
梅雨どきに、“においキャンセル”できる香水はありますか?
年々、過酷さを増す日本の夏。気温の高さはもとより、湿度によって不快指数は上がる。そこで沸き起こるのがニオイ問題。もわんと漂ってくる嫌な空気やニオイを今すぐキャンセルしたい! そんな時につけられる香水ってあるの?
そんな疑問を、カウンセリングやセミナーなどで活躍するフレグランスアドバイザーのMAHOさんにぶつけてみた。
“においキャンセル”に役立つレモンの香り
タイラ じめじめする梅雨の季節がやってきました。とにかく空気が籠るというか、あのもわんとしたニオイが困るんです。春先につけていたフレグランスもいま一つ、気持ちよく香らせられないというか……。“においキャンセル”がSNSで話題になっていますが、フレグランスで“においキャンセル”できたりします?
MAHO “においキャンセル”ですか〜。確かに日本で香水が売れるのも、不快指数が高くなるこれからの季節と、クリスマス前なんですよね。ニオイをキャンセルということなら、シトラスの中でも甘ったるさがなく、すっきりシャープなレモンの香りがよいかと。つまり、爽快感あふれる気分をアップさせるなら、爽やかな香りが適切ということです。ロアリブに「マインドセンス クリア」というオードパルファムがあるのですが、レモンが爽快にきいていて、その名の通り、周りの空気をクリアに浄化してくれるイメージです。
タイラ 本当だー、超すっきり。自分の周りに爽やかな結界が張られて、どよんとした空気をよせつけない感じ。お値段もお手頃だし、持ち歩けるサイズ感もいい!
MAHO 夏にフレグランスはちょっと……と敬遠されるアンチ香水派の方もいらっしゃいますが、これはおすすめです。
アクアティックやウォータリーな香りで涼を取る
タイラ 夏の香りというと、賦香率の低いコロンやトワレを選ぶといいのでしょうか?
MAHO 賦香率で選ぶと香りのバリエーションが狭められてしまうので、アクアティックやウォータリーなど香調で選ぶ方がいいと思いますよ。ハーブはローズマリーやミント、スパイスなら清涼感のあるカルダモンあたり。
タイラ カンファーやメントールのようなスーッとした香りだと、確かにクールダウンできそうです。香り的にはちょっとメンズライクというか、ジェンダレスな方向ですね。
MAHO 5月に表参道に旗艦店がオープンし、リブランディングした老舗のメゾン、ラルチザン・パフューマーに「アン エール ド ブルターニュ」というミネラル感あふれる香りがあります。険しい断崖に打ち付けられる波しぶきが風に乗って運ばれてくるアクアティックな香りは、スプレーすると一瞬でその場所にトリップするような感覚に。ナチュラル感に満ちているけれど、ちゃんとフレグランスとしての品格も備えていて、さすがなんです。
タイラ 本当だ。シャワーを浴びた後にさっとつけたら、さぞかし気持ちよいだろうなぁという清涼感、たまりません。
タイラ 他の香調で夏におすすめなものはありますか。
MAHO そうですね。フローラルノートならばヒヤシンスやスズラン、ブルーベルなど、グリーン香が立つライトフローラルが涼やかな印象です。ジェンダレスなものが多いと先ほど言いましたが、ちょっと可愛らしい甘さが欲しい人なら、モルトンブラウンの「ブルーベル&ワイルドストロベリー」はいかがでしょう。涼しい森の木陰にいるような趣があって、夏のデートにぴったり。
タイラ ブルーベルの涼しさでワイルドストロベリーの甘さがほどよく中和されているというか。すっきり涼しく、ほの甘い感じが暑さにだれた心に沁みます。
スパイス、カルダモンをきかせた清涼感ある香り
タイラ 先ほど、カルダモンを挙げてらっしゃいました。スパイスというとシナモンやクミンのようにちょっと温もりある香りを想像しますが、カルダモンはスーッとした清涼感が鼻を抜けるようですね。
MAHO アロマティックな清々しさだけでなく、生薬や樹脂のようなニュアンスもある冷涼感なんですね。フラコンの見た目も氷の彫刻のようで視覚からも涼ませてくれるのがシスレーの「ロー レヴェ アルマ」という香り。
タイラ フランスの伯爵がプロデュースするシスレー。御一家揃ってアートに造詣が深いから、このフラコンがアートピースのように美しいのも納得です。
MAHO トップでカルダモンがスーッと香った後、アイリスの花の香りが広がる……。しかもこのアイリス、香料としてはウォーターアイリスと表記されていてみずみずしいイメージを全面に押し出しています。湖や川など避暑地の水辺を思わせる穏やかな香りです。
タイラ カルダモンがいい仕事してますねー。
MAHO ミラー ハリスにもカルダモンの効いたアイシーな香りがありますよ。ヴァージニア・ウルフの小説『灯台へ』にインスパイアされて生まれた「ミニア」は凍てつく冬の寒さがイメージ。爽やかな刺激のカルダモンにミントやユーカリ、セージなどのハーブがひんやり香ります。イメージは冬ですが、あえて夏に使うのもいいかなと。
昼デートのモルトンブラウンに対して、こちらは夏の夜のお出かけに似合いそうな涼やかさなんです。
とにかく暑い日本の夏。蒸し蒸し、じめじめした時期に肌も気持ちも手軽にクールダウンできるフレグランスを活用してみるのも手。仕事中のオンタイムでも、海や山、湖などの避暑地へと、香りを通してマインドトリップ。涼感フレグランスで不快なニオイをキャンセルして、快適な夏を過ごしたい。

日本フレグランス協会常任講師。香水のイベントやセミナーのほか、国内外・新旧合わせて500種以上の香水と天然・合成香料をそろえるプライベートサロンを主宰。フレグランスの経験値や嗜好を対話から探り、その人に合ったフレグランスを紹介する個人カウンセリングも大人気(プライベートトワレ https://private-toilette.com)。

取材歴30年。SPURのフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に魅せられ、現在は資格取得を目指してフレグランスの歴史やトレンドを学び直し中。