エルメスからファンデーションが発売されると聞いたとき、思い出したピエール=アレクシィ・デュマの言葉があります。2020年2月、パリで開かれたエルメスのビューティ誕生の発表会で、創業家6代目のアーティスティック・ディレクターは語りました。「ティエリー・エルメスが他の馬具商人よりも成功したのは、彼なりのアプローチがあったからなのです。馬車の時代、馬具は非常に堅牢で装飾的でした。しかしティエリーはこう考えたのです。馬はそのままで美しいのだから、その美しさを見せるべき。だから馬具のパーツは繊細であるべきだと」。
そこから導き出されるのは、ありのままのエレガンスを、使う人の仕草を引き立てるお化粧。だからエルメス初のファンデーションは、機能的なチューブ式のバームという、ごくシンプルなかたちになりました。
バームの名前は「プラン エア」、つまり野外。かつて3代目のエミール・エルメスが、車を運転する妻のために横に置いても倒れないバッグを、また自立してゆく娘たちのために山歩きやスポーツのためのウェアを創り出したように、自宅のドアから足を踏み出して広い世界で活躍し、人生を自由に謳歌する人たちのための讃歌を込めて、この名前になったに違いありません。
テクスチャーは軽やかなバーム状。ごくナチュラルなカバー力に留め、密閉感はありません。素肌を覆い隠すのではなく、ムラをやさしくなじませる程度の顔料にこだわったのは、まとう人の個性を何よりも尊重する信念が背景にあるため。ヒアルロン酸の複合体やツキミソウエキス、オウゴンエキス、ホワイトマルベリーエキス配合。抗酸化をはじめとしたスキンケア効果に期待できるノンケミカルなフォーミュラも頼もしい。
特筆したいのが、香り設計! 専属調香師のクリスティーヌ・ナジェルが、見えないけれど世にも美しい風をこのバームにまとわせました。アルニカとサンダルウッド、グリーンティからなるみずみずしい芳香は、あなた自身にみずみずしい癒しを運びます。ここで隠し技をひとつ。肌に指でバームをのせる際、ぜひほんの少しだけ目を閉じて瞑想するように香りに集中してみてほしいんですよね。私の場合、気持ちがニュートラルに切り替わるリチュアルになっています。
フェイスパウダーは昨年末に限定で発売された黄金のパウダー、プードル オルフェーヴルと同じパッケージ。パウダーの表面にはシルクスカーフと同じツイルの陰影が走っています。ローズゴールドのピグメントは控えめな光沢感を放ち、生き生きとした光を表情に集めます。
シリーズの名脇役が、あぶらとり紙! 麻の繊維と楮の木から作られたブロッティングペーパーには、小さなHマークが躍っています。こういうディテール、キュンキュンしてしまいますよね。ビューティ部門のクリエイティブ・ディレクターとして加わったばかりのグレゴリス・ピルピリス氏も、この透かし模様がお気に入りとのこと。
バッグに携帯する「エルメスな面々」、ますます賑やかになりました。
新しい季節に、新しい風を。春のうららかな空気と一緒に、エルメスの新しいメチエが届きました。
エルメス銀座店、エルメス オンラインブティックで先行発売中。3月16日㈬より一般発売です。