先週「あっ」と声を上げてしまったのが、染色家でアーティスト・柚木沙弥郎さんの訃報。101歳で天寿を全うしたとのことですが、やはり悲しい。近年ではイデーや京都のエースホテルとのコラボレーションが記憶に新しく、昨年のちょうどこの時期、日本民藝館で開催されていた「生誕100年 柚木沙弥郎展」に伺ったばかりでした。その多彩なクリエイティビティと精力的に活躍される様子に感銘をうけ、動向に注目していたのですが。
97歳でパリを旅したエピソードに驚き!
その展覧会の関連書籍のコーナーで、特に印象的で記憶に残ったのが、柚木さんのお孫さん丸山祐子さんがつづった『柚木沙弥郎 おじいちゃんと私』(BlueSheep)だったので紹介させてください。柚木さんが97歳のとき、「パリに行こう」と祐子さんに電話をかけてきて、びっくりしたという話が書かれていて、その行動力に驚愕! 新型コロナウイルス蔓延前の直前、1週間ほどパリのアパルトマンで暮らすように旅した夢のような時間が記されています。
染色家を志すまで、そしてその後の創作活動
染色家として70年以上創作活動を続けてこられた柚木さんですが、型染で布に模様を大胆にあしらった染色作品のほか、版画や絵画、絵本、立体物など、広い心で多ジャンルへ挑戦を続ける姿勢には、尊敬の念が堪えません。
そのバックステージを覗くようなこの本。柚木さんの誕生0歳から100歳まで(2022年10月17日)、1年につき1枚の写真とともに見開きでその歩みが記されており、大正・平成・令和と時代の変遷に思いを馳せながら楽しむアルバムのよう。1922年東京・田端に生まれ、家のはす向かいに住まれていた室生犀星とその娘さんとの交流の話や、父親がフランスから取り寄せた美術文芸雑誌『ヴェルヴ』に夢中になったことなど、家族ならでは貴重なエピソードが丁寧に描かれていてとても興味深いです。
美術史を学ぶため東京大学に入学するものの、戦争のため勉学を中断、戦後就職した大原美術館で柳宗悦が提唱する「民藝」と出会い、そこから芹沢銈介に師事、染色家の道へ進んでいった道のりが、祐子さんの視点から記されています。
常に新しいものや時代に心を開いてきた柚木さん。2003年『冬のソナタ』が爆発的にヒットしたとき、家族の中で最初にはまったのは81歳の柚木さんだったとか! 『沙弥郎じいさんは、いつまでも新しもの好きで、ロマンチストなのだ』と祐子さんは記しています。(ちなみに祐子さんは柚木さんとともに2004年から彼がデザインしたクッキーを売る焼き菓子店「hana」を展開されていて、そちらも要チェックです)
クリエイティブな活動を続けるためのエッセンス
国内の公立美術館のほか、フランス国立ギメ東洋美術館でも2014年に大規模な展覧会が開かれ世界中で支持を集める柚木さん。生涯現役で、創作を続けてきたことが本当にすごいです。『今いるところに安住せずに精神的に独立していなければアートを作れないのだ』、『ワクワクすることで創造できるんです』などその秘訣が所々に、ちりばめれています。
本の最後には、柚木さんからのやさしい生きるメッセージが手紙のようにつづられているので、ぜひ読んでみてほしいです。
暮らしに根付く素晴らしい作品をありがとうございました。1ファンながら、柚木沙弥郎さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。