ヴィルヘルム・パフューマリーのジャン・オーグレンは、あるとき空港でひとりの女性を見かけました。あまりに落ち着かない様子の彼女を心配してどうしたのですかと話しかけると、いわゆる飛行機恐怖症というのでしょうか、ひとりのフライトが怖くてならないと言う。震える彼女を前に、なんと彼は、じゃあ僕が機内で手を握っていましょうかと提案したそうです。
絶句。そんなことってあるんですね。のちにふたりは結婚するのですが、その奥さんの名前がポリー。この香水は夫から妻へのラブレターだそうで、ここまで聞くと甘~~~~~い香りなんだろうなと、実にクラシックなボトルの雰囲気ともあいまって白目な私だったのですが、ところがこれが! びっくりするくらい透明感のある素敵な香調なんです。
ポリーの朝の「おめざ」はブラックティーなのだそうですが、それにちなんで香りの軸は落ち着いたセイロンティー。ふわりと体温を上げてくれるような、ウォームな肌あたりが印象的です。ほかにベルガモットとアップルが控えめに弾け、底辺にはブラックアンバーやムスクが主張する。全体としてはスパイスの存在感がフルーティさを凌駕して、洗練されたおとなのカップルを想起させる本当に素敵な香りです。
「DEAR POLLY」は残念ながら日本未発売。パリのコレットやNYのバーニーズで販売中です。発売中のSPUR9月号「私のセカンドスキン・フレグランス」特集ではヴィルヘルム・パフューマリーなどのニッチブランドに始まり、さまざまなこだわりフレグランスを紹介しているのでぜひ誌面をご覧ください。(エディターIGARASHI)