慣れ親しんだ食べ物の香りは、幸せな記憶を呼び覚ます、生活を豊かに彩る要素の一つ。今やさまざまなバリエーションで揃うグルマンノートを一堂に集めて。五感に響く饗宴を、堪能しよう
香りを味わうアフタヌーンティー
カクテルにサンドイッチ、ケーキにフルーツ、チョコレート。次から次へとおいしいものがサーブされるアフタヌーンティーになぞらえてグルマンノートをご紹介。優雅な午後のひと時を芳醇な香りとともに──
メゾン クリヴェリ アブサン ボレアル オードパルファム
カクテル
自身の実体験をもとに作り出す製品が話題の新進ブランド。オーロラが揺らめく夜空の下で飲んだ冷たいアブサンをヨモギ系のハーブ、アルテミシアの清涼感とぬくもりあるムスクで表現。キリッと澄んだ香りで乾杯を。
レ・ジャルダン・フランセ オー・トリプル グロセイユ・エ・トマト
サラダ
耕された土の匂いと素朴な野菜。菜園から漂うフレッシュな香りをパレットにしたビュリーの水性香水。トマトと赤すぐり、ベルガモットにローズマリーがみずみずしく爽やかなサラダを思わせて。
トム フォード プライべート ブレンド ビター ピーチ オード パルファム スプレィ
フルーツ
実りのピークを迎えた桃の果汁があふれ出る瞬間をとらえたフルーティ フローラル シプレー。濃厚なラムやコニャックオイルにアーモンドの苦みが添えられた、まさに大人のためのデザートといった趣。
キャロン タバック・エクスキ オードパルファン
チョコレート
キャロンのアイコニックなプロダクトは、タバコにおいしいチョコレートアコードを組み合わせた悦楽的でモダンなフレグランス。カカオとトンカビーンズの甘いグルマンノートにアンブロクサンのウッディノートが重なり、おいしさに深みをもたらして。
アールグレー & キューカンバー コロン
サンドイッチ
紅茶とキュウリのサンドイッチを連想させる、伝統的なアフヌーンティーをイメージしたユニークなプロダクト。ベルガモットのシトラス感と紅茶のぬくもり、キューカンバーの青さが渾然一体となり、やがてまろやかな甘いノートへ。
ブルガリ アレーグラ ドルチェ エスタジ オードパルファム
スウィーツ
パウダーシュガーやアーモンドアマレッティ、オレンジブロッサムの香りづけをしたイタリア菓子コンフェッティを想起させて。幼い頃の無償の愛に包まれていた家族とのひと時が思い出されるような甘美なノート。
ラルチザン パフューム ティー フォー ツー オードトワレ
ブラックティー
スパイスのきいた紅茶、ラプサンスーチョンにタバコがモダンな趣を添えるスモーキーなフレーバーが特徴的。そこにジンジャーやハチミツ、バニラがぬくもりと甘さを添え、ゆっくりお茶を楽しむひと時を思わせる安らぎの香りに。
味わうという行為は味覚と嗅覚が揃って、初めて認識できるものなのです
コロナ禍という未曽有の体験を通して、それまであまり意識していなかった嗅覚への関心が高まった。嗅覚が失われると、食生活から味わうという楽しみが失われることを痛感した人も多いはず。産業技術総合研究所で味覚・嗅覚の研究を行う小早川達さんは次のように語る。
「そもそも味覚というものを舌だけで感じていると考えている方が多いのですが、それは違います。味わうという行為は舌の味覚と触覚、そして最初に鼻から入ってくる香りだけでなく、食べ物を飲み込んだときに喉から戻ってくる匂い、これらすべてが脳で感知されて初めて味を認識することになるのです。
味覚は基本的には酸味・甘み・塩み・旨み・辛みの5要素（辛みだけがさらに5バリエーションあり）から構成されるのみですが、嗅覚は受容体が400種に及び、それぞれが認識できる香りの分子が複数あります。つまり感知できる香りの種類はほぼ無限に存在するのです。それを瞬時に判断できるのが人間の嗅覚。私は嗅覚をAIは太刀打ちできないNI＝ナチュラルインテリジェンスだと思っています。
また、おいしい香りは幸せな気分をもたらすことができるか？ということに関しては、食事をしているときは笑顔になる率が高いというデータもあるので、香りが幸福な記憶を呼び起こすきっかけとなることはあり得ることですね」
工学博士。味・匂いに関する基礎的研究から健康・医学分野、産業への応用まで幅広く研究。著書に『味嗅覚の科学 人の受容体遺伝子から製品設計まで』（共著）。
グルマンノート トレンドの系譜
1992年、キャラメリゼしたスイーツの香りの誕生とともにグルマンノートという新しい概念がフレグランス界に持ち込まれた。”おいしい”香リは人々を魅了し続け、そのバリエーションを増やし続けている
1 ココ マドモアゼル オードゥ パルファム
オレンジやベルガモット、ローズにジャスミンというシトラス果実と花々のフレッシュさにバニラの甘さを溶かし、洗練されたパチュリとヴェチバーを合わせた。それまでになかった新しい香りのハーモニーで発売後大ヒットを博し、今なお人気の高い名香。
ココ マドモアゼル オードゥ パルファム 100㎖￥21,560／シャネル
2 プラダ キャンディ オーデパルファム
キャラメルを清らかでパウダリーなムスクと樹脂独特の深みのある甘さを持ったベンゾインで強調。モダンでポップで華やかな香りは食べ始めたら止まらないキャンディのよう。アディクティブでパワフルな世界観は、今もなお人々を惹きつけてやまない。
プラダ キャンディ オーデパルファム 50㎖￥15,950／プラダ ビューティ
3 ラ プティット ローブ ノワール オーデパルファン
甘酸っぱいブラックチェリーにスモーキーなブラックティーと甘やかなトンカビーン。そこに新グルマンノートのキーとなる土臭さのないパチュリを組み合わせた香りは、老舗ゲランに若い世代のファンを一気に増やした名作。みずみずしい甘さがキュート。
ラ プティット ローブ ノワール オーデパルファン 50㎖￥15,400／ゲラン
4 ディプティック オードパルファン フィロシコス
太陽が輝くギリシャ・ペリオン山にある野生のイチジクの果樹園で過ごした夏の日のオマージュ。イチジクの葉のフレッシュなグリーンノート、イチジクの実から滴るミルキーなフレーバーを表現。ホワイトシダーがイチジクの存在を引き立てる。
ディプティック オードパルファン フィロシコス 75㎖￥27,390／Diptyque Japan
5 ブルガリ オ・パフメ オーテヴェール オーデコロン
1992年、ローマのブルガリ本店を訪れる顧客のために作られた＂お茶＂の香りは瞬く間に評判になり、商品化され、今も根強い人気を誇る。爽やかなベルガモットやカルダモンのあとに立ち上る緑茶が安らぎをもたらす。
ブルガリ オ・パフメ オーテヴェール オーデコロン 75㎖￥14,520／ブルガリ パルファン カスタマーサービス
6 ロジェ・ガレ オ パフュメ テ オードトワレ
アロマティックなレモンとウッディなサンダルウッドで、セイロンティーのスモーキーシトラスな香りを表現。「テ ファンタジー」として一世を風靡した紅茶のフレグランスは現在は「テ」という名称に。心地よさに包まれるヒーリングノート。
ロジェ・ガレ オ パフュメ テ オードトワレ 100㎖￥6,820／ブルーベル・ジャパン
7 アルマーニ プリヴェ レゾー ユーロン オードトワレ
豊かな自然の中を散策するような、花々と緑のブレンドによる清々しい香りのシリーズ。その中でも人気の香調は中国の雲南地方の茶畑をイメージしたユーロン。スモーキーさとシトラスが溶け合い、深みある烏龍茶の香りを想起させる。
アルマーニ プリヴェ レゾー ユーロン オードトワレ 50㎖￥20,020／アルマーニ ビューティ
おいしい記憶と結びつくグルマンノートは本能に訴える魅力で2000年以降ヒット中
フレグランスアドバイザーのMAHOさんによると、グルマンノートというカテゴリーを表す用語が生まれたのは1992年。ティエリー ミュグレーのエンジェルというフレグランスがきっかけだと言う。
「それ以前にもバニラを賛美するような甘い香りは存在していました。しかし、バニラやチョコレート、フルーツの甘さではなく、キャラメリゼしたような綿菓子の甘さと土っぽいとされるパチュリの組み合わせは、当時の調香技術者たちに衝撃をもたらしました。その強烈な甘さにより、エンジェルの評価は賛否が分かれます。しかし、徐々にそのオリジナリティに魅了される人が増えました。
2001年にはシャネルがフルーツとパチュリを合わせたココ マドモアゼルを発表。フルーツとふんわりしたバニラ、そこに、それまでは土っぽさが特徴の一つだったパチュリをクリーンに洗練させて調香することで、爆発的な人気を博します。その後もプラダのキャンディ、ゲランのラ プティット ローブ ノワール、ディプティックのフィロシコスなどヒットを続けるおいしそうな名香が続々誕生。
また忘れてはならない製品が、エンジェルと同年に登場した、お茶をモチーフにしたブルガリのオ・パフメ オーテヴェール。お茶という日常に慣れ親しんだものの精神性をフレグランスで表現する新鮮さと香りの清々しさが大いに受け、グルマンのもう一つの系譜を作ったと言っていいでしょう」
日本フレグランス協会常任講師。香水のイベントやセミナーのほか、パーソナルカウンセリングを行なっている。
料理とフレグランスのおいしいマッチング
レストランでフレグランスがNGというのは今や昔の常識。香りが強くなりすぎないようにつけこなし、料理に使われる素材をキーにしたグルマンノートを合わせれば、食事の場が華やかに
レ ゼピュール ドゥ パルファン カルティエ ピュール キンカン オードトワレ
和食
お刺し身などの生魚やかつおや昆布のだしが香る椀物など、繊細な和食には濃厚な香りはNG。ユズやスダチ、キンカンなど料理にもよく使われる柑橘は、まろやかな香り立ちで日本食にも合うはず。すっきりとした和のシトラスを、賦香率の低いオーデコロンやオードトワレで。
自然を瞬時に閉じ込めたような感覚をもたらす、ラグジュアリーなコレクション。摘みたてのキンカンがフレッシュに弾ける世にもデリシャスな香り。
スウィートオスマンサス オードパルファン
中国料理
今、日本でも人気の金木犀＝オスマンサスの香りのブームは実は中国が火付け役という説も。秋の到来を告げる金木犀。その開花は幸せをもたらすものとして愛されている。花椒や八角、桂皮などスパイスのきいた中国料理に合わせるお茶に使われる金木犀なら相性ばっちり。
秋の訪れとともにふんわりと漂ってくる金木犀はここ数年、香りのトレンドに君臨。丁寧に抽出した天然香料を用いたフレグランスの深い甘さとぬくもりで穏やかな気持ちに。
レ・ジャルダン・フランセ オー・トリプル ヴェルヴェーヌ・エ・バジリック
イタリア料理
バジル、ローズマリー、パセリ、タイムに、セージやオレガノ。緑の彩りと消臭や防腐効果が目的でイタリア料理に添えられるハーブ類は、みずみずしく、すっきりと爽やかな香りが食欲をそそる、まさにグルマンノート。ピッツェリアやトラットリアに出かける日のお供にどうぞ。
黒海産バジルをキーノートにパウダリーなホワイトムスク、ヴァーベナやシダーが響き合い、イタリアを思わせる陽気ではつらつとした香りに。
ネオンアンバー オードトワレ
カレーやタンドリーチキンなどのインド料理をはじめ、中東のアラビアやアフリカなど香辛料を多用した料理にはクミンやカルダモン、シナモンなどのスパイス系のノートを。もしくはハチミツやリコリス、トンカビーンなどホットな甘さをアクセントにした香りが相性がいい。
新しいバニラと呼ばれるトンカ アブソリュートをブレンドしたクリーミーなアンバリーノート。シトラスが弾けたのち、お香のようなアンバーに移り、シダーリーフやシダーウッドが浄化感をもたらす。
クリード ヴァージン アイランド ウォーター オーデパルファム
タイ料理
トムヤムクンやガパオなどで知られるタイ料理は辛み・酸味・甘み・塩み・旨みとあらゆるおいしさが一皿に盛られるのが特徴的。さっぱりとした風味を添えるのに使われるライムやタマリンド、辛みとの調和を取るココナッツミルクやパウダーシュガーが使われた香りがマッチする。
ほのかなココナッツとライムが南国を思わせるトロピカルな香調。香料となる植物の種から製品まで一括管理する老舗パフューマリーならではの品質の高さがうかがえる名香。
メゾン マルジェラ レプリカ オードトワレ オン ア デート
フランス料理
生クリームやバター、小麦粉を使ったホワイトソースや赤ワインやマディラ酒を用いたデミグラスソースなど、芳醇な香りごと味わいを楽しむフレンチ。ビストロやブラッスリーなら、馥郁としたローズや、風味豊かなブドウをキーにしたワインやリキュールなどお酒の香りで花を添えて。
調香師とソムリエのコラボレーションにより生まれたロゼや赤ワインをイメージした香り。色づいたブドウと摘みたてのローズの美しいハーモニーがロマンティックなデートを演出。
カルトゥージア テッラ ミア オードパルファン
デザート
おいしい食事を締めくくる甘いデザートの一皿には、いつだってコーヒーが欠かせない。コーヒー豆を挽いたときのやわらかな甘みの中に広がる独特の苦みやすっきりとした酸味、それらが渾然一体となったまろやかなアロマがリラックスを誘う。カフェデートにつけていくのも一興。
かつてカプリ島の修道士たちが行なっていた手法で生産するフレグランス。コーヒーアラビカを核に、オレンジブロッサムやピンクペッパー、ヘーゼルナッツが優しく溶け合う高揚感のある香り。
おいしい食事のお供こそグルマンノートを。つけ方と香りの相性を考えれば問題なし
食事の場にフレグランスをつけて行くのはNGとよく言われているが、最近は様子が変わってきているとフレグランスアドバイザーのMAHOさん。
「星つきの高級な寿司店などでも香りのついたおしぼりを出すところもありますし、レストランにフレグランスをつけて行くことが全面的にNGというわけではなくなってきたと思います。もちろん、上半身をプンプンと香らせすぎるのはいけませんが、腰から下にさりげなく香らせるぐらいであれば問題ありません。出かける1時間ほど前につければ、より安心です。
カジュアルな和食ならユズなどの爽やかな柑橘系、イタリアンならバジルなどのハーブ、中国料理なら幸せの花として中国で人気の高い金木犀、フレンチならワインと、各国の料理によく使われている素材を意識して選ぶと失敗がありません。ドレスアップする際に個性を演出するフレグランスは欠かせないものですから、華やかなディナーの席であればなおさら、供されるお料理に合わせたグルマンノートをコーディネートするといった遊び心があってもいいのではないでしょうか？」
嗅覚は記憶と密接な関係を持つという。TPOに合わせてうまくつけこなすことで、楽しかったひと時がより鮮明な記憶として刻まれるはず。
