ヌーヴェル・ヴァーグ映画でおさらい、永遠のフレンチ・スタイル

ヌーヴェル・ヴァーグ(新しい波、の意)とは、1950年代末から約10年間続いたフランス映画の動向のこと。それまで主流だった叙述的な映画とは全く異なり、ルールに囚われないカメラワークや編集技術、そして何より即興性を特徴とした、新しいスタイルでした。中でもフランソワ・トリュフォーやエリック・ロメールらと並んでこの動きを牽引したのが、ジャン=リュック・ゴダール。今では監督作品約50を数える彼の回顧上映会が、パリのシネマテーク・フランセーズで開催中です。後援は、映画や女優との関わりが深い、シャネル。ちなみにこの春夏コレクションで、シャネルのアーティスティック・ディレクター、ヴィルジニー・ヴィアールはヌーヴェル・ヴァーグからインスパイアされたとか。

哲学的な台詞、大胆なキャスティング、そしてグラフィックな映像のシーケンス……。ジャン=リュック・ゴダールは、モノクロ映画『勝手にしやがれ』(1960年)でヌーヴェル・ヴァーグの幕を開けました。ジャンポール・ベルモンドと共演したジーン・セバーグは、ベリーショートにキャッツアイのサングラスやボーダーTシャツを着こなして、一躍ファッション・アイコンに。折しも、公権運動を巡る活動家としての彼女をクリスティン・スチュワートが演じた映画『セバーグ』はアメリカで公開されたばかりです。もう一つゴダール映画の金字塔は、ブリジット・バルドー主演の『軽蔑』。カプリ島の絶壁の上に建つマラパルテ邸から、テクニカラーの小道具や衣装、ジョルジュ・ドルリューによるメランコリックなテーマソングまで、この映画はどこを切り取ってもスタイリッシュです。一方ゴダール映画において、そして彼の私生活でも最も重要な役割を果たした女性は、去る12月14日に他界したアンナ・カリーナ。『気狂いピエロ』のマリアンヌを始め、彼女が演じたのはいずれも、本人とも重なる自由奔放で意志の強い女性たちでした。ちなみにアンナ・カリーナという芸名の名付け親は、他でもないガブリエル シャネルだとか。女優を目指してコペンハーゲンからパリに移り、当面モデルをしていたアンナ(本名ヘンネ)がたまたま会ったのがシャネルだったのです。

その後ゴダールはアンナ・カリーナと離婚し、「中国女」の主役を演じた若手女優アンヌ・ヴィアゼムスキーと再婚。5月革命(1968年)の頃の二人を描いた映画「グッバイ ゴダール」(2017年、ミッシェル・アザナヴィシウス監督作品)で、アンヌを演じたのはステイシー・マーティンです。この機に、ゴダール映画と関連作品をみながら、永遠のヌーヴェル・ヴァーグ・スタイルをおさらいしてみませんか?

Jean-Luc Godard 回顧上映会は1月8日〜3月1日
La Cinémathèque Françaiseにて。51, rue de Bercy 75012 Paris

Text: Minako Norimatsu

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ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
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