心の窓から見えてきた新しい世界

未来に捧げる彼らの声

「家にいることが安全じゃない人の声を、
聞き逃さないで」

伊藤詩織――フリージャーナリスト、映像作家

「ステイホームが叫ばれる状況の中、普段聞こえない、聞かれてこなかった声が、ますます聞こえづらくなってしまっているのを感じます」
 ジェンダーに基づく人権をテーマにジャーナリストとして活動し、性暴力被害当事者として声を上げてきた伊藤詩織さん。コロナ禍で予定していた取材はなくなり、オフィスを構えるロンドンに帰ることもかなわない状況に歯がゆさを覚え、「私の仕事は外に出ないと始まらないし、ひとりでは何もできない部分が大きい。この状態がずっと続いてしまったらどうなるのだろう、今の状況下でできることは何だろうと考えながら過ごしています」と語る。

望まない妊娠、DVに脅かされる女性たち

 伊藤さんがFGM(女性器切除)の問題で取材を続けている西アフリカのシエラレオネでは、2014年からのエボラ出血熱の大流行で学校が閉鎖されると、子どもに対する性暴力が激増。学校再開時には、多くの女子生徒が妊娠していて、それを理由に登校を禁止された。

「その登校禁止令が、つい最近の2020年3月に解除されたばかりなのに、また同じことの繰り返しになってしまうのかとやりきれない思いです。最近、日本でも10代の女性の妊娠相談件数が上昇していることがニュースになりました。中には、シエラレオネのような性暴力によるものではなく、合意があったケースもあるでしょう。ただセックスエデュケーション(性教育)が足りていない中で、性行為自体には合意があっても、避妊についてきちんと話し合いがされていたのかについては疑問。今や世界中で望まない妊娠をする女性が増えていて、厳しいロックダウンを強いられている国ではより深刻な事態が起きています。たとえば、アメリカでは、中絶を手がけるクリニックが続々と閉鎖に。感染防止や医療従事者の不足も大きな要因ですが、中絶を快く思わない保守的な州を中心とした動きでもあり、今まで女性たちが頑張って勝ち取った権利が押し戻されていると感じます。かたやイギリスでは出張助産師のサービスが停止され、産科病棟や医療従事者も新型コロナウイルスの対応で必要とされるため、出産の場面でも女性は不安を強いられ、安全を脅かされているのです」

 コロナ禍において、DV(家庭内暴力)の報告件数が世界的に増加していることにも懸念を抱いている。

「すべての人にとって家がセーフな場所ではない。外出できず学校に行けない中で、弱い立場にいる女性や子どもが、その家庭で強い立場にいる人から暴力を受ける。密室での力のアンバランスは、性暴力が起きやすい構図とも重なります。助けを求められるのは家の外なのに、外に行けない人をどう助けるのかは、社会が取り組むべき大きな課題。家にいる状況では電話相談も難しいため、SNSやチャットでの相談が拡大していて、日本でも、チャットの相談窓口『DV相談+』(https://soudanplus.jp/)などの活動が始まっています。イギリスやフランスでは薬局のレジなどで合言葉を使うと、警察に通報してもらえるという取り組みも。最近は、家にいて近所の声が今までより聞こえるという人も多いと思います。子どもや女性の泣き声や叫び声が聞こえたらアクションを起こしたり、ひとり暮らしのお年寄りがいたら『何かお手伝いしましょうか』と声をかけるなど、個人レベルでできることを今は心がけていきたいですね」

PROFILE「Hanashi Films」主宰。孤独死を扱った監督作『Undercover Asia: Lonely Deaths』が国連共催のコンテストで高く評価された。著書に自らの性被害について告発するノンフィクション『Black Box』(文藝春秋)がある。

「YesはYes NoはNo」
イラストレーターの小林エリカさんらとの有志で、刑法の性犯罪規定に性的同意(性行為での同意)を盛り込むことを呼びかけるアニメーション動画を制作。