赤からピンクへ―二章目の幕が開くとき「バラ色のエルメス」

昨年の衝撃的な誕生から1年。この春、エルメスのビューティから最新コレクションが発表された。名前は〈ローズ・エルメス〉。デビューコレクションの〈ルージュ・エルメス〉、つまり赤から始まったチャプターは、ローズ、つまりピンク色の軌跡を描き始めた。白眉は、新しく仲間入りした8色からなるチーク。そのインスピレーションの源にあるのは、自らと向き合い、内なる美が芽吹きだす瞬間の色彩だ。

1 8色からなるピンクのカラーレンジは、エルメスのカレのアーカイブが着想源。着目したのは、ともにきめ細かに輝き、しなやかであるというパウダーとシルクとの共通点。シルクツイルの繊細な織り目が軽やかに走るパウダーの表情は、ずっと眺めていたい美しさ。抗酸化作用のあるビタミンEが配合されており、ケア効果にも期待。微かに漂うアルニカと白檀、グリーンティーの爽やかな香りもエルメスならでは。香水クリエーション・ディレクター、クリスティーヌ・ナジェルによる透明感あふれる香調が、さらなる高揚感を呼び寄せる。青みを帯びたピンク。
《ローズ・エルメス ファー ア ジュ プードル ソワユーズ》 32 ローズ・ポメット
2 アジア限定色のくすみピンク。
同 37 ローズ・ポワヴレ
3 健康的なオレンジトーンがフレッシュ。
同 19 ローズ・アブリコ/以上各¥9,020

4 かげりのあるドラマティックなダークローズ。
《ローズ・エルメス ファー ア ジュ プードル ソワユーズ》54 ローズ・ニュイ/¥9,020
5 赤ではなく、バラ色のささやき。色というより光を唇にまとわせるリップカラーも同時発売。ヒントとなったのは、名作バッグ《コンスタンス》などに用いられるレザー、ヴォー・バトラーのなめらかなテクスチャー。ラズベリーシードオイルとセサミンなどからなるモイスチャー成分が潤いを約束する。蜜蠟のようななめらかなつけ心地を、ぜひ体感してみてほしい。マットなピンクのパッケージと丸みを帯びたフォルムもどこまでもモダン。艶やかなピンクは、夏のバラの色。
《ローズ・エルメス ローズ ア レーヴル》 30 ローズ・デテ
6 アプリコットのような元気なピンク。
同 14 ローズ・アブリコテ
7 琥珀のようなくすみローズ。
同 49 ローズ・タン/以上各¥8,030
8 チークと、このたび同時に発売される化粧筆を収められる円形ポーチ。内側にはストラップが配されていて、プロダクトをぴたりと固定。
チークケース《ポメット》¥513,700/エルメスジャポン


「たとえばピカソの『バラ色の時代』を思い浮かべてみてください。ヌードや肌を描くために、さまざまなピンクが使われていて、とてもフェミニンな時代でした。無限の、非常に繊細な色調がこの色にはあるのです」

 そう語るのはエルメスのシューズ/ジュエリー部門のクリエイティブ・ディレクターであるピエール・アルディ。パッケージデザインを担当した彼のアプローチは、前回の〈ルージュ・エルメス〉とは少し異なっていたという。

「ローズはもっと曖昧で主観的。その人自身のセンシュアリティや感情を見せる色ですから」

 シグネチャーとして生まれたデビュー作のルージュには、輪郭を際立たせるような強い主張があったのに対し、はかないローズはうつろうような色。丸いオブジェの蓋を開けると、シルクツイルの細やかな凹凸を映した色玉はセンターからややずらした位置に配置されていて、控えめだけれどちゃめっ気のある表情を見せてくれる。

「デザインにおいて機能性とファンタジー、どちらにも妥協をしていません。プロダクトを使う楽しさはもちろん、ただ置いてあるそれを眺めたとき、触れたときにも別の楽しみを見いだせるように」

 その言葉どおり、蓋にはアイコンであるエクスリブリスが配されていて、指の腹でその凹みをなぞればその位置を下にしてケースを開閉することができる心憎い演出も。閉じたときのささやかな「かちり」という音の心地よさにもこだわった。そして蓋とエクスリブリスと、ややズレた位置の色玉。オブジェの中の三つの円の曲線が多重奏となり、モダンでフェミニンな魅力を放っている。アルディ氏は続ける。

「私は普段はジュエリーやシューズをデザインしていますが、それらはそのまま身にまとうオブジェです。ところが化粧品の場合は少し違います。オブジェを通して女性がメイクアップを施し、結果的に美しくなる――つまり仲介者というような役割がこのオブジェにはあるということ。その在り方を意識しながら、現代的なフェミニニティを表現することを念頭に置いています」

 頰紅を施すという、古くからある所作。白く輝くパーマブラスのチークを手に取れば、このしぐさはとたんにモダンに刷新される。

「私はかつて美術を学んでいたのですが、女性がメイクアップをするジェスチャーには、絵画や彫刻との共通点があるように思うのです。自分自身と向き合って化粧をする工程は、ファインアートそのものだと。自分自身に注意を払うこと、内面をしっかり見つめることをエルメスはこれまでも大事にしてきました。その人の内面の在り方こそが、もっとも大切なのです」

 バラ色の頰色は生命の息吹、心の高鳴り。内なる高揚を冗舌に物語るオブジェがこの春、エルメスのビューティを新たな高みへと導いていく。

©Alexis Armanet

ピエール・アルディ (Pierre Hardy)
メンズ/レディスシューズ クリエイティブ・ディレクター
エルメス ジュエリー クリエイティブ・ディレクター

1990 年、エルメスのメンズ/レディスシューズ クリエイティブ・ディレクターに就任。
1999 年春より、自身のブランド「ピエール・アルディ」をスタート。
2001年、同ジュエリーのクリエイティブ・ディレクターに就任。
2010 年には、エルメス初のハイジュエリー・コレクション《オート・ビジュトリー》を発表

エルメスの色彩を旅したい

伊勢丹新宿店で開催中の「エルメス・イン・カラー」は、エルメスが体現する「美」を、さまざまな色彩とともに紹介するポップアップストア。昨春発表されたエルメスのビューティの第一章であるリップスティックのコレクション〈ルージュ・エルメス〉や、香り豊かなバスライン、そして今春新たに登場するチークとリップスティックから成る〈ローズ・エルメス〉のコレクションのほか、ファッションアクセサリーや革小物も展開中。豊かで奥深いカラーパレットがもたらす高揚感を届けます。

ポップアップストア 「エルメス・イン・カラー」
場所:伊勢丹新宿店本館2階=センターパーク/ザ・ステージ#2
会期:2021年4月14日(水)― 終了日未定

SOURCE:SPUR 2021年6月号「バラ色のエルメス
photography: SHINMEI 〈SEPT〉 styling: Masayo Kooriyama 〈STASH〉

FEATURE