時は空前のフレグランスブーム。百貨店で開催される香水イベントでは、ニッチ系のメゾンに20代が列をなす光景も珍しくない。日本ではフレグランス全体の市場が毎シーズン25%上がっているという。そんな香りの現在地と2024年の動向を予測!
TOPIC1:2024年、香水のトレンドはどうなる?
時代を反映する香り。美容でもファッションでも“モテ”がキーワードだったときは、可愛らしいフルーティフローラルが全盛だったけれど……。
「今は、ブランドが作りたい“女性らしい”“男性らしい”といったイメージにユーザーが合わせる時代ではありません。2024年は、この傾向がより強まっていくのではないでしょうか」(ジョー マローン ロンドン マーケティングディレクター・ケネス タイさん。以下同)
多様性が香りのトレンドにも大きく影響しているため、これ!という絶対的なスター香水は生まれにくくなっているが、香りの潮流はどの方向に向かっているのだろうか?
「コロナ禍を境に、香水に対する意識が著しく変わりました。人気フレグランスの共通点は、ジェンダーや年齢の壁がないという点。今、世界的に人気の香調はウッディ系やグルマン系。具体的にはサンダルウッド、サイプレス、フランキンセンス、ミルラなど気持ちを鎮静させる樹木の香りや、バニラ、カカオ、コーヒーなどの香ばしく美味しそうな香りです。石鹸のような爽やかさが安心感を与えるホワイトムスク、神秘的な甘さのアンバーもポピュラー。かつては香水上級者に好まれていた、オリエンタルなウード、スモーキーなタバコやレザー系も広く親しまれるようになりつつあります」
これらの個性の強い香りを、フローラルやフルーティに合わせてコントラストを楽しむのも、新しい香りの楽しみ方になりそう。
奥深さがクセになる、ウッド系やグルマン系の新香水
TOPIC2:日本人特有の感性が、独特のマーケットを形成!?
かつては“フレグランス後進国”と呼ばれていた日本。Z世代を中心とする現在の香水ブームの背景と今後の行方は?
「日本は文化的に、アクセサリーのように香りを身につける習慣がなく、それ以上に、人に迷惑をかけてはいけない意識が強い。なので、フレグランスとの距離感は、なかなか縮まりませんでした。日本の環境に変化が起こり始めたのは20年くらい前。アロマテラピーや柔軟剤、消臭剤が日常に入り込むようになり、当時子供だった今の20代、30代にとっては、生活に香りがあることが当たり前に。その背景が、フレグランスの消費を高めていると考えられます」
香りを纏うモチベーションにも、日本固有の美学がありそうだ。
「ジェンダーレスな香りが支持される一方、欧米では、今もやっぱり他人を魅了するためのツールとして香りが活用されることも多い。なので、セクシーさを演出する香水も相変わらず好調です。逆に日本だと、セクシーすぎるものは格好悪いという意識があるようです。日本人の根幹にあるのは“控えめなエレガンス”。自分を表現したい、でも個性的すぎたり、ハズしすぎたりするのは怖い。だから人気ランキングの上位の中から自分に合うものを選ぶ、という傾向が」
最近は、“香りハラスメント”も無視できない話題。多様な個性が認められる時代でも周りの目が気になり、空気を読んで社会と調和する“日本人らしさ”は、今後も香水マーケットに影響しそうだ。
個性が控えめに香る、精油のフレグランス
TOPIC3:ニッチフレグランスのこれから
また、トレンドセッターを中心に人気が高まっているのが、小規模生産のニッチフレグランス。
「わかりやすいハイブランドではない、ニッチなメゾン、レアな香りは、ラグジュアリーに慣れている香りリテラシーの高い人たちに支持されています。逆に、メゾンブランドなど王道プレステージの香りは、若い世代の男性の伸びが活発。メンズ、レディスという垣根を超え、自分の感覚で選ぶ人が増え、ますます裾野が広がりそうです」
ニッチフレグランスのブランドが大企業の傘下に入るという、ここ数年増えてきた流れもさらに加速しそう。
「小規模なブランドがポートフォリオを拡大し、全世界に展開するためにはやはり資金が必要。大企業の傘下に入ることで、良質な原料調達が自由になりプロダクツを大量に生産できるようになる、というメリットもあります」
TOPIC4:ライフスタイルブランドの隆盛
前述のZ世代に限らず、フレグランスと向き合う立ち位置は、コロナ禍をきっかけに確かに変わった。
「退屈な3年間、家に籠り外に出ないからこそ気分を高めたいと考える人が増え、フレグランスの需要が右肩上がりに。他人にどう見せたいかという自己表現や自己演出ではなく、自分が心地よくなるために、自分の価値観を基準に香りを選び、纏うという意識に変わったようです。だから、わかりやすいブランドである必要もない。特に消費が伸びたのは、ライフスタイルブランド。生活の場面で香りを楽しむようになり、一般の人もディフューザーやキャンドル、ボディケアを取り入れ始めました。それまでフレグランスに抵抗があった人や、仕事柄使えない人も、シャワージェルやハンドクリーム、ヘアミストで香りを楽しんでいます。今後、この香りを楽しむ習慣は生活に定着し、より心地よく感じるアイテムを求めるようになるのでは」
人気のセンシュアルな香りがハンド&ボディケアで登場
●お話をうかがったのは……
13年間外資系広告代理店で勤め、ヘアケア、家庭用品などのFMCGの広告を幅広く経験。2018年にELCジャパン入社。ラグジュアリー スキンケア ブランド「ラ・メール」とフレグランス ライフスタイル ブランド「ジョー マローン ロンドン」両ブランドのマーケティングを担当。2022年からジョー マローン ロンドン マーケティング ディレクターとして着任。