「世界最大の電子機器の墓場」といわれるガーナのスラム街、アグボグブロシーについて知ったのは、つい最近のことです。日本をはじめとする先進国が廃棄した電子機器が、東京ドーム30個分を超える広さの荒野に集積されていたこと。そこで電子ゴミを燃やして得られる金属を売り、有毒なガスに体を蝕まれながら1日500円ほどの賃金で生計を立てる若者たちがいたこと。ショッキングな事実を知るきっかけとなったのが、美術家の長坂真護さんによる電子機器廃棄物を再利用したアート作品でした。
上野の森美術館で開催されている長坂真護さんの個展『Still A “BLACK” Star』に行ってきました。雑誌で偶然見かけた電子ゴミの山の前にたたずむ子どもの写真に衝撃を受けた長坂さんは、2017年にアグボグブロシーを訪れ、現地の人々のために尽くすことを決意。アートの力でその現状を伝えるべく、電子廃棄物を使った作品「ガーナ」シリーズを制作しました。
約1メートル四方の大きなキャンバスに、ゲーム機やテレビのリモコン、パソコンのキーボードなどの電子廃棄物をセメントで貼り付け、油絵を施したインパクトある作品の数々。ゴミをアートに昇華したピースはどれも心に深く突き刺さるものでした。もしかしたらこのゴミの中に、かつて自分が捨てたものがあるのかもしれない。そう思うと何も知らずに新しいガジェットばかり追い求めてきた自分が恥ずかしくなりました。一方、生々しい社会の闇を痛切に描きながらも、希望の光を感じさせるのが長坂さんの作風。世界から貧困や格差をなくしたいという強い思いがキャンバスに爆発していて、心が震えました。
中でも強く印象に残っているのが、大量の古着で表現した幅3メートルにも及ぶ巨大な作品「Think more end」(2022)。使われているのは先進国から過剰に寄付された衣服で、アグボグブロシーからほど近い海岸に何万着も投棄されているというのです。善意の押し付けになりかねない寄付の問題点については以前から認識していたものの、圧巻のアートとして改めて対峙すると、ただただ言葉を失うばかりでした。この作品は撮影が禁止されていたのでご紹介できないのですが、ぜひ実物を見てほしいです。
毎年500点以上もの作品を制作している長坂さんは、それらの売上を現地の人々へと還元する活動を続けています。これまでにも焼き場で働く人たちのために1,000個以上のガスマスクを届けたほか、2018年には私立学校を設立。活動の幅はさらに広がり、2021年には現地の雇用を生み出すためにリサイクル工場まで建設しました。今後はこの工場を拡大しつつ、新たに農業事業も展開。2030年までにアグボグブロシーの住人1万人の雇用を目指すというから、そのスケールの大きさに圧倒されます。
ちなみに展示されている作品はオンラインでも販売されており、その売上や入場料の一部が長坂さんのプロジェクトの支援に充てられるとのこと。どの作品もとても手が出せる価格ではないのですが、グッズの売上の一部も活動支援に使われると知り、応援の気持ちを込めて購入したのがザボディショップとのスペシャルコラボレーションキットです。
生粋の丸顔。あだ名は餅。長いイヤリングと丈の長いスカートが好き。長いものに巻かれるタイプなのかもしれません。