難解なことはいいことだ。ミウッチャ・プラダによるPRADAのコンプリートコレクション

ファッションを勉強すると一口に言ってもさまざまな切り口がありますが、90年代以降のモード史を学ぶにあたっては避けて通れないデザイナーの一人がミウッチャ・プラダだと思います。毎シーズンプラダのコレクションをチェックしていてふと振り返りびっくりするのが、ミウッチャさんがデザインしたものが、2年後に流行ってる……ということ。時代精神を先取りする、どころではなくもはや時代の空気を作っている。そんなモードの神様ミウッチャ・プラダが手掛けた1988年秋冬~2019年春夏までの全シーズンをまとめた本があります。その名も「PRADA CATWALK」(スザンナ・フランケル著・テームズ・アンド・ハドソン社)。総ページ数631P、もはやこの分厚さ、重さは百科辞典といっても過言ではありません。各シーズンを象徴するランウェイ写真とともに、そのコレクションに対する解説が収録されています。

読みごたえがあるのは冒頭の「Fashion, Feminism, Femininity」。プラダの創業家の孫として生まれ、大学では政治を専攻後、ミラノのピッコロ座でパントマイムを5年間学んだ後、プラダのデザイナーに就任。以来女性へのエンパワメントを突き詰め、追究し続けてきたミウッチャ・プラダその人の生き様と言葉が描かれています。コロナ禍を経て、社会とファッションの結びつきがより声高に叫ばれるようになっていますが、彼女は30年以上前からそれを明確に意図していました。社会を服に映し出そうと奮闘し、女性のための服を作ろうともがいていたことが、ここから読み取れます。
印象的だった言葉は、「私が“Ugly”なものを作るときは完全に意図的なのです。常に自分が好きなことだけを作っていくと、結局それは退屈なものになってしまう。成長もなければ、なんの新しさもない。だから私は“bad”を取り入れるのです」。そうした思想から、センセーションを巻き起こしたナイロンのバッグや、「バナル」(平凡な)と呼ばれたミニマルなコレクションなど、当時良しとされていたものに反旗を翻すアイデアが生まれたのですね。


プラダのショーを見ていると、直球で「可愛い!」と思うシーズンのなかで、「正直よくわからないです」という気持ちになるショーがあります。たとえばミラノで拝見した2016年秋冬コレクション。初めて生で見るプラダのショーへの驚きももちろんありましたが、最初に思い浮かんだ言葉は「きれい」とか「着たい」ではなく、「難解……」。本当にたくさんの要素がコラージュされています。詳細は解説が収められているので省略するとして、彼女はこのコレクションに対して「女性の複雑さ」と表現しています。複雑で、難解であるというのはミウッチャさんによるデザインにおいて一つのキーワード。今は何事もわかりやすいことが良いとされ、ちょっと調べればある程度物事の表層は知ることができる。それで困らないように社会が回っているけれど、難解なことに対して自分の知識を総動員して挑み、答えがすぐに出なくても思考を諦めないことが本当はすごく大切なんだと痛感する今日このごろです。考え続ける。その訓練を、服というツールを使ってミウッチャさんは提示し続けてくれている気がするのです。

ちなみにこの2016年秋冬コレクションが発表された1~2年後、コルセットが街で散見されるようになりました。そしてここ2~3年とどまることを知らないネオンカラーの再燃も、そういえば2018年秋冬コレクションで発表されたのを見たときには非常に新鮮に感じたのでした。やはり、確実に時代のムードを作り続けています。

まだ読み始めたばかりですが、1990年代から2010年代のファッションの歴史を、これを用いてじっくりと勉強したいと思います。

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エディターITAGAKI

ファッション、ビューティ担当。音楽担当になったので耳を鍛えてます。好きなものは、色石、茄子、牧歌的な風景。

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