言葉で香りを理解するのはとても難しい。でもフレグランスの基本を理解していれば、香料の説明を読んだ時になんとなく傾向がつかめるはず。そこで、香りの専門家を招いて、ビューティエディターのタイラさんとフレグランスの基礎知識を学んでいく連載がスタート! 初回に講師にお迎えしたのは、フランスのパフューマリースクールのプロ養成トレーニングメソッドを日本で展開する、サンキエムソンスジャポンの小泉祐貴子先生。香水をもっと知りたいという方、必見です。
ウード=ウードウッドという香木のこと
タイラ 先生、最近よく目にするウードとウッドはどう違うんでしょうか? どうも混乱されている人が多いようなんです。
コイズミ ウードもウッドの一部で、香木なんです。ウッディノートをもつ香りですから混乱するのも無理もありません。ウードはウードウッドと言って日本語では沈香と呼ばれます。また沈香は、アガーウッドと呼ばれることもあります。
タイラ とても希少な香木の一種ですよね? 伽羅もそのひとつだと聞きました。
コイズミ はい。日本では古来、沈香を小さく刻んで香らせていました。そうするといわゆる「お香」をイメージするような深みのある柔らかくて温かな香りを感じるのです。ウードフレグランスはウードウッドから抽出した精油を使っており、香りのニュアンスはそれとはちょっと異なります。
樹木を思わせる香り全般が、ウッディファセットに分類される
そもそもファセットとは、香りを香調別に18種類に分けたカテゴリのこと。ウードは「ウッディ」のファセットに属しますが、同時にレザーのファセットも持っている。スモーキーで奥深い甘さがあり、アニマリックでダークなニュアンスも潜んでいるのが特徴。
タイラ ウードもウッディファセットの中のひとつというわけですね。木の香りはほとんどウッディファセットと覚えておけばいいですか? サンダルウッド=白檀、シダーウッド=杉、サイプレス=糸杉、ヒノキ=檜とか。
コイズミ そうですね。ヒノキは今、世界でもHINOKIと表現されています。あとは木から抽出した香料でなくてもウッディのファセットに分類されるものがあります。わかりますか?
タイラ うーんと何だろ? ウッディは深みがあるというか重ためなので……パチョリとか?
コイズミ 正解! パチョリは葉っぱですね。そのほか、イネ科の植物の根っこから抽出するベチバーもウッディのファセットに含まれます。これらは森の中の湿った土や足元に積もる落ち葉のような匂いを感じさせ、ウッディに分類されます。
ウードの香水はいつから人気に火がついた?
タイラ 10年ほど前ぐらいから、ウードが突然、流行り出した印象があります。
コイズミ そうですね。 2014年に中東を中心にウードフレグランスの人気が爆発。2002年にイヴ・サンローランが発売したM7(現在廃盤)が衝撃的だったことを覚えていますが、その後もウードを全面に活用したフレグランスは続きました。
ですが、人気の火付け役となったのは、2007年にトム フォードが送り出したウード・ウッドでしょう。フレグランス業界に強いインパクトを与えました。世界的なウードブームの初期、中東ではウード&サフランやウード&ローズといった濃厚な香りが支持されていたのですが、徐々にウードの深みとコントラストを成すようなフルーツやシトラスと組み合わせて、軽やかにつけこなせるウードフレグランスが登場するように。その後、現在まで世界的流行が続いています。
ウードを代表する名香
ウードを代表する新・名香
そもそもウッディノートって?
タイラ ウッディの中でもウードのようにちょっと重ためでアニマリックなものもあれば、サンダルウッドは甘く感じるし、シダーは清々しさを感じたり……。ウッディのファセットの中でもバリエーションがあるということなんですね。
コイズミ ウッディのファセットは長らく男性用として使用されることがほとんどでした 。女性用のウッディフレグランスとしてエポックメイキングだったのは、何と言っても1992年に資生堂が発売した フェミニテデュボワ(編集部注※現在はセルジュ・ルタンス フレグランスに引き継がれている)。シダーウッド、サンダルウッドがバランスよく処方され、スパイスフルーツを組み合わせています。
タイラ ああ、名香の誉れ高い、フェミニテデュボワ! ほのかに甘くて、お香のように静かな余韻があって、昔からファンが多いですよね。
コイズミ マーケットでは便宜上、フレグランスを女性用・男性用と区別することが今も多いですが、ウッディのファセットはジェンダーフリーに支持されてきていて、女性でもウッディフレグランスを好まれる方が増えていますね。
タイラ まさに。フレグランス売り場の担当の方もそうおっしゃっていました。男性もフローラルなど甘い香りがお好きな方が増えているそうです。
コイズミ バイレードのルージュ カオティックのようにフルーティやアンバリーな甘さを兼ね備えたウッディノートは、男性らしさと女性らしさを併せ持つ印象でとても現代っぽいですね。
男女ともに人気の高いウッディの香水。最近ではスパイシーな要素が加わったり、レザーやフルーツと融合したりと香調の幅が広がっている。奥深い香りの“森”に足を踏み入れて楽しんでみて。
ウッディを代表する名香
ウッディを代表する新・名香
Firmenich社にて香料開発・マーケティングに約20年間従事。パリ発祥の社会人向けパフューマリースクール「サンキエムソンス」の公式日本パートナーとして、「サンキエムソンス ジャポン」を運営。フレグランスに対する広範な知識とあふれる愛でフレグランス文化の啓蒙に励んでいる。
▶︎サンキエムソンス ジャポンのオンラインレッスンプログラム情報はここ!
https://www.cinquiemesens.jp
取材歴約30年。過去にSPURでフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に魅せられ、現在はフレグランスを一からサンキエムソンスのプログラムで学び直し中。