自身を「生粋の食いしん坊」だと語る吉高由里子さん。取材のためのアンケートには食への熱い想いがしたためられていた。舌の記憶に刻まれた愛しの味からインスピレーションを広げた装いに包まれたら、たまらなく口福な時間が待っている
パワーをくれる、最愛フード

「作品に入っている期間など、忙しかったり疲れているときほど『お肉〜!!』と欲するんです。そんな日は帰りがけにスーパーへ駆け込み、塊のお肉を買って焼きます。塊なら250g、お店で食べる焼き肉ならおそらく400gは食べちゃってると思います。味つけはおろしポン酢やニンニクソース派。ちなみに牛も豚も鶏も……みんな好きですよ。それにしてもこのステーキの分厚さに、度肝を抜かれたんですけど(笑)」。エナジーがみなぎる赤色のトップスで、食べる準備は万端!
初めまして「彩美卵 寿」

「1粒500円の梅干しとか1個1000円の苺とか、気になっちゃう。その流れでグルメサイトでチェックしていたのが『彩美卵 寿』(4個で3980円)。もともと卵のファンなんです。だって、合わない料理を探すのが難しいくらい。出し巻きにもスクランブルエッグにも茶碗蒸しにもなれる、そんなところも好き。人は最期、シンプルな料理を欲すると言いますが、そういう文脈で、『彩美卵 寿』の卵かけご飯は憧れの食。欲を言えば、キャビアをのせて味変してみたい(恥)」。卵色のスタイリングで、潔く向き合いたい。
蟹と奏でる至上のひととき

「高校生の頃、初めてのアルバイトでいただいたお給料で食べたのが蟹。それくらい大好物なんです。生で食べるのも、お寿司にするのも、しゃぶしゃぶするのも好き。ちょっと面倒ではあるけれど、大仕事のあとのご褒美に行く高級なお店だと、プロの方がむいてくれますから(笑)。そして、蟹を食べられる時期はきちんとスケジュールを立てないと出合えないところにも特別感があるんですよね」。テーラリングの正装をチョイス。足もとには、甲殻類の仲間を忍ばせて。
海の向こうの漆黒リゾット

「海外では、自由を感じてアドレナリンが出るのか、いつも以上においしく感じる。その中で最も忘れられない一皿が、スペインの、何もなさそうなストリートに突如現れた気さくなレストランのイカスミリゾット。決して食欲をそそる色ではない漆黒の食べ物は、人生初という衝撃と中毒的なおいしさに魅了され、次の日も食べに行ってしまったほど。ちなみについ先日、さばき方がよくわからないにもかかわらず、生イカを買いまして。墨袋を破いてしまい、キッチンが大変なことになりました(涙)」。モノトーンでシックに食す。
デザートのうれしい誘惑

「チーズケーキやタルト、パンナコッタとか。派手ではないけれど、味の深いものが好み。小さい頃、チーズケーキはレア派だったけど、大人になって国境を越えてみたら、バスクチーズとかベイクドやスフレも好きに」。撮影後すぐにパクッと平らげた彼女。そんな姿をキャンディーのようなアクセサリーが盛り上げる。
食も服も、その日にできる最高のご褒美
Yuriko Yoshitaka
1988年東京都出身。2006年、俳優デビュー。2008年、映画『蛇にピアス』に主演し、日本アカデミー賞ほか、数々の新人賞を受賞。2014年、NHK連続テレビ小説「花子とアン」に主演。ほかドラマ「知らなくていいコト」「最愛」など話題作に多数出演。今年10月から本多劇場での舞台『クランク・イン!』に出演。2023年にはテレビ朝日1月期火曜ドラマ「星降る夜に」(よる9:00)も出演が決定。2024年放送のNHK大河ドラマ「光る君へ」では主人公の紫式部を演じる。

年に1本くらい作品に取り組み、残り半年は考えたり、勉強する時間を取るようにしている」と話す吉高さん。この企画を快諾した理由を尋ねると「ファッションもフードも、どちらも好きなジャンルだし、掛け合わせた企画ってなかなかないから『あれ? なにごと!?』と(笑)。洋服を楽しみながら食べ物に囲まれるのは幸せだなと思います」とうれしいお言葉。
インタビュー中も時折、「ふふ、食いしん坊でよかった!」と笑う彼女。食への目覚めは幼少期までさかのぼる。
「当時は兄と競い合うように食べていました。私の食い意地のせいで、ある日を境に大皿から個別に取り分けられるようになったほど(笑)。昔から腹八分目で収めたことがなく、いつも『おなかいっぱい!』って言っていた」
こんな可愛いらしいエピソードも。
「マグロの赤身を知らずに中トロを覚えた子どもみたいに、小さいぶどう5粒分の魅力が詰まった巨峰のおいしさに衝撃を受けて。幼稚園か小学校の卒アルのどちらかに、『巨峰屋さんになりたい』と書いた記憶が。もう一方は『魔法使いになりたい』らしいのだけど、どちらも今となっては恥ずかしい(笑)」
母の日に北九州へお寿司を食べに行った話。マネージャーと食事に行く際は、吉高さんがジャンルの異なる店の候補を3つ挙げ、食べたいものを選んでもらう話。仕事帰りに活気のあるスーパーに立ち寄り、鮮度のいい肉や魚に出合うと「うわぁ」と目からときめきをもらい、調理法がわからなくても、自分で調べてなんとか調理している話——。食へのあくなき探求心と、愛がほとばしるエピソードがたくさん。〝食べることは生きること〟なんだと気づかされる。
「以前は2週間もあればイタリアやスペイン、タイに韓国など海外へふらっと行っていたけれど、今はそれがかなわない。その代わり、というわけではないけれど、食はその日のうちにできるご褒美ですよね。エステと答える人もいると思うけど、私は絶対に食! おいしいというだけで心がふっと和むし、救われる。軽快にもなるし、頑張ろうとも思える。人とのコミュニケーションでもあって、仕事の原動力になっているんだと思います」
忙しい日が続くときほど、おいしいものを欲する!
自分という大地にしっかり根を張りながら、あらゆる重圧も軽やかに飛び越え、確実に結果を残す。仕事と向き合う際の心がけはあるのだろうか?
「作品ごとに、自分とも仕事とも十分に向き合う時間を取らせてもらっているので、責任感は強くなりますよね。毎回必死ではあるけれど、自分がその現場を楽しく過ごそうと思ったら、丁寧に挑めるんじゃないかな、と」
5月には、2024年のNHK大河ドラマで紫式部を演じることも発表された。
「仕事に関して『やるかやらないかは、最終的には自分で決めていいよ』と言われるけれど、マネージャーのほうが私以上に私のことを知ってると思うから、基本はおまかせなんです。ただ、大河ドラマのお話をいただいたときは、『やったぁ! 夢がかなった! やるよね!』って。あ、マネージャーさんたちがね(笑)。私自身は現実だとは受け止めきれてなくて、今も目の前には10月から始まる舞台の稽古が待っているから、まだどこか他人事のような気もしていて……。実感が湧くのは、いよいよ作品が始まるぞっていうときと、終わったあとなんじゃないかな」
今回の撮影中も、取材スタッフにはウィットに富んだツッコミを入れて周囲を和ませ、楽しそうにお弁当を食べる。かと思えば、撮影後にカットされたステーキを配る細やかな姿も。まるで人を幸せにする魔法使いのよう。
「場づくりみたいなことは考えてないですよ。目標にする女性とか、これからどうしていきたい?みたいなことは取材でよく聞かれますが、それもなくて。ただ、人として〝また会いたいな〟と思われる人間になれたらいいな、とはずっと思っています。実は10代の頃に大事故で集中治療室に入ったとき、『あんな言い方しちゃったな』とか『お礼言えなかったな』と走馬灯のようにぐるぐる巡って。死に直面したことで『ごめんなさい』と『ありがとう』は絶対その場で素直に言えるようになりたい、ならなきゃダメだなと。そういう経験があったからこそ、とがっている自分がそぎ落とされ、こうでなきゃ、こう見せなきゃという気持ちがまるでなくなった。そのせいで周りの大人は手を焼いたと思うけど、やっぱりこの考えに行きついちゃうんです」
「やるべきことや仕事が続くときほどおいしいものを欲する」と語る吉高さん。次々と大きな仕事を控える今、気合を入れる日のメニューや、自分なりのこだわりはあるのだろうか?
「絶対コレという勝負メシはなくて、その日に自分が食べたいものを食べること! おしゃれに関して言うと、焼き肉ならいっぱい食べられて丸洗いできる服。イタリアンなら普段着ないような柄もののブラウス、フレンチならはりきってベレー帽をかぶったり(笑)」
彼女はどこまでも愛くるしく、飾ってないのに、光っている。
SOURCE:SPUR 2022年9月号「自分への最上のご褒美 吉高由里子のフーディ幸福論」
model: Yuriko Yoshitaka photography: Saki Omi 〈io〉 styling: Yusuke Arimoto 〈7kainoura〉(fashion), Mamoru Hinata (prop) hair & make-up: Ryo cooking: Kimiko Hiyamizu text: Yukino Hirosawa cooperation: AWABEES, UTUWA, BACKGROUNDS FACTORY