香調別・香水はどこに何プッシュするのが良い?
初めてフレグランスをつける、あるいは久しぶりにつける。そんな時、どこに、どのぐらいの量をつけるのが正解? まとい方は自由とは言われるけれど、香らせすぎて周りから香害と思われるのも、香らせなさすぎてせっかくつけているのに全く気づいてもらえないのもなんだか悲しい。フレグランスアドバイザーのMAHOさんを招き、これさえ押さえておけばOKという香水のまとい方の基本を学ぶ。
香水はどこに何プッシュするのが正解?
タイラ フレグランスってどのぐらいの量をつけるのが正解なのかとよく聞かれます。
MAHO 私が提唱しているのは、腰から下を重点的に。ウエストのサイドや膝の裏、足首のそれぞれの両側に1プッシュずつの計6プッシュで程よく香らせるまとい方。
タイラ へー、そうなんですね! 私はコロナ禍の、みんながマスクをしているときはこれ幸いとばかりに自分の好きなフレグランスをシューッとかなり多量にスプレーしていました。多少、つけすぎてもマスクしているから、香害にはならないだろうと思って。夏は軽めのオーデコロンやオードトワレを腕につけるのが好きなんです。腕を動かしたときにふわっと香って自分的にも香りを楽しめるから。
MAHO 香りはファセットと賦香率のトータルで軽い・重いというベクトルがあります。どんなシーンでもオールラウンドにつけられるのは軽い香りになりますね。フレグランスは基本的にトップ・ミドル・ベースの3つのノートから構成されています。
タイラ 俗にいう香りのトライアングルですね。よく横から見る三角形で紹介されていますが、イメージとしてはその三角形を上から見るように捉えると香りの特性がよくわかると習いました。ミドルもベースも最初からいるけど、一番上にあるトップノートが最初に鼻に届いて、徐々に消えていき、ミドル、ベースの存在感が増していく。
MAHO トップのパートはレモンやベルガモットなど揮発性が高く、すぐに飛びやすいもの。ベースというのはウッディ系などの残香性の高いものですね。このトップの部分の香料が多いほど、<軽い>香りということになります。どなたでも、どんなシーンでもオールラウンドにつけられますね。
代表的なのが【サンタ・マリア・ノヴェッラ】のオーデコロン アックア・デッラ・レジーナ。
タイラ 王妃の水ですね。シトラス好きにはたまらないやつです。香調としてもそうですが、オーデコロンだから賦香率的にも軽いですね。
ライトなシトラスノート
ライトなフローラルノートは、どうやってつける?
MAHO そうですね。これは素肌にパシャパシャとつけて、その瞬間のフレッシュネスを楽しむ感じでしょうか。シャワーミストのように、全身につけて大丈夫です。1時間もすれば香りは消えているので、周りの鼻を気にすることなくつけられますよ。デメリットとしては持続性がない。
タイラ これ、ジェンダーも問わないですね。暑かった今年の酷暑にはぴったり。でも少し気温が下がってきたのでもう少しフレグランス感が欲しいときはどうですか?
MAHO 香調でいうとフレッシュフローラルになりますね。フローラルは幅が広いのですが、スズランやバラなどの、みずみずしくかすかにグリーン香のあるものなどになると、先ほどのオーデコロンよりもフレグランス感が出てくると思います。【メゾンレクシア】のヴァーダントは朝露に濡れた草葉にミュゲ(スズラン)やハニーサックルの軽やかな花の香りが重なるシトラスフローラルです。
タイラ ほんとだー。ぐっと香水っぽくなりました。それでもまだまだシアーな香りだから、香りすぎない気がします。これはどのようにつければいいですか?
MAHO ライトなフローラルなので、腰の両側、膝の裏がわ、そして両肩のショルダーラインに霧をまとうように。スプレーするときの距離は、大体30㎝ほど離すのが目安です。スプレーしたときに肌が濡れてしまうのはつけすぎです。30cm程度離すとちゃんと霧状になるので濡れたりしないはずですから。30㎝は肘下から手先までの長さを目安に覚えるといいですよ。
タイラ なるほど~。ショルダーラインにスプレーするときも肘を肩の高さに上げてそこから肩に向けるといいんですね。肩も前側でなく、後ろ側のほうが人とすれ違うときにふわっと香らせられて、いい感じになりますよね。
ライトなフローラルの名香
軽い香り、重い香りの中間・ムスクは、特別なつけ方を
MAHO ライトフローラルの後にくるのが、ムスク。意外に思われるかも知れませんが、ベースノートに置かれるムスクですが、実は現在のホワイトムスクはとてもクリーンで軽やかなんです。
タイラ ムスクで検索するとジャコウジカの分泌物と出てくるので、アニマリックな獣臭を想像する人が少なくないんですよね。でも現在では動物性香料はほぼ使われていないですし、ベビーパウダーのようなほの甘い、温もりある匂い。かくいう私もホワイトムスクの香りが好きすぎます。
MAHO それでしたら、【ゲラン】のラール エ ラ マティエールのムスク ウートル ブランがきっとお好きかも。白より白いという意味のウートルブランを名前に冠した純白のムスクの香りです。ゲランの最高峰ラインにふさわしく、肌に寄り添うようになじむ究極のスキンフレグランス。
タイラ ゲランの名品パウダー、メテオリットを思わせるパウダリー感もありますね。濃厚なオレンジブロッサムアブソリュートとブルガリアンローズ、そしてこれもまたパウダリーノートを作る香料、アイリスパリダバター……。贅沢な香料のオンパレード!
MAHO 香りを強く感じさせたくはないけど、温かいオーラを発したいというときにぴったり。軽いというよりはとにかくニュートラル。透明感があって軽やかなのに、ウォーミー。相反する印象を成り立たせているのは現代の香料技術の進歩と調香のなせる業。昔のムスクの、獣の毛が濡れたような匂いとは全くの別物です。
タイラ さっきのメゾンレクシアよりフレグランス感が高まりましたが、これはどのようにつけると良いですか?
MAHO これは両ウエストの脇と膝の裏、足首ですね。そして私的な裏技としては胸元に、もうワンプッシュ。他のフレグランスだと香りに酔ってしまう場合があるので胸元につけるのはお勧めしないのですが、このパウダリックなムスクはそれこそボディパウダー感覚。肌の質感が格上げされる感じ? お色気ムンムンというのとは違った、自分の中の官能性を引き出してくれる香りです。
タイラ さすがゲラン! そのつけ方、やってみたい〜!
ニュートラルにつけこなしたいムスク
インテンスな香りは ウエストラインより下に
タイラ ライトフローラルの後は、ヘビーフローラルというか、アンバーやオリエンタルなど少し重厚感のある香りになりますね。
MAHO 今、「インテンス」とか「エキストレ」とか、オリジナルの香りをより濃密にしたパルファンに近いフレグランスが増えていることをご存じですか?
タイラ たしかに! 日本でも需要はあるのですか?
MAHO 甘いグルマン系とかスモーキーな香りとか強い香りがお好きな方は特に。香りが飛びにくく、長持ちするので、ある意味コスパが良い……というのもありますね。
タイラ ずっとその香りに浸っていたい、お気に入りの香りであれば、インテンス版はありということですね。
MAHO 最近出たインテンスと言えば、【ジバンシイ】のランテルディ オーデパルファム インテンス アブソリュ があります。オリジナルの香りのホワイトフローラルはそのままにアロマティックなフレッシュフラワーやスモーキーなタバコフレーバーなどが加わり、より濃密な香りに。
タイラ こういった濃厚な香りはどのようにつければよいですか?
MAHO これは必ずウエストラインより下ですね。足首につけるだけでも十分に香りの存在感は出せます。もし肩につけるなら、ナイトクラビングに出かけるときぐらいにしましょう。これは本当に残香性が高いのでコスパ最強ですよ。
より鮮烈に香り立つ“インテンス”版の名香
さり気なく香らせたいときは、ランジェリーの内側に
タイラ 基本的には素肌につけるのがセオリーですが、重ための香りをソフトにつけたいときは?
MAHO これも裏技的ですが、ランジェリーの内側とかタイツやストッキングに吹きつけるという方法があります。香水のアルコールが肌に触れるのが苦手な方にもこの方法をお勧めしていますね。
タイラ 肌に直接でないのでほのかに香るというわけですね。
MAHO 逆にウードのような濃厚な香りが好きな方は、いつでも自分の肌をクンクンと嗅いでいたいという方もいらっしゃいます。そんなときは香水のボトルを持ったら、肘の内側に向けてワンプッシュ。手首だと周囲の人に近くなりすぎますが、肘の内側ならばそこまで拡散されないので、ちょうど電車やバスでつり革を持ったときに自分だけがわかる程度に香ります。この場合はどちらか片方の腕にしてくださいね。
タイラ これからの季節はシャツやブラウスも着るので、その方法でウードなど重ための香りを楽しみます。
MAHO フレグランス好きの祭典、サロン ド パルファンが10月16日から始まりますね。大人気のウードフレグランスが【キャロン】からも登場しますよ。ウードにローストしたコーヒーの香りを合わせたとてもITなフレグランス「ウード・エクセルサ」です。
タイラ わ、コーヒーアディクトな私としてはスルーできない情報、ありがとうございます。
重厚なウッディノートを堪能できる名香
シトラスやフローラル、アンバーやウッディといった香調とオーデコロン、オードトワレ、オードパルファン、インテンスという賦香率の掛け合わせで基本のつけ方を覚えておくとフレグランスの楽しみはグンと広がるはず。空気の乾いたヨーロッパと違い、季節によって湿度も気温も大きく変わる日本だからこそ、夏はシトラスやフレッシュフローラルをオーデコロンやオードトワレで、秋冬はアンバーやフロリエンタル、ウッディをオードパルファンで、と使い分けてさまざまなバリエーションを楽しむのも一興だ。
日本フレグランス協会常任講師。香水のイベントやセミナーのほか、国内外・新旧合わせて500種以上の香水と天然・合成香料をそろえるプライベートサロンを主宰。フレグランスの経験値や嗜好を対話から探り、その人に合ったフレグランスを紹介する個人カウンセリングも大人気(プライベートトワレ private-toilette.com)
取材歴30年。SPURのフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に魅せられ、現在は資格取得を目指してフレグランスの歴史やトレンドを学び直し中。