゼンターとして登場した鈴木京香、グランプリを受賞した石塚源太、ロエベのクリエイティブ ディレクターでこの賞の発案者であるジョナサン・アンダーソン、特別賞の高樋一人。石塚が手にしているのはイギリスの銀細工師、アレックス・ブログデンによるトロフィー。
第3回の審査委員たち。後列左から ヴォルフボッシュ・ギャング(ミュンヘン専門職業商工会展示及び展覧会部門代表)、ディヤン・スジック(エッセイスト、デザイン・ミュージアム(ロンドン)館長)、深澤直人(デザイナー、日本民藝館館長)、ベネデッタ・タグリアブエ(建築家、プリツカー賞審査員)、ワン・シュウ(建築家、プリツカー賞審査員)、ホンナム・キム(韓国ナショナル・トラスト会長)、アナツ・サバルベスコア(選考委員長、「エル・パイス」建築・デザイン担当評論家) 前列左から ジョナサン・アンダーソン(ロエベ クリエイティブ ディレクター)、ジェニファー・リー(ロエベ ファンデーション クラフト プライズ 第2回グランプリ受賞者)、パトリシア・ウルキオラ(建築家、工業デザイナー)
第3回の審査委員たち。後列左から ヴォルフボッシュ・ギャング(ミュンヘン専門職業商工会展示及び展覧会部門代表)、ディヤン・スジック(エッセイスト、デザイン・ミュージアム(ロンドン)館長)、深澤直人(デザイナー、日本民藝館館長)、ベネデッタ・タグリアブエ(建築家、プリツカー賞審査員)、ワン・シュウ(建築家、プリツカー賞審査員)、ホンナム・キム(韓国ナショナル・トラスト会長)、アナツ・サバルベスコア(選考委員長、「エル・パイス」建築・デザイン担当評論家) 前列左から ジョナサン・アンダーソン(ロエベ クリエイティブ ディレクター)、ジェニファー・リー(ロエベ ファンデーション クラフト プライズ 第2回グランプリ受賞者)、パトリシア・ウルキオラ(建築家、工業デザイナー)

京都市立芸術大学とロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学んだ石塚の作品は、すでに国際的な賞をいくつも受賞しているほか、ヴィクトリア&アルバート博物館やミネアポリス博物館にも所蔵されている。受賞作「Surface Tactility #11」は、スチレンフォームの球体を布で包んで生まれる三次元の立体を乾漆で仕上げた、以前より取り組んでいるシリーズの中のひとつ。スーパーマーケットにあったメッシュ袋入りのオレンジにインスパイアされたというフォルムと、漆を塗り重ねているのに透明感を感じさせる、不思議な質感が魅力だ。

石塚源太「Surface Tactility #11」2018年
見事グランプリに選ばれ、賞金€50,000を獲得した石塚源太と「Surface Tactility #11」2018年

授賞式の壇上では「ロエベ クラフト プライズに参加することは重要だと感じていた。ファイナリストに選ばれただけでほっとしていたのですが、グランプリを獲ってびっくりしています」と話した石塚。彼を選出した理由について、アンダーソンは「彼は伝統的な漆の知識が深く、その技術を使って次世代の作品を作り出したことが素晴らしい。審査員の間でも、この作品は今の時代に何が起きているかを表現していると評価されました」とコメント。また、「1000年前、あるいは1000年後にあってもおかしくない作品」と激賞した。

特別賞を受賞したハリー・モーガンと受賞作の「'Untitled' from Dichotomy Series」2018年
特別賞を受賞したハリー・モーガンと受賞作の「'Untitled' from Dichotomy Series」2018年
同じく特別賞を受賞した石塚源太と「Surface Tactility #11」2018年
同じく特別賞を受賞した高樋一人と「KADO (Angle)2018

一方、特別賞に選ばれたのは、エディンバラを拠点とする1990年生まれの彫刻家、ハリー・モーガンによるガラスとコンクリートの作品「‘Untitled from Dichotomy Series」と、北海道立農業大学校やリーズ大学などで園芸とアート、ガーデンデザインを学び、長年イギリスを拠点にアーティストとして活動を続ける1972年生まれの高樋一人の「KADOAngle)」。前者について前出の審査員のワンは「建築家の目から見ても非常に重要」がコメント。また後者についてはウルキオラから「素材を育てるところから始めて、美しい作品に昇華させた」、気持ちのこもった作品である部分を賞賛するコメントが寄せられた。

受賞作以外にも、炻器や磁器、ガラスや木、金属や紙、リネンやコットンといった多様な素材を使い独自の表現を行った、素晴らしい作品が揃った今回。サバルベスコアは「ロエベ ファンデーション クラフト プライズは静かで謎めいた、奥深い世界の入口。皆さん全員がクラフトの世界の勝者です」とファイナリストたちを讃えた。またアンダーソンは「今年の審査はたいへんになるだろうと思っていた。応募の数も多く、中でも一番多かったのが日本からの応募でした。今回選ばれなかった人たちも、ぜひ来年以降再チャレンジしてほしい。今回グランプリを受賞した石塚さんは過去にも応募してくれている。技術を持ちクラフトに携わっている人なら誰でも歓迎です」と話していた。

ファイナリスト29名の作品が、イサム・ノグチの「石庭」に映える展示。
ファイナリスト29名の作品が、イサム・ノグチの「石庭」に映える展示。

ファイナリスト29組の作品は、2019722日(月)まで、東京・赤坂の草月会館内の石庭「天国」にて展示。イサム・ノグチが手掛けた「石庭」の中で、世界のクラフトの最前線に触れてみてほしい。また、会期中の土曜日14:0015:30には、草月会館2F談話室にて、川上典李子(ジャーナリスト/21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクター)をモデレーターに迎え、多彩な面々によるトークセッションも開催。先着順なので、興味のある人はぜひ足を運んで。

 

「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ2019 エキシビション」
会期:〜2019722日(月)※会期中無休
時間:10:0019:00 金曜 10:0020:00
会場:草月会館(東京都港区赤坂7-2-21
入場料:無料
※トークセッションの詳細についてはホームページを参照のこと
http://craftprize.loewe.com/ja/home

 

text : Shiyo Yamashita

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進化するクラフトの世界を牽引する「ロエベの画像_1
授賞式の壇上で喜びを分かち合う受賞者たち。左から特別賞のハリー・モーガン、グランプリのプレゼンターとして登場した鈴木京香、グランプリを受賞した石塚源太、ロエベのクリエイティブ ディレクターでこの賞の発案者であるジョナサン・アンダーソン、特別賞の高樋一人。石塚が手にしているのはイギリスの銀細工師、アレックス・ブログデンによるトロフィー。
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第3回の審査委員たち。後列左から ヴォルフボッシュ・ギャング(ミュンヘン専門職業商工会展示及び展覧会部門代表)、ディヤン・スジック(エッセイスト、デザイン・ミュージアム(ロンドン)館長)、深澤直人(デザイナー、日本民藝館館長)、ベネデッタ・タグリアブエ(建築家、プリツカー賞審査員)、ワン・シュウ(建築家、プリツカー賞審査員)、ホンナム・キム(韓国ナショナル・トラスト会長)、アナツ・サバルベスコア(選考委員長、「エル・パイス」建築・デザイン担当評論家) 前列左から ジョナサン・アンダーソン(ロエベ クリエイティブ ディレクター)、ジェニファー・リー(ロエベ ファンデーション クラフト プライズ 第2回グランプリ受賞者)、パトリシア・ウルキオラ(建築家、工業デザイナー)
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見事グランプリに選ばれ、賞金€50,000を獲得した石塚源太と「Surface Tactility #11」2018年
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特別賞を受賞したハリー・モーガンと受賞作の「'Untitled' from Dichotomy Series」2018年
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同じく特別賞を受賞した石塚源太と「Surface Tactility #11」2018年
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ファイナリスト29名の作品が、イサム・ノグチの「石庭」に映える展示。
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会場に勢揃いしたファイナリスト29組。応募者の数は昨年の約2000名から飛躍的に増え、審査は熾烈を極めた。
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平井明子「The Moon Jar “The Life of…”」2018年
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アンドレア・ウォルシュ「Collection of Contained Boxes」2018年
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アニー・ターナー「NET」2017年
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デロス・ウェーバー「Geisha Handbag Series」2016年
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エルカ・サダ「Eolophus(Hallstattpiece)」2018年
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石塚源太「Surface Tactility #11」2018年
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ジャンパオロ・バベット「Collana」2017年
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ジョヴァンニ・コルヴァヤ「Mandala Bowl」2017年
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ハリー・モーガン「'Untitled' from Dichotomy Series」2018年
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ヘースン・コン「A Regular Sign」2018年
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エナル・イグレシアス「Confübius」2018年
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ジム・パトリッジ&リズ・ウォルムズリー「Curved Block Seat」2018年
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ジンフェン・ファン&ミ・ドン「Hui」2018年
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ジョン・エリック・バイヤーズ「Reveal Table」2018年
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ヨクム・リンド・ジェンセン「The Dark」2018年
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森順子「Propagation Project; Nigelia Chrysanthemum」2017年
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高樋一人「KADO(Angle)」2018年
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井尾鉱一「Three Legs Vase」2018年
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キー・イェオン・ソン「Innatus Forma」2018年-1、2018年
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西川雅典「From of the wind」2018年
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中田真祐「Flame」2018年
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ミハル・ファーゴ「Blue Velvet from the “Soft Accents” Series」2018年
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ミンヒ・キム「Funeral Clothes for the Women」2018年
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ルット・ペータース「Suctus」2018年
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藤掛幸智「Vestige」2018年
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道川省三「Tanka with Silver」2018年
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ソフィー・ローリー「Khadi Frays」2018年
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橋本知成「Rain Box」2018年
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ヨンソン・リー「Cocoon Top Series 1」2016年
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