わたしたちの中にある静かな情熱を描く映画『Red』

赤と聞いて思い出すのは、どんなイメージでしょうか?
血の色であり、情熱の色。朝日や燃えあがる炎のように、能動的で激しいイメージがある色でもあります。しかし情熱を秘めながらも、こんなにも静かな赤もあるんだと知ったのが、映画『Red』です。

©2020『Red』製作委員会
©2020『Red』製作委員会


島本理生さんの原作を三島有紀子監督が映画化したもので、先週ついに公開になりました。主人公の塔子は32歳になる専業主婦。出産を機に仕事を辞め、夫とその両親と一緒に過不足なく暮らしています。しかしとあるパーティーで10年ぶりにかつての恋人と再会し、迷いはあるものの胸の高鳴りを抑えきれなくて……というあらすじだけ聞くと「ああ不倫を描いた作品ね」となってしまうのですが、この作品が魅力的なのは、恋愛だけではなく、人としてどう生きていくか、を見つめる作品だから。女性が出産するとなると、どうしても子育てと仕事や自分のやりたいこととのバランスで悩まずにはいられません。これはもちろん男性にとっても同じはずですが、世間はやはり女性だけの問題と捉えがちですよね。そういった少しずつの歪みを塔子は今まで考えないふりをしていましたが、かつての恋人に会うことでその歪みに耐えられなくなっていきます。果たして彼女がどんな道を選ぶのかは、ぜひ劇場で。

この映画を観て驚いたのは、圧倒的にセリフが少ないこと。すべての感情を、塔子を演じる夏帆さんと10年ぶりに出会う恋人を演じる妻夫木聡さんの表情や音楽、風景の描写が物語っているんです。言葉が少ないだけに一言ひと言の重みがずっしりとあり、じわ〜っと心に響きます。秘めた情熱を描いた映画『Red』で、自分の大切なものを振り返ってみてください。

島本理生さんの小説『Red』(中公文庫)もぜひ。映画の結末とは異なるストーリーです
島本理生さんの小説『Red』(中公文庫)もぜひ。映画の結末とは異なるストーリーになっています
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エディターMORITA

物心がついた時からパンツ派。今、一番興味があるのは、どうやったら居心地のよい部屋で暮らせるのか。美容、アート担当です。

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