── 映画『SAYURI』(2005年)でのハリウッドデビューを機に、米ロサンゼルスに移住してから11年。監督としても2作品を手がけるなど、活躍の幅を広げている女優・桃井かおりさん、65歳。年齢不詳の「湯上がりたまご肌」で知られる彼女ですら、「年齢を重ねることを素敵としない風潮」に直面し、息苦しさを感じていたという。
「日本では、女性が年をとっただけで、本人はそう思っていなくても、落ちぶれたと見られがち。OLだとしたら、ちょっとかわいい後輩が入ってきた途端に、お局様扱いされたりするでしょ。自分では落ちぶれたと感じてなくても、周囲から押し付けられてしまう、あれ。何でなのか疑問だし、不安よね。特に男にはそういう傾向があって、嫌気がさしちゃった。桃井かおりっていう女優には、落ちぶれていくのは似合わない。だから、上手にフェイドアウトするつもりでLAに行ったの」。
── ところが、心機一転「自分で定年を決めよう」とLAに移住した桃井さんを待ち受けていたのは、予想外にもたくさんの出演オファーだった。
「 東洋人が若く見られるというのもあって、年齢のことは問題じゃなくなった。年を食った日本人の女優で、英語の役も日本語の役も受けて立つやつが不足してたのね。LAでは、女優として映画に出られるだけじゃなく、監督として作品だって撮れちゃうし、ボーイフレンドまでできた。あ、ここでなら上手く生きて行けそうだなって確信することができた。今では、おばあさんになったらおばあさんの役をやればいいし、もしかしたらおじいさんの役だってできるかもしれない。死んだら死体の役をやればいいやって感じ」。
── 「年を重ねるのは素敵なこと、これ当たり前よ。人は年を取るたびに、賢くなれる」と断言する桃井さん。そう確信するに至ったのは、ある実体験がきっかけだそう。
「私ね、50の誕生日に初めて逆上がりができたのよ。あれは、中谷美紀ちゃんと校庭でロケしてるときだったかな。鉄棒の前で『私、これができなくて陸上やめたのよ』なんて言いながらやってみたら、できちゃったじゃない! これまでの人生で、エレベーターや電車に滑り込みセーフしたりするうちに、いつの間にか逆上がりができるほどの経験値を積んでいたのね。あれだけ練習してもどうにもならなかったことが、年を重ねるだけでヒョイっとできてしまったってわけ。そういえば、自転車に乗れるようになったのも、大人になってからだった。撮影現場で、市川準監督に『桃井、自転車乗れるよね?』って訊かれて、『まっすぐ走ればいいんですよね? 本番でしかやれませんからね』ってやってみたら、乗れちゃった。頭で考えるんじゃなくて、身体で『年を取ったら自然にできるようになった』と実感できた経験が、自信に繋がったと思う」。
── 年を重ねながら様々な経験値を積むことで、力まずにできることが増えていく。それは、身体だけでなく、頭や心、生き方にも通じているのかもしれない。ウィットに富みつつも人生の核心に触れるエピソードを飄々と語る桃井さんの姿は、「人は年をとるほど賢くなる」のお手本のように見えた。