映画『希望のかなた』は楽しく笑えて、でもそれだけではない

だいぶ前から公開をスタートしているので今更かもしれませんが。観てよかった、と心から思えたのです。アキ・カウリスマキの映画『希望のかなた(THE OTHER SIDE OF HOPE)』(弊誌では昨年11/23発売1月号の映画コラムで紹介しています……)。

アキ・カウリスマキといえば、私にとっては若かりし頃に観た『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』。極端なリーゼントにとがったブーツ、その音楽性といい、欧米の不良観を逸脱した何とも不思議なアウトローっぷり。「斬新で変わったものを受け入れられるワタシでいたい」という若気の至りから、「アキ・カウリスマキいいよね~」と友人としきりに言い合っていた思い出が。

『希望のかなた』はシリア難民、カーリドが主人公(疲れ目には彼が山田孝之に見えてしかたなく、それゆえ妙に親近感がわく)。舞台はフィンランドですが、ミレニアル世代やSNSは何処へやら、時がとまったような前近代的な世界の描写ひとつひとつが味わい深い。タバコがカンバセーション・ピース、健康度外視の煙モクモクな世界。ブラウスから透けるやぼったいブラジャー。赤やピンクのプラスティックなカーラー。ダサいはずなのに、妙にかっこいい。『レニングラード~』から何年も経っていますが、カウリスマキ節は今でも健在、今でもファッショナブルなんです。

風変りで可愛い世界観にどっぷりつかり、ときに笑い、展開にハラハラする。映画らしい楽しさを大いに満喫できますが、それだけではない。

近頃の世の中は非力な自分には到底太刀打ちのできないくらい、暗く大きなうねりを見せていて、誰もが不安と悲観をうっすらと胸に秘めています。それでも個々の小さな善意が積み重なれば状況は良くなるかもしれない。この映画は観客にささやかな希望を抱かせつつ、そうは甘くない……という残酷な現実も静かにつきつけます。今を生きる一市民として、観てよかったと思えるトラジコメディです。

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エディターNAMIKI

ジュエリー&ウォッチ担当。きらめくモノとフィギュアスケート観戦に元気をもらっています。永遠にミーハーです。

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