現在はパリに拠点を置き、ショーのメイクアップのディレクションや海外のエディトリアルなど、多岐にわたって活躍する注目のメイクアップアーティスト、Kanako Yoshida。彼女のクリエーションの原点や気になる今のマインドをのぞき見る
パリ&東京で活動するメイクアップアーティスト。2008年に渡英し、3年間をロンドンで過ごす。渡仏を経て、2012年に帰国。モッズヘアに所属し、ヘアスタイリスト/メイクアップアーティストの加茂克也氏とともに多くのコレクションを担当。2017年、再びパリに渡り、シャネルを手がけたルチア・ピカのファーストアシスタントとして3年間活動する。現在はパリ暮らしをしながら、活躍の場を広げている。
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「A.P.C.」や「MARQUES’AL MEIDA」「Charlotte Chesnais」 など、ファッションからジュエリーまで幅広いブランドのキャンペーンビジュアルに参加した。時代の空気とブランドの個性を生かしたKanakoのメイクアップがパリの街角を席巻。
CELEBRITY
俳優、モデルからの指名も多く、国内外の撮影で活躍。確かなテクニックと、その人らしさを大事にしながら新たな個性を見つけるメイクアップで、絶大な信頼を獲得している。
RUNWAY
ファッションウィーク中はランウェイのメイクアップも手がけ、「ANREALAGE」「MASU」「kudos」「UJOH」などビジュアルの指揮を執ったブランドは多数。「Kiko Kostadinov」「LARUICCI」など海外ブランドからの信頼も厚く、数シーズン担当することも。服やモデルのキャラクターに寄り添いながらもスパイシーなインパクトを残すメイクアップで、デザイナーからラブコールが絶えない。
ART DIRECTION
2022年の秋に誕生したリエンダ ビューティでは、広告ビジュアルのディレクションを担当。コロナ禍だったこともあり、撮影はパリと東京をリモートでつないで行われた。内に秘めた強さや自信を引き出すKanakoらしいエモーショナルなメイクアップで印象的なビジュアルに。
EDITORIAL
ロンドン、パリと長い海外生活の間で、本誌のビューティページにも数多く参加。またパリ発のファッション誌『The Skirt Chronicles』では、表紙や巻頭のページでメイクアップを担当。Kanakoが表現するドラマティックでありながら温かみのある女性像は、国を超えて支持されている。
Style#1 インパクトあるブルーのまなざしで’90s映画のヒロイン風に
メイクアップの着想は、映画の中の女性から得ることが多いです。今回イメージしたのは、映画『バッファロー’66』(’98)に登場するクリスティーナ・リッチ。彼女って、リアルっぽいのに実際にはいない。憧れるけど手が届かない、そういう絶妙な距離感で独特のオーラを放つ唯一無二のキャラクターだと思うんです。ブルーのグラデーションで仕上げた目もとは"懐かしいのに新しい"、まさにこの春の気分。自由奔放に生きる架空の映画のヒロインを、グラマラスなアイメイクで表現しましたーKanako
MAKE-UP TIPS
"アイシャドウは薄い色から濃い色の順にのせる"というルールが染みついている人が多いと思うが、Kanakoのメイクアップの発想は逆。「まず濃いブルーをどう置くか考え、次に淡いライラックを。印象の強い色、挑戦的な色こそ先にのせてバランスを取っていくほうが実は簡単。最後に濃いブルーのラインで目のキワを囲んで目もとを締めました」
"Kanakoメイク"を再現するなら、ブルーを重ね使いで。1を黒目の上にのせ、2の左下を目頭と目尻の上でぼかし、最後に3で目のキワを囲む。1 空をイメージしたマットなブルー。ケイト ザ アイカラー M108 ¥715(編集部調べ)/カネボウ化粧品 2 水面を連想させるきらめく発色。ルナソル アイカラーレーション EX30 ¥6,820〈5月19日限定発売〉/カネボウ化粧品 3 クリーミィな描き心地。カジャルインクアーティスト 07 ¥2,420/SHISEIDO
Style#2 ボリュームまつ毛のネオゴシックカルチャーガール
今、気になっているトレンドの一つが、バサバサッとしたボリューム感のまつ毛。モデルのペールなスキントーンとブルネットに染めたヘアというゴシックっぽいムードにインスパイアされ、赤のマスカラを選びました。アイシャドウやリップには、肌の透明感を引き立てるグレイッシュなモーブを仕込んでいます。赤いまつ毛は個性的ですが、ワントーンでまとまったメイクアップは、意外と真似しやすいかもしれませんーKanako
MAKE-UP TIPS
ここでも主役の色となるマスカラからアイメイクを仕上げるのが、Kanako流。「マスカラは実は2色を使って仕上げていて、上まつ毛は赤のみ、下まつ毛は黒いマスカラに赤を重ねるという手法で、微妙な強弱をつけています。まつ毛が完成してから、アイホールの外側に薄い黄み系ブラウンを入れ、さらに二重幅にモーブを入れるという順番です」
赤のマスカラやモーブカラー、ヘーゼルナッツの影色で、メイクアップを再現。1 重ねるほどにボリュームアップ。ザ マスカラ インテンス ラッシュ 003 ¥4,180/ADDICTION BEAUTY 2 肌になじむマットな質感。ケイト ザ アイカラー M114 ¥715(編集部調べ)/カネボウ化粧品 3 微細なパールが輝く。デュオアイシャドー 3924 ¥4,620/NARS JAPAN 4 実際にKanakoも愛用しているペンシル。目もと、眉、リップとマルチに使える。アーティストカラーペンシル 608 ¥3,080/メイクアップフォーエバー
Kanakoのクリエーションを刺激する記憶のかけら
ロンドン、東京、パリ。3つの都市で積み重ねた経験から新たな作品が生まれる
「何かのテイストに偏るより、自由に回遊するほうが好き!」。そう語るKanakoの引き出しは、時代も空間も超えてさまざま!
1 「ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の主人公のように、パッションを持って燃え尽きるような人生に憧れます」2 「20代の大半を過ごしたロンドン。当時感じたクリエイターたちの熱気は今も忘れません」3 「ヒョウ柄にピンク。私の根底にあるのは、ギャルマインドです。自由に華やかなお化粧を楽しみ、さまざまなカルチャーや人と触れ合う。この経験が私のルーツになっています」4 「映画の中のヒロインからメイクアップのイメージをもらうことが多いですね。特に映画『ロスト・イン・トランスレーション』(’03)に登場するスカーレット・ヨハンソンのようなちょっぴり繊細な人に惹かれがち。実際に友達だったら振り回されそうですけど、映画の中なら(笑)」5 「時間がゆっくり流れているパリ。30代を迎えた今の自分にとって、一番しっくりきている街」6・7 「ロンドンやパリではメゾンブランドの展覧会によく足を運びます。日本でも開催中の『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ』はパリで見ました。ドリス ヴァン ノッテンやマルタン・マルジェラ、ティエリー・ミュグレーなども、思い出深い展示でした」8 「20代の後半は東京で。仕事に追われながらも、いろんな出会いや経験がギュッと詰まった濃厚な時間を過ごしました」
Kanako Yoshidaの"技"を生み出す愛用ツール公開
大胆かつ繊細なテクニックは、どこから生まれるのか。貴重なプロフェッショナルのツールを披露する
長年愛用のボックスに基本のメイクアイテムを入れて 「どの現場でも使うベーシックなアイテムは黒いボックスに入れています。中でも欠かせないのが奥の仕切りに入っている目の下用コンシーラー。シャネルのピンク系、ディオールの黄み系とモデルのクマの色に合わせて使い分けています。ファンデーションの下にコンシーラーを仕込むのが、私のベースメイクの基本! 手前の仕切りにはアイブロウアイテムを。顔の印象を左右する大事なパーツなので、モデルの自眉に近い表現ができるようなペンシルが必須。M・A・Cの『シェイプ + シェード ブロウ ティント』は発売当初からのお気に入りです」
代名詞ともいえる印象的なアイメイクはここから Kanakoの目を引くアイメイクは、各ブランドから厳選されたアイカラーを詰め合わせたオリジナルのパレットから生まれる! ビビッドな色が多く、カラートーン別に整理。「マリークヮントは特に愛用しているブランドの一つです」
細部まで丁寧に仕上げるためのこだわりのブラシ 「使用頻度が最も高いのは、シャネルのダブルエンドのブラシ『パンソー デュオ コレクトゥール N°105』。アシスタントをしていたルチア・ピカも愛用していたのですが、2種の毛先が1本になっていて本当に使いやすい! ベージュの持ち手のブラシはアート用ですが、お粉やチークをのせるときに便利。硬く細い毛質はコシがあり、細かいディテールも描きやすく、丁寧で素早い仕上がりに」
ボディペイントなど特殊な要望にも応えるカラーアイテム 「コレクションのメイクアップでは急にボディペイントをオーダーされることも! アーティスト用のペイントカラーを、オイルベースとウォーターベースに分けて持ち運んでいます。下のリップペンシルも、いろんな肌色に合うようにたくさん入れています。最近は目もとが主役のメイクアップをすることが多いので、リップはさりげないスキントーンくらいのカラーで仕上げることが多いですね」
Kanako Yoshidaに刺激を与えるクリエイターたち
メイクアップの魅力や人物像を師でもあるルチア・ピカはじめ、親交のあるクリエイターが語る
Lucia Pica(ルチア・ピカ)/メイクアップアーティスト
仕事にも人生にもスマートなアプローチができる人
Kanakoとは、数年間チームとしていい関係を築いてきました。アシスタントとしてこまやかな配慮をしてくれたことはもちろん、明るい人柄で現場の雰囲気を和ませてくれました。彼女の魅力はメイクアップの才能だけでなく、仕事や人生に対して、独自の視点や鋭い直感力を持っていることです。ともに働けた時間は一生の宝物ですし、今でもときどき彼女のユーモアが恋しくなることがあります
by Kanako 「ワーキングホリデーでロンドンに滞在中、たまたまルチアがファーストアシスタントを探していると知人に聞いたのが出会いのきっかけ。彼女がシャネルで務めた3年間を一緒に過ごしました。ルチアからは、日本で育った自分にはなかった、海外の豊かな色彩感覚、ヨーロッパの昔のファッションやビューティの歴史をたくさん学びました。新しい感性を与えてくれた、恩師です」
Mickael B Schnitzer(ミカエル・B・シュニッツァー)/フォトグラファー
精度の高いテクニックと優れた美的センスの持ち主 私たちは、パリのファッションブランドの撮影で出会い、その後もさまざまな仕事で切磋琢磨してきました。彼女の美的センスは類いまれなものであり、色鮮やかでグラフィカルなメイクアップには、非常に高い技術を感じます。現場でのKanakoはいつでもやさしくて、純粋。どんな場面でも楽しいトークで僕たちを和ませてくれる、最高のキャラクターです
by Kanako 「エディトリアルやルック撮影などたびたび一緒に作品作りをするミカエル。信頼関係もできているし、こちらの意図を汲みつつ、柔軟に対応してくれるので今回の企画の撮影もお願いしました。彼の幅広い表現力で、二つのテイストの異なるルックを表現してくれました」
Cem Cinar(セム・チナル)/LARUICCI クリエイティブ・ディレクター
柔軟でユニーク、それが彼女の最大の魅力 約2年前に共通の友人に紹介してもらったのが、出会いのきっかけでした。Kanakoの作品は、彼女が作ったものとひと目でわかるほどにユニーク。新鮮なクリエイティビティで、ブランドのビジョンを完璧に表現してくれるんです。同時に、柔軟で細かいところにも自然と気を配ることができる。そのバランス感覚に驚かされます。リスクを負うことを恐れず、勤勉で前向きな姿勢には刺激を受けますし、オフのときにも一緒にいて楽しい存在です
by Kanako 「数シーズン、コレクションやルックを担当しているNYのブランド。グラマラスなルックに似合うインパクトのあるメイクアップを心がけていますが、互いに意見を交わし合ういい関係性で、楽しいクリエーションが生まれている実感があります」
Halldora Magnusdottir(ハルドラ・マグナスドッター)/アーティスト
現代を生きる女性のお手本 メイクアップアーティストとして優れた技術と正確さを持っているのはもちろんですが、最も感心するのはクリエイティビティです。Kanakoは常に新しいことに進んで挑戦しようとし、限界を押し広げています。そして一人の女性として、強くて正直であり、何よりやさしい。ストレスと競争が人々を変えうるファッション業界で、自分が自分であることに忠実で居続けるKanakoは現代女性のお手本であると思います
by Kanako 「アーティストとして活動するハルドラとは、ロンドンに住んでいた頃、共通の友人に紹介されて出会いました。当時は同じプロジェクトに取り組むこともしばしば。もともと彼女はパリ在住なので、友人としてより関係が深まったのは、私がパリに移住してから。私にとって大切な友人であり、尊敬するアーティストの一人です」