ザ・シンプソンズとバレンシアガのコラボアニメ、シャネルのバーチャル舞踏会……動画で振り返るパリコレクション

今回のファッションウイークで目立ったのが、さまざまなアイディアによる動画でした。まずフィルムのクオリティ自体を評価したいのは、マリーン・セル。パリの歴史を語るミュージアム、ミュゼ・カルナヴァレでは、回廊にFichu pour Fichuと題された最新コレクションのルックを着せたボディを設置。そして美術館の庭ではショート・フィルムOstal 24の上映会が開かれました。若手ディレクター、サシャ・バルバンとライアン・ドゥビアゴによるこの作品では、田舎の一軒家とその庭で友人たちが繰り広げる1日を、まるで儀式の連続のようにシュールに描いています。

一方技術賞とでも呼びたいのが、クリスチャン・ルブタンのプレゼンテーション。絵画を四方の壁に投影させて見せる体験型ミュージアム、11区のアトリエ・デ・リュミエールのシステムを利用して、実際の最新作が幻想的な動画と交錯する形で紹介されました。嬉しいのは、ルブタン・ワールドの拡張現実を、どこでも体験できること。このリンクからResee the event を、次いで矢印をクリックし、各アイテム上のカーサーを移動すると現れるQRコードをスマートフォンで読み取ると、まるで靴やバッグが目の前にあるように感じられます。また、Discover the collectionをクリックすると、万華鏡のような画像が動き出し、さらに矢印を左右にスワイプすると、また別の動画が。こういった最新技術は、今後のプレゼンテーションに積極的に取り入れられるかもしれません。

そしてアイディア賞は、バレンシアガに!定刻を少し過ぎた頃、シャトレ劇場の大型スクリーンでは、会場入り口に設置されたフォトコールの生中継が始まりました。遅れてやって来たゲストたちの入場風景に混じって、最新ルックをまとったモデルが映し出されると、スクリーン右下にはルックナンバーが現れ、会場には歓声が。まるで映画祭の中継のような仕掛けに、コレクションのタイトル「レッド・カーペット」の意味がやっと明らかになったのです。そして全ルックが披露され、生中継が一段落したかと思うと、今度はフィルムの上映がスタートしました。フィルムは何と、バレンシアガとザ・シンプソンズのコラボレーションによるアニメーション(2021 20th Television / Balenciaga)。つまり、私たちはこのフィルムの試写会に招かれたゲスト、モデルたちは映画祭でのセレブに見立てられたわけです。シンプソン一家の父、ホーマーが妻マージの誕生日にバレンシアガのドレスを贈りたいものの予算が見合わなかったところ、デムナがカップルをパリに、しかもバレンシアガのショーに招くと言うストーリーを、ぜひ見てみて下さい。

そしてファッションウィーク終了翌日には、シャネルと関わりの深いコレオグラファー、ブランカ・リーがシャイヨー劇場で繰り広げる、ゲスト参加型スペクタクル「ル・バル・ド・パリ」のプレビュー体験へ。最新技術による拡張現実を体験するため、ゲストたちはヘッドマウント装置だけでなく背中にリュック、手首と足首、膝にも特殊バンドと言う重装備をまといました。リュックに接続されたケーブルからのデータ送信が完了すると、ヴァーチャル・ダンス・パーティがスタート。まずは目の前に広がったシャネルのルックの一連から一つに触ると、自身が選んだドレスに着替えたのがわかります。そして参加者たちは、ダンサーたちに導かれてバル(舞踏会)で踊ると言う、粋な設定なのです。

パリで披露された動画を、その後も見られるというシステム。コロナ禍で発展された、新しい傾向だと言えるでしょう。

 Text: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

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