#18 虹色のサファイア【ヴァンリック】

大学を卒業するまで京都で生まれ育った。だから「たぬきうどん」は、刻んだ油揚げがのったあんかけうどんのことだと当然のように思って生きてきた。上京して初めて入ったそば屋で注文した「たぬきうどん」には、刻みきつねどころかあんかけすら使われておらず、かなりの衝撃を受けた思い出がある。関東の玉子焼きが甘いとは聞いていたが、関東のたぬきうどんが天かすだとは誰も教えてくれなかった。

個人的には大事件だった「たぬき騒動」のほかにも、身近なもので知ったつもりになっていることはたくさんある。「バンドエイド」や「オセロ」など、本当は商品名なのに一般名称として認識していたり、一色しかないと思い込んでいた野菜や花にも別の色が存在したり。宝石にいたっては恥ずかしながら初耳のことばかりで、日々勉強だ。知識を得るのは楽しいもので、新しいことを知るたびに目の前に虹がかかったような清々しい気持ちなる。

ところで、サファイアといえば深みのあるブルーのイメージが強いが、それ以外にもピンクやイエロー、グリーンなどさまざまな色がある。同じ鉱物でも含まれる不純物の違いで色彩が変化するのだ。無色透明に近いものからグレイッシュなものまでカラーバリエーション豊富な石なのだが、その中でもひと握りの赤い色だけは別格。それらはサファイアではなく「ルビー」と呼ばれる。つまり、サファイアもルビーも元々は同じ石というわけだ。初めて知ったときは目から鱗だったが、ここでひとつの疑問が生じる。ではいったいどこまでが“ルビーの赤”の領域なのだろうか。「俺か、俺以外か」という風に、明確な境界線を引くことはできるのだろうか。これに関してはプロの鑑定士の間でも見解が分かれるところらしい。

色の境界線はともかく、サファイアが多彩だということを証明してくれるのがパリ発のジュエリーブランド、ヴァンリックのリング。七色のサファイアが鮮やかなグラデーションのアーチを作り出し、その繊細な輝きをローズゴールドが引き立てる。角の取れた四角いフォルムはモダンで構築的な佇まい。つけると肌に溶け込むようになじみながらも、指先に小さな虹がかかる。なんとも夢心地なリングだ。この色とりどりのサファイアの粒をじっくりと眺めてみた。そこで赤の存在に気づき、再びさっきの疑問が浮かんでくる。これはルビーの赤じゃないんだ。どうみても赤いのに……。カラーストーンは奥が深い。だからこそロマンがあり、多くの人を魅了する。目の前できらめく虹色のサファイアが、そのことをチャーミングに物語っている。

リング〈18KRG、サファイア〉¥142,200 ※輸入関税込み・参考価格
リング〈18KRG、サファイア〉¥142,200 ※輸入関税込み・参考価格
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