2015.07.02

#02 私の“HOME”フレグランス

バビル2世には3つのしもべがいましたが、私には3本のMolecule 01がいます。会社のデスクに1本、玄関に1本、洗面所に1本。この香水、Iso E Superという香料を、他の香料とブレンドすることなくストレートに配合した大胆不敵なコンポジションなのですが、柔軟剤のような軽い香り立ちとユニセックスな透明感が受けて、パリのコレットでは一時品薄になるほどの人気を誇りました。

これって信じられない処方なわけです。映画「パフューム ある人殺しの物語」で、調香のお師匠さん役を演じたダスティン・ホフマンの台詞に、こんなくだりがありました。「ハーモニーを奏でるという点で香水と音楽は同じもの。和音を成すのは4の香料。香水はトップ、ハート、ベースの調和から生み出されるものだから、(4×3で)12の香料が必要になるわけだよ」と。

「ネ(鼻)」と呼ばれる調香師たちは、自分の感性と知識、経験をフル動員させ、奇跡のような均衡を求めて途方もない旅に出るのですが、Molecule 01はそうじゃない。だってIso E Superをシンプルに用いているだけですから。と同時に、それひとつで完成させた英断力も凄いと思うのです。過程を省くというよりも、すでにあるひとつの「完成形」を尊重する思い切りの良さ。

遥か彼方に白檀の名残を漂わせながら、洗い立てのリネンのような、あるいは真っ白なペーパーを思わせる透明感そのものの香調には、もう何も足さなくてもいいと納得できる美学があります。使い続けてもう5年は経ったでしょうか。季節やムードによってもちろん複数の香りを「着まわし」していますが、いつも最終的に戻ってくる私の究極のホーム・フレグランスはMolecule 01なんです。(エディターIGARASHI)

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