松の内も終わり、すっかり日常のペースが復活してくる頃。この今の時期、冬から春にかけて一層美味しくなるといわれる“いちご”にちなみ、今回はレッドベリーやブラックベリーなどベリー系をフィーチャー。膨大な嗅覚リファレンスでセミナーやトレンド分析、カウンセリングなど香り分野で活躍するフレグランスアドバイザーMAHOさんに最新トレンド、ベリーの香りの傾向を伺った。
ベリー系で愛らしさをプラスし、既存の香りからバリエーションを増やす
タイラ ここ最近、ストロベリーやブラックベリーなどを使った香りが続々登場しています。2月に発売予定の【イヴ・サンローラン・ボーテ】の「リブレ オーデパルファム ベリークラッシュ」など、オリジナルのリブレの香りにベリーでアクセントを利かせたものが気になります。
MAHO そうですね。ベリーを始めとする芳醇なフルーティさというのは、愛らしさや女性らしさを表現するために特にレディースフレグランスにおいては欠かせない要素のひとつ。香りとしても一定数の人気があるわけで、昨今の流行りのグルマンフレグランスに起用されるのも必然と言えば必然。
オリジナルのオレンジブロッサムとラベンダーの衝突に、ラズベリーが愛らしく甘酸っぱい要素をプラス。そして、ココナッツがトロピカルなクリーミーさを加えています。鮮やかなコントラストで、よりフレッシュで溌剌とした印象に仕上げていますね。継続してトレンドの甘重グルマンの系譜にも入れられるでしょう。
タイラ YSLらしく、ピンクなのにトガッた印象もなくしていないのがかっこいい!
タイラ 【シャネル】の「ガブリエル シャネル ロー オードゥ トワレット」も、ベリーの香りをプラスしていました。私は、ガブリエル シャネルのシリーズでは香水(パルファム)がいちばん好きなのですが、このローはパルファンとはまた違った印象ですね。パルファンよりもみずみずしく、躍動感にあふれる印象です。
MAHO パッと香った瞬間にはベリーのインパクトはそこまで強くないのですが、なじんでくると徐々に表れてきて、その塩梅がちょうどいい。魅惑的、かといって甘すぎず。上品な愛らしさがある。オリジナルとはまた違った、きらめきを感じさせる印象になっています。
タイラ ベリーがいいアクセントになっている! ということですね。
ウードにカシスを効かせてナチュラル感を醸し出す
MAHO フルーティの香りといっても、天然香料が採られているものはカシスしかありません。フルーティ素材を天然香料で打ち出したい時に「カシス=ブラックカラント、黒すぐり」がよく使われる香料ですね。
タイラ フルーティな香料って、レモンやオレンジなどのシトラス系と違って、意外に天然香料は存在しないということなんですね⁉ 面白―い。でもフルーティな香りで、人工的で嫌だって思うものも、今どき、そんなに出合わない気がします。
MAHO 【ドルセー】の「ホーリーベリー」もストロベリーがミルクのヴェールに包まれる、をコンセプトにしていますが、キーとなる香料はIFF社のみが独占的に使用可能な、ブラックカラントバッド・アブソリュート=LMRです。ホワイトウードを使ったレザーを思わせる深みのある香りに、いきいきとしたレッドフルーツを思わせる高品質な天然ブラックカラント・アブソリュートを合わせて。柔らかな印象に変え、親しみやすさというか、敷居の高いウードフレグランスをその良さを失わせることなく、使いやすいものにしているという感じでしょうか。
タイラ ホーリーベリーは賦香率32%と濃密なエクストレ ドゥ パルファン(エクストレやインテンスは元の香りとどう違う?の回参照)。先ほど話していた甘く重たいグルマンですね、これも。
レザーノート×ラズベリーで味わう香りの二面性
MAHO エクストレ ドゥ パルファンつながりで行くと、【メゾン クリヴェリ】の「キュイール インフラルージュ」があります。
タイラ ニッチラグジュアリーなフレグランスメゾンがプレステージ感のあるエクストレをメインに売り出すとMAHOさんがこの連載で教えてくれましたね。クリヴェリはエレクトロニックな音楽フェスで飲み干したラズベリーダイキリにインスパイアされて生まれた香りというのがなんとも今っぽいです。
MAHO トップからしっかりとレザー調が香り立つ印象だったのですが、なじんでくるとベリーの甘酸っぱさで“いい女っぽい”雰囲気も出てくるんですよー。個人的にそれは、常に新しい体験を求める、遊び心と多面性を持つ都会の女性像!
タイラ 蛍光色のネオンライトが輝くクラブへ出かけるときなんかに似合いそう。
タイラ レザーの香りにラズベリーというのは相性がいいのかな? 【ラルチザン パフューマー】に「キュイール グレナ」がありますね。表参道のフラグシップショップを取材したときに、大ヒット中の「アビサエ」に次ぐ人気の香りと聞きました。クリヴェリと同じレザーとラズベリーの組み合わせですが、こちらは甘重グルマンというよりは、爽やかなレザーといった趣です。
MAHO そうですね、ラズベリーはフルーティさだけでなく、ローズを思わせる香りの側面を持っています。なので、レザーの香りとの相性が良いだけでなく、重厚でハードになりがちな印象に、フレッシュな柔らかさをもたらしてくれるという新しさがあります。キュイールグルナはミニマムな構成ですが、ラズベリーを合わせることでナチュラルさが引き出されていますよね。逆も言えて、可愛く、女っぽくなりがちなフルーティノートにハードな印象のレザーを合わせることで、可愛くなりすぎないのがよいんです。
タイラ たしかに。二面性があるおかげで性別を問わず、使えそうです。レザーの香りってフレグランス偏差値が高くないと難しそうだけど、これはラズベリーの甘酸っぱさが加わることでビギナーでもトライしやすいはず。それでいてレザーの香りの奥深い魅力にも開眼させてくれそう。
ストロベリー、ラズベリー、カシス……。甘酸っぱいフルーティさが香りにきらめきをもたらすベリーフレグランス。それはグレーやブラックが多くりがちな真冬のコーディネートに明るい色の小物を効かせるようなイメージ? ウードやレザーといった重ための香りを試してみたいけど、なかなか難しそうと尻込みしている人の入門編にぜひ。
幼少から香水の世界に魅了され、フレグランス企業や調香師に師事した経験を基に、香りの豊かさや楽しみ方をセミナーやイベントで発信。またブランドに属さない中立的な目線で行う、個々の魅力や可能性を引き立てる香り選びのアドバイスも人気。日本調香技術普及協会理事や日本フレグランス協会常任講師として、国内の香水文化の普及と発展に尽力。
ビューティエディターとして長年、数々のフレグランス企画を担当。一昨年よりフレグランス専門知識を学べる教育機関、サンキエムソンスが手がけるフレグランスの専門知識を学ぶレッスンを受講。2025年11月日本パフューマリー協会認定のパフューマリー アドバイザーの資格を取得した。




