名前から入ったって、いいじゃない

ある著名な調香師へのインタビュー記事でこんなものがありました。「あなたの作った●●●は大ヒットしたのに、▲▲▲▲▲はイマイチでしたね。理由はなんでしょう?」。こんな無礼講な質問に、大御所が飄々と答えたのが「やっぱり名前かな。▲▲▲▲▲は意味が分かりずらかったよね、響きも長いし」。ずいぶんな推察だな、香りの成分じゃないんだ……とあっけにとられましたが、考えると一理ある。

香水は調合のテクニックもそうですが、それと同じくらい必要なのがイマジネーション。嗅覚という、ある意味主観的な、そして本能的な感覚に訴えかけるものだけに、創造力と物語性が重要になります。だから名前はとても、とても大切。

シンプルで強いこと。どんな創作においても大きな勝因となるこの法則がぴったり当てはまる名前を冠して生まれました。その名もBOY、どーですか! 正式にはボーイ シャネル オードゥ パルファム。よりラグジュアリーな「レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル」シリーズの最新作です。

リリースは去年の春でした。4月、出張先のパリでマレ地区にオープンしていたシャネルの美容専門店CHANEL PARIS LE MARAISに飾られていたのがこの香水だったんですね。おお、この名前は!一目惚れしました。香りを試す前に、ですよ。

ガブリエル シャネルの恋人だったアーサー・カペル、通称BOYにちなんで名付けられた香水は、フゼア系の香り。フゼアといえば元来メンズフレグランスに用いられるラベンダーやクマリン、ゼラニウムなどを主成分にした香り立ち。

映画『ココ・アヴァン・シャネル』でボーイを演じたのはアレッサンドロ・ニヴォラでしたが、男らしい!骨太!というより、繊細な線の細さが際立つイギリス人男性を体現するのにイイ雰囲気だったように思うのです。同時にこのフゼアには、ボーイと一緒にいるときの、メンズライクな服を着たオドレイ・トトゥの佇まいを感じさせる柔らかさもあります。

名前から入って、いいんですよ。ちょうど春の足音が聞こえてきたこの季節にも似合う爽やかな香り立ちです。この名前にピン、と来た人はぜひカウンターで試してみてください。

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エディターIGARASHI

おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。

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