フレグランスがかつてない盛り上がりを見せた2025年。その中で印象に残るのが、「エクストレ」や「インテンス」などといった名称の香りが増えたこと。これってどちらもオリジナルの香りの濃密バージョンと考えていいもの? 新旧フレグランスに関する膨大な嗅覚のリファレンスをもつ、フレグランスアドバイザーのMAHO氏を取材した。
エクストレとインテンスは似て非なるもの
タイラ 10年ほど前に、オリジナルよりも軽やかに香る“ロー”(フランス語で水の意味)フレグランスが流行りましたが、ここ数年はより濃密な印象のエクストレやインテンスと銘打ったものが増えていませんか?
MAHO たしかに増えていますね。エクストレは「エクストレ パルファン」といって、賦香率(香水に含まれる香料の割合)の最も高いパルファン=香水のことなんです。日本語ではオーデコロンもオーデトワレもオーデパルファンもひっくるめて全てを香水と呼んでしまうので、少しややこしいのですが……。
タイラ えー、そうだったんですか。それは知らなかったです。エキストラな濃度増しって意味かと思ってました。昔だと香水はヴァポリザター(スプレー式ボトル)タイプではなく、開口部から指でつけるものだったような……。
MAHO はい、以前の香水(エキストレ パルファン)はフラコン(ボトル)タイプで、サイズも7.5ml、15ml、30ml(約1オンス)という展開が主流でした。それが香水ボトルの伝統的で優美なデザインを完成させていましたが、最近ではすばやく均等に噴霧でき、さらに雑菌の混入を防いでくれるヴァポリザター(スプレー)タイプが圧倒的に主流になっています。また香りの嗜好については依然、爽やかな軽さにもニーズがありますが、一方でしっかり主張し持続するものを求める方も増えていますね。メーカー側もコストパフォーマンスや利便性も考慮し、パルファン濃度であっても、オーデパルファンなどと変わらない容量で販売する傾向になっています。
タイラ 【ゲラン】の「ラール エ ラ マティエール エクストレ」が装い新たに登場しました。賦香率は30%とかなり高濃度です。それでいて強く香るというわけではなく、長く香りがもつという感じです。
プレステージ感のあるエクストレを展開し、 人気を高めるニッチラグジュアリーブランド
MAHO かつてフレグランスメゾンでは、まずエクストレ(=香水)を製品作りのスタートとし、そこからオーデパルファン、オーデトワレ、オーデコロンと濃度を変えたものを展開していました。今はニッチラグジュアリーなフレグランスメゾンが増えてきていて、プレステージ感のあるエクストレをメインに売りだすところが多くなっています。例えば【ザ マーチャント オブ ヴェニス】のムラーノガラスのボトルに入った「エクストレ ディ パルファム」のシリーズや、【フリーシェイプミラノ】は日本限定の香りである「余韻」も含め、キャップに大理石をあしらうなど趣向を凝らしています。フレグランス通であれば、「パルファンでこの価格⁉︎」とむしろコスパがよいと感じるようですよ。
タイラ ミリリットル換算するとたしかにそうなのかも。日本人は重たい香りを好まないっていう思い込みは、今や捨てたほうがいい。
MAHO 余韻というと残り香のようなかすかな香りと思わせるのに、印象的にガツンと香らせて香りの航跡(シヤージュ)をしっかり描く変化を持たせているのは、さすが高濃度なパルファンです。
オリジナルの調香から何かを強めたものがアンタンス
タイラ エキストレに対して、フランス語だとアンタンス、英語だとインテンスと呼ばれる香りはどういうものなのですか?
MAHO もともとあるオリジナルの中から特定のノートを強化して、オリジナルの延長上にある新しい香りといえば、わかりやすいでしょうか。【エルメス】の「バレニア」からもアンタンスが出ていますが、アンタンスではベースノートのパチョリとオークウッドをより強調してレザー感を増していますね。
タイラ たしかに。バレニアの着想源だった革とスタッズのブレスレット「コリエ・ド・シアン」のカッコよさに、より似合う香りになっていますね。
MAHO 【ナルシソ ロドリゲス パルファム】の「ナルシソ ロドリゲス フォー ハー インテンス」もブランドの核であるホワイトムスクの香りをさらに際立たせています。
タイラ オリジナルが好きな人ならきっとこれも好きだよね?と勧められているような気がします(笑)。アンタンスは好きな香りの延長上で味変を楽しむ感覚ですね。
キーンと冷えた冬の乾燥した空気の中で、フレグランスは調香師が本来、意図した通りの美しい香りを放つ。イベントの多い年末年始。いつもよりちょっとドレスアップした装いには、特別なパルファンやインテンスな香りを合わせて。イルミネーション輝く街に、あなたがまとう美しい香りで華を添えて。
幼少から香水の世界に魅了され、フレグランス企業や調香師に師事した経験を基に、香りの豊かさや楽しみ方をセミナーやイベントで発信。またブランドに属さない中立的な目線で行う、個々の魅力や可能性を引き立てる香り選びのアドバイスも人気。日本調香技術普及協会理事や日本フレグランス協会常任講師として、国内の香水文化の普及と発展に尽力。
ビューティエディターとして長年、数々のフレグランス企画を担当。一昨年よりフランスの大手香料メーカー、サンキエムソンスが手がけるフレグランスの専門知識を学ぶレッスンを受講。2025年11月日本パフューマリー協会認定のパフューマリー アドバイザーの資格を取得した。




