裕人礫翔氏の衝立作品とともに撮影されたゴールドのルージュ・ジバンシイ。背景はエイジング加工を施した銀箔の上に日本古来の顔料を用いて絵付けされた作品。なお、今回の京都 エディションは世界で600セットのみの展開。現在全20色の「ルージュ・ジバンシイ」より、特別に5色をニコラが選び抜いてセットされる。ナチュラルな亜麻色、ブラウントーンの浅蘇芳(あさすおう)、梅の花びらを思わせる紅梅色、舞妓の唇を彩る真紅(写真左端)、そして橙色の5色。礫翔氏が手がけた、世界でひとつのルージュケース一点とともに、5色のリップスティックがセットされて販売される。
ニコラと京都を旅した。
旅の道程、京都とパリに通じる美意識というものを考えてみる。長い歴史に裏づけられた伝統と、それを大胆に塗り替えていく革新力。そして、卓越した職人技と、彼らの矜持と。東西、遠く離れた点と点が線になってつながった、シルクロードならぬパリ―京都のジバンシイの「金箔の街道」を、メイクアップ アンドカラー アーティスティック ディレクターのニコラ・ドゥジェンヌはあるひとりのアーティストと手に手を携えて歩いてきた。旅のパートナーは、裕人礫翔(ひろとらくしょう)という気鋭の箔工芸作家だ。
京都にて、私たちを迎えた礫翔氏とともに妙心寺境内の天球院を訪ねた。方丈内部の狩野山楽・山雪筆の襖絵は、京狩野の傑作として知られている。闇をたたえた金地に躍る色鮮やかな花鳥図や虎図は生命感にあふれ、モダンで美しい。そして四世紀の時の重みに、圧倒される。それだけに「これはレプリカなのですよ」という説明に、心底驚いた。
文化財保存活動の一環として、現存品は京都国立博物館に寄託され、現在、天球院にあるのは一部の襖絵を除いて高精細複製作品だという。特殊和紙に印刷された複製画の上に金箔を一枚一枚丁寧に貼り、さらには独自の「エイジング加工」を施して朽ちた風合いを細部まで再現し、実際の作品に限りなく忠実な襖絵として完成させたのが、裕人礫翔その人だ。
ラグジュアリーとは、時代を超えて受け継がれるもの
「礫翔先生と彼の作品に触れてわかったこと。それは、私たちの間にもはや〝言葉〟は必要ないということでした」
初来日の際、足を延ばして訪れた古都に魅せられたニコラは一時期、京都の熟練の職人と対話の機会を積極的に設けては、彼らの工房に足を運んでいる。なかでもひときわ感性が響き合ったのが、礫翔氏だった。
「金箔、すなわちゴールドはラグジュアリーの象徴であり、ラグジュアリーを体現するクチュールメゾンのジバンシイへとつながります。初めて礫翔先生の工房を訪ねたとき、彼は部屋の灯りを消し、ろうそくを灯して金箔の作品を見せてくれました。そう、400年前の人々が金屛風を鑑賞した、同じ方法です。灯火に照らされた金箔は揺れながら幻想的に迫ってきた。それは新鮮な発見でした」
ニコラはこう決意する。ゴールドが伝える特別な感情を、ジバンシイのヘリテージを凝縮した口紅、ルージュ・ジバンシイを通じて世界と共有しよう、そして礫翔氏の手でそれをかたちにしよう、と。
「この口紅は革を用いた、革新的でラグジュアリーなルージュです。真のラグジュアリーは時代を超えて変化しながら、人から人へと受け継がれる唯一無二のもの。経年変化する革と金箔こそが、クチュールメゾンのジバンシイの誇りに根ざした口紅を生み出すはずだ、そう確信したのです」
>>Vol.2へ続く
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SPUR2016年3月号掲載
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