アクティビストが世界を変える

彼女たちはどう闘うか

2003年、小泉政権下で設定された「202030」という女性活躍推進の目標値には遥かに及ばず、男性優位の社会システムが続く日本。そこに問題意識を持ち、行動・発信を続ける3人が、海外の注目すべきアクティビストをそれぞれ紹介。その魅力を熱く語る

スプツニ子!さん

クリエイティブな闘い方に
刺激を受けています

Profile

すぷつにこ!●1985年生まれ。アーティスト。東京藝術大学デザイン科准教授。2013年からマサチューセッツ工科大学メディアラボ助教を務めた後、現職に。2019年TEDフェローに選出。2020年1月からオンラインサロン「Sputniko! Lab」を開始。

日本より一歩先を行く海外のアクティビスト。
彼女たちには国や世界を変える力強さがある

『東京減点女子医大』など、自らもアート作品で女性差別への問題提起を行なっているスプツニ子!さんが、まずピックアップしたのは、ニューヨークを中心に活動しているアーティスト集団ゲリラ・ガールズ。社会的なテーマを作品にしたアート・アクティビズムのパイオニア的存在で、1985年の結成以来、アート業界の女性差別や人種差別の問題を訴え続けている。「アート業界は、とても男性優位な世界。批評家もキュレーターも男性が多いため、男性作家の作品ばかりがコレクションされてきたという歴史があります。たとえばメトロポリタン美術館の現代アートセクションにおいて、コレクションされている女性作家はわずか5%。一方、ヌード作品の85%が女性のヌードを描いたもので、明らかに男性目線で描かれた作品が集められている。そういう数字をしっかりと見せながら、活動してきたのがゲリラ・ガールズで、私もすごく影響を受けました」
 パキスタンの著名な映画監督シャルミーン・オベイド・チノイも尊敬するひとり。ドキュメンタリー映画でパキスタンの女性たちの虐げられた現実を描き、アカデミー賞を受賞するなど、世界から高い評価を受けている。「パキスタンの一部のコミュニティには名誉殺人という悪しき風習があって、結婚や恋愛に関して、家長に従わなかった女性を家族が殺すことが容認されてきたんですね。その実態をチノイ監督が作品化したことで、パキスタン政府も名誉殺人の厳罰化に動きました。伝統や文化を変えるのは大変なことですが、映画の力でそれを成し遂げたのは本当にかっこいいなと思います」
 一方、コンピューターサイエンティストのジョイ・ブオラムウィーニ。「人工知能(AI)によるバイアス」という重要な問題に切り込み、AIに潜む差別構造に立ち向かう彼女の活動は、私たちの未来を大きく左右することになりそうだ。「通常AIというのは、現在と過去のデータを学習して最適な判断を下していくわけですが、そのデータには、実はさまざまなバイアスが潜んでいます。たとえば以前、某米国企業がAIを使った採用システムを開発したんですが、その企業は過去に女性をあまり採用してこなかったために、AIが『女性は採用すべきでない』と最適化してしまい、履歴書に『女性』というキーワードがあると自動的に減点するようになってしまいました。ジョイはまさにそのことに警鐘を鳴らしていて、世界中で講演活動をしたり、企業でコンサルティングをしています。その米国企業は問題にすぐ気がついてAIをやめる倫理観を持っていたけれど、日本の企業は気づくのだろうかと心配になりますよね。今後、社会の至るところにAIが実装されていくことを考えると、彼女が発信するメッセージはとても重要なものだと感じています」

Joy Buolamwini

人工知能に潜む差別や偏見に
立ち向かうサイエンティスト

いくつかの顔分析システムが、白いマスクをつけないと浅黒い肌を検知できないという事実を発見したことから、AIの偏見に立ち向かう運動を始めたジョイ

Sharmeen Obaid-Chinoy

映像の力で政府をも動かす
パキスタンの映画監督

恋人と駆け落ちして父親と叔父に殺されかけた少女を軸に名誉殺人の被害を訴えたチノイ監督。自身2度目のオスカーを手にした

Guerrilla Girls

美術界の差別を痛烈に風刺
するアート・アクティビズム

ゴリラのかぶりものをして、匿名で活動を続けるゲリラ・ガールズ

伊藤詩織さん

大事なのは勝ち負けでなく、
その人がどう生きるか

Profile

いとう しおり●1989年生まれ。ジャーナリスト。海外メディアを中心に、映像ニュースやドキュメンタリーを手がける。自身の性暴力被害について綴った『Black Box ブラックボックス』は2018年本屋大賞ノンフィクション部門にノミネートされた。

世界には世代を超えてロールモデルと
なってくれる女性がたくさんいる

 1989年生まれ、ミレニアル世代の伊藤さんが、まずは同世代として期待しているのが、2018年に史上最年少の29歳で下院に当選した、アメリカ民主党の政治家アレキサンドリア・オカシオ=コルテス。「NYのブロンクスに育ちプエルトリコ出身の母を持つ彼女は、いわゆる労働者階級の出身でバーテンダーとして働いていたこともありました。そういう当事者目線で発せられる女性としての息苦しさやマイノリティとしての生きづらさは、とてもパッションがあって心に響きます。同世代に彼女のような政治家がいることで未来に希望が持てます」
 SNSやインターネットツールをうまく活用しているのも若い世代のアクティビストの共通点。たとえばアフガニスタン出身のミュージシャン、ソニータ・アリザデは、10代の頃からYouTubeを通して児童婚への抗議活動を行なっている。「彼女自身、幼い頃に児童婚で親に売られそうになった経験があって、自分のつらい現実や、抑圧されている女の子たちの声をラップにしてYouTubeで発信したんです。それが大きな反響を呼び、本国の女性たちの意識を変えるきっかけをつくりました。環境活動家のグレタ・トゥーンベリも、たったひとりで学校を休んで始めた抗議活動が世界を動かすことになったというのは、本当にすごいこと。その行動力も驚きですが、SNSで世界の若者がつながることができたから大きなムーブメントが起こったと思う」
 一方「永遠のロールモデル」として名前を挙げたのは、2020年9月に87歳で亡くなるまで、27年間にわたり、アメリカの連邦最高裁判事を務めたルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)。「RBGは法の専門家として、法律によって性差別やマイノリティの不平等を正すという姿勢を最後まで貫き通したというところが本当にかっこいいなと思います。また、女性の権利向上だけでなく、法律によって男性が不利益を被る点にも着目して、男性であれ、女性であれ、人として公平に扱われるべきだというジェンダー・イクォリティに基づいて、一歩一歩法律を変えていった。その闘い方にはすごくエンパワーされました」
 さらに宮城県在住の在日朝鮮人で、日本で初めて元従軍慰安婦であることを明かした宋神道もまた、彼女がリスペクトする活動家。残念ながら3年前に亡くなっている。「過去を明かしたことで、侮蔑的な言葉を投げつけられたり、本当につらい闘いだったと思います。でも、損害賠償を求める裁判で負けてしまったとき、宋さんが『オレの心は負けてない』と言ったという話を北原みのりさんから聞き、思わず涙が止まらなくなりました。ちょうどその頃、私自身、難しい裁判を控えていたんですが、それは勝つための闘いではなくて、自分の尊厳を取り戻すために始めた闘いだったので、彼女の言葉がものすごく心に響いたんですね。勝ち負けの問題ではなくて、その人がどう生きたか。それを見せてくれる人が真のアクティビストだと思っています」

Alexandria Ocasio-Cortez

マイノリティの当事者として
飾らない言葉で訴えかける

AOCの愛称で親しまれるコルテス議員。今、若い世代のアイコンとなりつつある

Sonita Alizadeh

児童婚へのプロテストを
ラップにのせて発信

YouTubeで発信したラップ「Brides for sale」でブレイクしたソニータ・アリザデ

Song Sin-do

人間の尊厳を取り戻す闘いに
身を投じた元従軍慰安婦

元従軍慰安婦の宋神道。「慰安婦問題は政治的な問題にすり替えられがちですが、戦火の中で女性が性暴力にさらされるのは、世界のどこでも起こること。人間の尊厳にかかわる問題です」

Ruth Bader Ginsburg

法による差別の是正を
貫いたリベラル派判事

リベラル派判事として影響力を誇ったRBG。ドキュメンタリー映画『RBG 最強の85才』(’18)も必見

Greta Ernman Thunberg

たったひとりで世界を
動かした若き環境活動家

「Our House Is On Fire」と大人たちに問題を突きつけたグレタ・トゥーンベリ

温 又柔さん

言葉を通して、たくさんの
気づきをもらいました

Profile

おん ゆうじゅう●1980年生まれ。小説家。2009年「好去好来歌」で第33回すばる文学賞佳作を受賞し、作家デビュー。’16年『台湾生まれ 日本語育ち』で第64回日本エッセイストクラブ賞受賞。著書に木村友祐との往復書簡『私とあなたのあいだ――いま、この国で生きるということ』(明石書店)。

セクシストとの痛快な闘い方、
すべての女性に身につけてほしい!

 日本で育った台湾人として、マイノリティの視点から見た世界を言葉にしてきた温さん。今回選んだのも、書物を通して発信し続けるアクティビストが中心。まずは日本でも熱い盛り上がりを見せる韓国フェミニズム文学から作家のイ・ミンギョン。著書『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』は、男性の女性蔑視的発言に対して、どう答えるべきかを指南した日常会話のマニュアル本だ。「タイトルが示唆するように自分たちの言葉で語るときが来たと呼びかけながら、力強い表現でフェミニズムを提言しています。たとえば『なんでそれが女性差別なわけ?』と男性に質問されたとき、『それはね……』とつい丁寧に説明したくなりますが、相手が話を聞く準備ができていないのに、セクシストに神経をすり減らしてまで説明する義務はないと。考えるべきは相手のほうなので、『自分で考えろ!』と会話を打ち切っていいと指南したりしていて、とても痛快。実践的で、この闘い方はみんなが身につけるべき」
 続いて『ガール・ジン』の著者で、女性学の研究者アリスン・ピープマイヤーもユニークな方法でフェミニズムにアプローチしている。本書は少女や女性たちによる手作りの小冊子ジンに注目した学術書で、個人による情報発信の歴史を説きながら、女性らしさや母親像の変容、アイデンティティの問題を明らかにしていく。「第一章の『もしも私がこういうことを書かないでいたら、ほかの誰かも書きはしないだろうから』という見出しが響きました。何者でもない女性たちの小さな声を拾い上げることで、立派なフェミニズムとは違う、女性たちの闘いが見えてきます。また同じ痛みを抱える者同士がつながれる場所としてジンは存在していて、今のSNSとは違う、こぢんまりした空間だからこそ吐露できる心情もあったはず。それを再評価し、女性たちを勇気づける場をつくった彼女の活動を尊敬します」
 また「最近、著書を読んでたくさんの気づきをもらった」というのは、作家であり、画家でもあるスナウラ・テイラー。障害当事者でもある彼女は、障害者運動と動物の権利運動の担い手として発信し続けている。「テイラーは、障害者や動物が『保護されるのを待つ"声なき"存在』として扱われることに静かに抵抗しているのですが、『荷を引く獣たち』では、障害者と動物を抑圧している構造を検証し、両者を解放する道も交差しているのではないかと追求していきます。本書を読んで、いかに自分が健常者中心、人間中心の世界に生きていたのか突きつけられました」。ほかにも『バッド・フェミニスト』のロクサーヌ・ゲイや、台湾の政治家オードリー・タンにも注目していると温さん。「彼女たちの言葉をたどっていくと、この社会を構築するうえで、もっと別の可能性を探求することが必要だと考えさせられます。台湾は30年前は独裁国家だったことを考えると、30年あれば世界は変われる。それを信じたいです」

Alison Piepmeier

小冊子から拾った女性たちの
小さな声を検証し、ひもとく

『ガール・ジン』は、「栗田隆子さんの『ぼそぼそ声のフェミニズム』にも共通するものがある」

Sunaura Taylor

障害者と動物、その差別の
構造の重なりを問いかける

障害者と健常者、動物と人間を区別しているものは何なのかを問い続けるテイラー。「森崎和江の研究者でもある今津有梨さんによる翻訳で、訳者あとがきがまた素晴らしい」

Lee Min-gyeong

セクシストとの闘い方を
マニュアル化して伝授

2016年にソウルの江南駅で起きた女性刺殺事件をきっかけに沸き上がった、韓国における女性嫌悪や女性差別の問題。イ・ミンギョンも事件に触発されて筆をとったひとり

Audrey Tang

人権や民主主義の大切さを知る
トランスジェンダーのIT大臣

台湾のIT大臣で、トランスジェンダーでもあるオードリー・タン。「台湾の政権に彼女がいることで、とても勇気づけられます」

Roxane Gay

従来のフェミニスト像を
一蹴したオピニオンリーダー

エッセイ集『バッド・フェミニスト』で、「堅物で男嫌い」といった押しつけのフェミニスト像を蹴散らしたゲイ。パワフル!!