2026.04.06

4月17日まで、京都の名刹が特別な香りで満たされます。T.T×Arpa×両足院の共同プロジェクト「SENKO NO KU」を体験

ファッションブランドのT.Tが、新たにフレグランスを発売する。そう風の便りに聞いたのが1ヵ月ほど前。センスのいい友人に「恋人ができたから今度紹介するわ」と言われたときのような高揚感を覚えました。

新恋人の正体やいかに。ひそかに楽しみにしていたものが先日、京都の祇園にある総合芸術空間 T.Tで披露されました。調香師のバーナベ・フィリオンさんが手がけるラボラトリー、Arpa(アルパ)とのコラボレーションによる「SENKO NO KU(閃光の空)」です。

T.TとArpaが共同制作した香水「SENKO NO KU(閃光の空)」

T.TとArpaがコラボレーションした香水「SENKO NO KU(閃光の空)」の展示風景

T.TとArpaがコラボレーションした香水「SENKO NO KU(閃光の空)」

まずは両者について簡単な説明を。T.Tは、デザイナーであり現代美術家でもあった髙橋大雅さんが2017年に設立したファッションブランド。10代の頃からヴィンテージの服飾資料や古道具を蒐集してきた髙橋さんは、自らの活動を「応用考古学」と称していました。2022年4月に27歳の若さで急逝された後も、彼の遺産はデザインチームによって受け継がれ、毎シーズンコレクションを発表し続けています。余談ですが、この秋からウィメンズコレクションが始まるということで、待ちきれません。

一方、Arpaは知覚を探求するラボラトリーとして、2020年に始動。香りを「消去された記憶のアーカイブ」と捉え、見えないものを通して記憶を呼び起こすことをテーマに、独自の感性で香りを生み出しています。

衣服とフレグランス。それぞれアプローチは違えど、記憶の痕跡を立ち上がらせることを試みる両者が共同制作したのが、先述の「SENKO NO KU(閃光の空)」です。その名前から連想されるのは、星の生成と消滅。鏡で光を反射したように揺らめき、現れては消えていくイメージです。

T.TとArpaがコラボレーションした香水「SENKO NO KU(閃光の空)」のボトル

香料はすべて自然由来のものが使われています。トップにピンクペッパーが弾け、まさに閃光のような刺激を与えつつ、アイリスのウッディなノートが漂います。そこにフランキンセンスの神聖なムードが交わり、没薬やサンダルウッドが深い余韻を残していく。日本の香文化に着想を得たその香りは、心が鎮まり、深い瞑想に誘われます。同時にどこか懐かしくもあり、遠い記憶の断片が蘇ってくるよう。

総合芸術空間 T.Tでのインスタレーション「月面の光」

総合芸術空間 T.Tでのインスタレーション「月面の光」の展示風景

photo by Daisuke Shima

石彫家の和泉正敏さんの作品が鎮座する庭を背景にした、総合芸術空間 T.Tのインスタレーションにも引き込まれました。厚さ1ミリという極限まで薄く仕上げたガラスの什器に、無色透明のフレグランスボトルが据えられています。時間帯によっては庭から差し込む光を受けて什器が見えなくなり、ボトルが空間に浮いているように見えると、スタッフの方が教えてくださいました。ずっと眺めていると、存在と不在の境界が曖昧になっていくようで、神秘的な体験でした。

T.TとArpaと両足院のトリプルコラボレーションによるお香「SENKO NO KU(閃光の空)」

フレグランスのほかに、同名のお香も展開されています。こちらはT.TとArpa、さらに京都最古の禅寺として知られる建仁寺の塔頭寺院のひとつ、両足院も加わったトリプルコラボレーション。香木のなかでもとりわけ希少とされる伽羅(きゃら)をはじめ、ジャスミン、クミン、ラブダナム、ムスクをブレンドした甘美で奥行きのある香りは、両足院に伝わる古布の匂いを記憶として再現しています。

京都の寺院、両足院で開催中の展覧会「VACIO Senko no Ku」へ

今回の三者協業を記念した展覧会「VACIO Senko no Ku」が両足院で開催されているので、そちらも観に行ってきました。VACIOとは、スペイン語で「余白」や「空白」を意味する言葉。フレグランスのコンセプトと呼応し、“消えゆくもの”を主題にした作品群で構成されています。

会場全体を満たすのは複合的な香り。足を踏み入れた瞬間から、自然と呼吸が深まります。それらが記憶を呼び覚まし、ひいては視覚や触覚などと結びつき、共感覚を呼び起こす場となることを目指した空間です。そしてここでも、揺らめきや光の反射がキーワードに。アルミニウムやメタリックプリントを施した布など、銀のような素材がいたるところに使われています。

京都の両足院で開催中の展覧会「VACIO Senko no Ku」の展示風景

ひとつ目は、畳の上にアルミ製のボックスが設置され、その奥に抽象的なビジュアルが置かれた部屋。鑑賞者が部屋の中を動くたび、アルミの表面で光が反射し、不確かな像が現れては消えていきます。

京都の両足院で開催中の展覧会「VACIO Senko no Ku」の展示風景。5つのオブジェが並ぶインスタレーション

photo by Daisuke Shima

続くインスタレーションでは、アルミやガラス繊維板、さまざまな色彩が混ざり合うパネルを組み合わせた5つのオブジェが並びます。それぞれの幾何学的な造形は、江戸時代に考案された香道遊び「源氏香」の図に着想を得たもので、自由に触れながら鑑賞できるようになっています。

京都の両足院で開催中の展覧会「VACIO Senko no Ku」の展示風景。6枚の布で構成された作品

photo by Daisuke Shima

6枚の透過性のある布で構成されるこの作品は、正面から見るとひとつの像のようですが、空間を進むと分解されていく仕掛け。

京都の両足院で開催中の展覧会「VACIO Senko no Ku」の展示風景。ひとつの像のように見えて、空間を進むと分解されていく。

しかも1枚1枚が異なる香料をまとっていて、香水の制作過程を表現しているかのよう。

京都の両足院で開催中の展覧会「VACIO Senko no Ku」の展示風景。銀色の布が幾重にも重なる部屋

庭園に面した大書院では、吹き通る風を受けて揺らめく銀色の靄がかかったような布が、幾重にも重なります。布にはお香が焚きしめられ、床の間に向かって進んでいくと、見えない煙の広がりを感じられるような、とても幻想的な空間でした。

4月17日まで、京都の名刹が特別な香りでの画像_10

各部屋に点在する色とりどりのビジュアルは、香りの制作過程をバーナベさん自身が視覚化したもの。夜の街を長時間露光で撮影することによってでき上がったイメージです。

名刹の静謐な空間に、香り、色彩、布、光などさまざまな要素が交錯し、五感がひらかれるようなひとときでした。

両足院の茶頭による茶席も

両足院の茶室で開かれた、茶頭の中山福太朗さんによる茶席

両足院での展覧会は4月17日まで(総合芸術空間 T.Tでのインスタレーションは19日まで)。会期中、両足院の茶室では、茶頭の中山福太朗さんによる呈茶席も開かれています。中山さんの肩肘張らない巧みな話術が心地よく、美しい所作に惚れ惚れしました。茶席は予約制で、専用サイトから空き状況を確認できます。

インターネットやSNSを通じて大量の情報に触れる日々ですが、香りや味はリアルな場でしか体験できないもの。この展覧会を通じて、五感を使って感じることの贅沢さを再認識しました。京都へ行かれる際は、ぜひ足を運んでみてください。

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香水「SENKO NO KU(閃光の空)」

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香水「SENKO NO KU(閃光の空)」

価格

¥58,300

お香「SENKO NO KU(閃光の空)」

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お香「SENKO NO KU(閃光の空)」

価格

¥6,600

VACIO Senko no Ku
VACIO Senko no Kuの画像_12

会期:2026年4月17日(金)まで
営業時間:13:00 - 17:00(最終入場 16:30)
会場:両足院(京都府京都市東山区小松町591)
入場料(拝観料):一般 1,000円 / 中高生 500円 / 小学生以下無料(現金のみ)

月面の光
月面の光の画像_13

会期:2026年4月19日(日)まで
営業時間:12:00 - 19:00
会場:総合芸術空間 T.T(京都市東山区祇園町南側570-120)

エディターHAYASHIプロフィール画像
エディターHAYASHI

生粋の丸顔。あだ名は餅。長いイヤリングと丈の長いスカートが好き。長いものに巻かれるタイプなのかもしれません。

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