JIL SANDER
はじまりの朝に
現代的に再構築された強さとしなやかさの意匠。記念すべきブランドの新章に呼応し、ホンマタカシと市川実日子が描き出す特別な日常
SCROLL
鮮やかなブルーのクロップドニットに呼応するのは、リチャード・プリンスの作品に登場する車のボンネットのような立体的なパターンを施したスカート。90年代のモード界をけん引した創業者の純粋さをフレッシュに更新し、優しさと強さのコントラストで魅了する。
ニット¥162,800・スカート¥231,000・ピアス¥93,500・靴¥214,500/ジルサンダージャパン(ジル サンダー)
ボンディング加工を施したダブルフェイスのレザーコートをドレスのように。革ならではのリッチなニュアンスはそのままに、構築的でなめらかな着心地をかなえた。上質に仕上げた素材こそ、新たにブランドを率いるシモーネ・ベロッティならではのクラフツマンシップ。重厚感あるシューズは素足で。
コート¥1,735,800 ・バッグ「ピボット」¥371,800・リング¥74,800・靴¥214,500/ジルサンダージャパン(ジル サンダー)
垂直なシルエットのテーラリングは、高めのボタン位置で理知的な表情に。ニュアンスのある色彩、異なるテクスチャーなど、緻密に編集されたコントラストに視線を奪われる。真面目さと遊び心が共存するレースアップシューズや、弧を描くホーボーバッグも存在感を放って。
ジャケット¥407,000・ニット¥192,500・パンツ¥192,500・バッグ「ピボット」¥371,800・ピアス¥93,500・靴¥214,500/ジルサンダージャパン(ジル サンダー)
素材や色が異なるニットをコンテンポラリーに重ねた洗練のカラーブロッキング。レザーループにロゴをあしらったトリーテッド デニムが美しいシルエットを描く。ジル サンダー ウーマンは現代的なエレガンスを体現する。
ブラウンニット¥184,800・ピンクニット¥192,500・ブルートップス¥82,500・デニム¥192,500・バッグ「リネア」¥305,800・ピアス¥93,500・リング¥74,800・靴¥162,800/ジルサンダージャパン(ジル サンダー)
アーカイブスのテクニカルナイロンを更新したクリスピー・ファイユ素材のセットアップ。根源に立ちながら未来を見据え、"純粋さ"を限界ではなくひとつの方法として探求したコレクション。しなかやかに主張する女性像に市川実日子が共鳴する。
ブルゾン¥291,500・スカート¥162,800・ニット¥192,500・バッグ「リネア」¥305,800〈ポップアップ限定色〉・靴¥214,500/ジルサンダージャパン(ジル サンダー)
プロポーションはそぎ落とされ、ジャストフィットにシフト。ダブルレイヤーのニットに、90年代を思わせるストレッチウールのパンツをマッシュアップ。アンビバレントな自分を内包した現代女性のための新しいユニフォームだ。レクタングル型バッグも小粋なスパイスとして。
ニット¥250,800・パンツ¥192,500・バッグ「リネア」¥305,800〈ポップアップ限定色〉・リング¥74,800・靴¥214,500/ジルサンダージャパン(ジル サンダー)
Profile
市川実日子●︎︎いちかわみかこ 1978年生まれ。映画『blue』(’03)で第24回モスクワ国際映画祭最優秀女優賞、『シン・ゴジラ』(’16)で毎日映画コンクール女優助演賞に輝く。ドラマ「アンナチュラル」や「ホットスポット」など話題作に多数出演し、唯一無二の存在感を放っている。
Interview
with
Simone Bellotti
シモーネ・ベロッティ 独占インタビュー
「誠実なメッセージを発信したい」
photography/Takashi Homma
数々のメゾンで経験を積んだシモーネ・ベロッティが新天地、ジル サンダーで目指すものは?2期目のコレクションを準備している最中の1月中旬、本誌編集長の池田が話を聞いた。周囲から"シャイ"と形容される彼が語ったのは、クリエーションへの真摯な思いと、音楽への愛だった
- SPUR
(以下S)ミラノ・ファッションウィークでお会いしているのですが、覚えていらっしゃいますか? - シモーネ・ベロッティ
(以下B)覚えていますよ。ジル サンダーのコレクションはいかがでしたか?
- Sすごく気に入りました。私は以前からジル サンダーの大ファンなんですが、今回のコレクションも本当によかったです。
- Bそれはうれしいですね!
- S自分でもぜひ着てみたい服がたくさんありました。もう少し痩せていたらの話ですが(笑)。
- B製品化にあたってサイズを調整しますから大丈夫ですよ。ぜひ店頭で実際に手に取ってみてください。私自身もストアに並んでいるところを見るのを楽しみにしています。
- Sジル サンダーのクリエイティブ・ディレクターに就任してから約1年がたちましたが、ジル サンダーはそもそもどういう存在でしたか?
- Bあなたを含む多くの人と同様に、私にとってジル サンダーは非常に特別なブランドでした。「ジル サンダーは好きじゃない」と言う人に会ったことがありません。極めて重要なポジションを占めるブランドであり、それまでとは異なる新たな美意識を形成する動きの一端を担いました。しかもデビュー以来進化を遂げて独自の美意識を確立していった。従って、ひとつのブランドが年月を経てどう変化していくのか、どう時代に適合していくのか、われわれに見せてくれたという点においても非常に興味深いんですよね。デザイナーに就任した今、さらなる進化や変化に私も貢献したい。歴代のデザイナーを振り返ってみると、それぞれタイプが大きく異なるにもかかわらず一貫したブランドの哲学表現において高い評価を維持し続けていますから、彼らの跡を継ぐことができるなんて本当に恵まれていると思います。
- Sでは、ご自身のカラーをどう表現していきたいですか?
- B自分の中でもまだ明確な答えは見つかっていません。でも重要なのは、ブランドの"コード"を尊重する何かを実践することだと思っています。誰もがこのコードの意味するところを理解していますからね。だから私はその一部になる努力をしたい。クリエーションにおいて、最も大切なのは誠実なメッセージを発信すること、あるいは発信しようと試みることだと思うんです。自分自身にとってもブランドにとっても誠実なメッセージを。もちろんその成否は私自身が判断できることではなく、皆さんの意見がより大きな意味を持ちますし、何か失敗をしたときにも私に気づかせてくれるはず。とにかくいろいろな声に耳を傾けつつ、同時に自分のフィーリングも信じることが重要だと思います。
- Sあなた自身がジル サンダーというブランドを意識し始めたのはいつ頃のことでしたか?
- B私は90年代に育ちましたから、ジル サンダーにまつわる最初の記憶はやはり90年代のもの。当時ファッション・デザインを勉強していて、いろいろなデザイナーのコレクションを見るために、ミラノの10 CORSO COMOなんかに通っていました。ですから私の美意識に関しては、90年代半ばのジル サンダーが大きな影響を及ぼしています。広告キャンペーンも含めて当時のブランドは非常に革新的で、昔から多くのデザイナーやブランドにインスピレーションを与えています。それゆえに、私自身の声を見出すのはよりいっそう挑戦的なのです。
- S初めて自分のために買ったジル サンダーのアイテムを覚えていますか?
- Bええ。これも90年代の話ですが、なかなか手が出なかったんですよね。
- S気軽には買えない値段でしたね。
- Bそうなんです。ウールのクロップド丈のカーディガンをミラノのストアで購入しました。ボクシーなシルエットの、小さなショールカラーをあしらったデザインで、クラシックでありながらプロポーションは非常にモダンでした。その後失くしてしまって、美しいカーディガンだっただけに残念です。
- Sなるほど。私が初めてジル サンダーの服を購入したのは2005年頃。ファッションウィークの取材で出張していたとき、ミラノのストアでビスポークのスーツを仕立てたんです。今では細くて着られなくなってしまいました。
- Bそれは残念ですね!(笑)
- S先ほど"モダン"という言葉を口にされましたが、ジル サンダーにおいて"モダン"の要素は非常に重要だと感じます。あなたにとってモダンな人物とはどんな人を指すのでしょう?
- Bまず、90年代から現在までの間に世界は一変しました。われわれのコミュニケーションの方法も変わり、すべてがあまりに速いスピードで動いています。そんな今の時代におけるモダンとは何か? 私が思うに、少しミステリアスな物事がモダンなのではないでしょうか。常時自分がどんな生活をしているのかさらけ出すのではなくて。人にどう見られたいかではなく自分のフィーリングに意識を傾けることが、モダンになり得ると思います。エモーションについて語ること、フィルターを介さずにリアルであろうとすることもモダンなのかもしれません。
- S2026年春夏コレクションの話題に戻りますが、キーワードのひとつに「対比」が挙げられていましたね。
- B「対比」というのは、私が常に抱いているフィーリングなんです。ここで仕事を始める以前から、私は矛盾という概念の信奉者でした。われわれの人生がこんなにも素晴らしい旅になり得るのは矛盾にあふれているからであって、矛盾は人間のパーソナリティの一部分だと思うんです。私はブランドをひとりの人物として捉えることがあって、ブランドもまた矛盾や対比をはらんでいるように感じるんですよね。だからいつもひとつの方向を向いているのではなく、人生と同様、さまざまな方向性を象徴する要素を含んでいるのではないでしょうか。そして最も重要なのは、こうした要素のバランスを取って、調和あるいは不調和を見出すこと。どちらを選ぶかは、その時々のシチュエーション次第です。
- S音楽もあなたの人生において欠かせないものだと聞きましたが、コレクション発表に先立って「Wanderlust」を昨夏ローンチしましたね。就任して初めて手がけたプロジェクトがミュージックビデオとは!
- B音楽は、エモーションや記憶をつくり出す普遍的で最もパワフルなツールです。というのも音楽は手で触れることができないし、目に見えない。究極的には聴き手の記憶に刻まれるものですよね。音楽のそういう部分を私は愛しています。特定の曲からほんの数音を耳にしただけで、自分が若かった頃に連れ戻してくれたりしますから。そこで、何か新しいプロジェクトを始めようという話になったとき、音楽を軸にすることを提案しました。まだ広く知られていないニッチなミュージシャンを起用して。今回選んだボカム・ウェルトは、ブランドと同調する部分が多々あるアーティスト。以前『System』誌に掲載されたジル・サンダー本人とスタイリストのジョー・マッケンナのインタビューを読んだ際、彼女は音楽のことにも触れていました。ひとつのプロダクトのエッセンスを明確化する上で、音楽と照明は重要な役割を果たしていたと。そして私自身、仕事場から帰って自宅でゆっくり音楽を聴く時間を大切にしています。アンプなどのオーディオ機器はどれも日本製で、素晴らしいクラフツマンシップによって作られています。日本人はこの分野のマスターだと言えますね。
- Sそんなふうに言っていただけてうれしいです。どんな音楽が好きなんですか?
- Bジャンルごとに好きなアーティストがいます。たとえばジャズならマイルス・デイヴィスやチェット・ベイカー。クラシック音楽なら、バイオリニストのヤッシャ・ハイフェッツ、ピアニストのマウリツィオ・ポリーニ、チェロも大好きなのでジャクリーヌ・デュ・プレも挙げたいですね。現代の音楽に関しては、90年代育ちなので若い頃はジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダーやデペッシュ・モードが好きでしたし、ダフト・パンクも。最近ではコロンビア出身のリド・ピミエンタのアルバムをよく聴いていて、吉村弘などアンビエント系の日本人ミュージシャンにも関心がありますし、好きなアーティストが多すぎます。
- Sショーに使う音楽はどのように選んでいるのですか?
- B音楽好きの友人ルッジェーロ・ピエトロマルキと選曲していて、友人同士の意見交換を通じて選んでいると言えます。もちろん私自分が表現したいフィーリングや、コレクションを通じて伝えたいストーリーにも左右されますが、たとえばロマンティックなコレクションにテクノを使ったり、あえてハズすのも面白い。特に決まったフォーマットがあるわけではないんです。
- Sなぜこの質問をしたかというと、ラフ・シモンズが手がけたジル サンダーの最後のランウェイショーで、スマッシング・パンプキンズの曲“Tonight, Tonight”を使っていたのが、素晴らしかったことを思い出したんです。
- Bラフはあの時代の音楽を愛していましたからね。彼の音楽の使い方について興味深く感じるのは、一度使った音楽を、後に別のコレクションにも用いているという点です。スマッシング・パンプキンズも恐らく、ほかの場面でも使ったのではないでしょうか。それに、あなたがそのことを今も記憶しているのであれば、音楽が心に深く訴えかけたことを意味します。素晴らしいことですよね。
- Sちなみに、「Wanderlust」はレコードという形で発売されましたが、普段はレコードを聴くことが多いんですか?
- Bええ。携帯電話にはサブスクのアプリが入っていますが、自宅では使いませんし、レコードこそ音楽を聴くには最適の手段です。
- Sならば、去年10月に東京にいらしたときもレコードを購入されたのでは?
- Bそうなんです! 東京を訪れるたびにディスクユニオンの新宿店に足を運びます。何しろ数フロアにもわたってレコードを扱っていますし、クラシック音楽のセクションが素晴らしい。私が好きな昔のモノラル盤など、東京では毎回少なくとも10枚はレコードを買っています。
- Sこの春にも来日されるそうで、特にやりたいこと、訪れたい場所はありますか?
- B日本は何度も訪れているんですが、東京にしか行ったことがないので、ほかの場所に足を延ばすべきなのかもしれません。ただ、東京では退屈するということがない。いつも楽しいし、あらゆるものを買いたくなるので困ります(笑)。私が自分のための服を買うのは東京だけかもしれません。そしてあとはレコードとオーディオ機器です。秋葉原でショッピングをするだけでも1週間楽しめそう……。こうして考えてみると、私が日本を愛する理由は、何をやるにしても仕事が丁寧だという点にあるのかもしれません。
- Sあなたから見て、何がそれを可能にしているんだと思いますか?
- Bまずは忍耐力であり、リサーチ力、完璧さの追求、時間をかけること、あとは、クオリティへのこだわりでしょうか。
- S今後日本のクラフツマンシップ、あるいは素材をコレクションに取り入れる可能性はありそうですか?
- B何かコラボレーションを考えてもいいかもしれません。テーラリングのプロジェクトもいいですね。そういった試みはジル サンダーというブランドと親和性が高いと思います。先ほどビスポークのスーツの話をされていましたし。でも何らかのプロジェクトを行うとしても、それはサプライズとしてとっておきたいと思います(笑)。
- Sわかりました(笑)。そろそろ約束のお時間が来たので、この辺で終わりにしますね。次のコレクションに向けて大忙しだと伺いましたから。
- Bそうなんです。でも今日はお話しできて楽しかったです。東京でまたお会いしましょう!
INFORMATION
「JIL SANDER 2026 SPRING/SUMMER」ポップアップストア
新クリエイティブ・ディレクター、シモーネ・ベロッティが手掛けた2026年春夏デビューコレクションが、ついに国内初披露となる。場所は、伊勢丹新宿店 本館1階 ザ・ステージ。期間は、4月1日(水)~4月7日(火)までの1週間限定だ。新たな感性が吹き込まれたジル サンダーの特別なワードローブをこの機会にチェックして。