香水ジャーナリスト YUKIRINさんに聞く。今欲しいのは、イチジク&お茶の香水
ここ数年、ベストセラーとなっているイチジクとお茶の香り。長く展開されてきた香調でありながら、近年盛り上がりを見せている理由は? 歴史とともに、人気の理由を探る
今注目したい、お茶の香り
(1)BARUTI
昨年秋に上陸した、オランダの「BARUTI」。中でも「チャイ」は、スチームミルクの泡の再現までこだわり抜いた渾身作。シナモンなどのスパイスに、紅茶とミルク、バニラが混ざり合う。
(2)P.Seven
台湾茶のマスターが手がけ、日本にはない珍しいお茶を再現。「暗香」は台湾老茶をベースに、爽やかながら奥行きのあるオードパルファンだ。烏龍茶、紅茶、緑茶、烏梅が複雑に絡み合う。
(3)CARTHUSIA
麻布台ヒルズに初の直営店をオープンした、カプリ島発の「カルトゥージア」。グリーンティーとレモンが、地中海の明るい開放感を表現。
Q.トレンドになった経緯は?
1992年、ブルガリの「オ・パフメ オーテヴェール オーデコロン スプレー」をきっかけに広まったお茶の香水。緑茶や紅茶、烏龍茶といった普段からなじみのある匂いは、日本人の心をホッとさせてくれるので、香水初心者の方を中心に人気に。
Q.最近のティーフレグランスの潮流は?
もともと、ヨーロッパで親しまれたお茶の香りは、グリーンティーが主流でした。やがてブラックティーから派生し、ラプサンスーチョンや台湾茶、烏龍茶など、アジアのお茶も。最近では、ミルクティーや、チャイなどスパイスを使ったアレンジティーも注目を浴びています。商品が増えると同時に差別化を意識してか、幅が広がっていますね。
Q.今後の展開をどう予想する?
近年では、国内ファッションブランドがティーフレグランスを発売し、香水初心者の取り込みに成功。これからは、より高級感のある香調や天然香料にも注目が集まる予感。外資系プレステージブランドとニッチブランド、どちらも勢いを伸ばしています。
イチジクの香りの新作フレグランスを教えて!
(4)Miller Harris
舞台はギリシャのイドラ島。エーゲ海の潮風に乗って運ばれる、イチジクの香り。フィグの甘い果実に、シーソルトやウッディノートを加えて。
(5)PRADA
鮮やかなフィグアコードが肌に溶け込み、刺激的で上品に匂い立つ。爽やかな柑橘と、ビターなグリーンノートが融合。
(6)FLORIS
ロンドンのセント・ジェームズ・パーク。枝葉を広げたイチジクの木から漂う、クリーミーで甘く、ほろ苦い芳香を表現。
Q.トレンドになった経緯は?
1994年、世界で初めて作られたイチジクの香水が、ラルチザン パフュームの「プルミエフィグエ」。その後、ディプティックの「フィロシコス」や、エルメスの「地中海の庭」など現在も人気ブランドから発売され、フィグノートは存在感を増してきました。最近では、OBVIOUSの「ユヌ フィグ」が男女問わず支持を集め、ブームを牽引しています。
Q.日本で近年人気の理由は?
世界で見ると、実は局所的なトレンド。日本のフレグランス市場が急成長し、さまざまな香りを試したいと思う人口が増えたことが一因です。フルーツ系では、長らく柑橘系が支持されてきましたが、ひと味違う甘さを求める人から注目を集めたのでしょう。清潔感や好感度を大事にする、日本人らしい好みにマッチしている製品が多い点も人気の理由。
Q.イチジクを使った香水の中でのトレンドは?
グリーン強めのもの・ミルキーなもの・ジャムのように甘いものと、細分化しているのが特徴。フレグランスが描く土地や風景によっても、差が出ています。
香水・香り製品を専門に、女性誌などのメディアで記事を執筆。古今東西を問わず、多様なフレグランスの知識を持ち、コンサルティングやイベントプロデュースなど幅広く活躍。
精油のフレグランスが次々に登場。心整う、香りの秘密
ウェルビーイングを手助けする香水も増えている!アロマの力を取り入れて、日々心地よく過ごしていくためのヒントを、精油療法のスペシャリスト・加藤広美さんに教わった
香気を深く吸い込んで、自分自身と対話して ー加藤広美さん
「コロナ禍では、情報が錯綜して本質が見えづらい世の中でした。情報過多によるストレスや、社会の不安定さに振り回されないよう、今の自分に向き合うマインドフルネスを実践する人が増えたのではないでしょうか。香
水は外に向けて自己表現するものですが、自分自身を捉え直す内省の意味から、アロマテラピーに興味を持つ人も増えています。実は香りの力は、心身と密接な関わりがあるんです。嗅覚は、脳内で感情を司る部位に直通している。直感に訴えかけるので、好きか・嫌いかなど、匂いの感じ方にパーソナリティがはっきり出ます。また、記憶を司る部分である海馬にも密接なので、思い出に残りやすく、過去が呼び覚まされやすいのも特徴。香りの感じ方は嘘をつけず、そのときの自分の状態を映す鏡。女性ホルモンの状態や、疲れ・ストレスによっても、欲する香調は変わってきます。
たとえば、落ち込んでいるときはシトラスを。明るさの象徴であり、爽やかな気分にしてくれます。女性ホルモンによる不調には、フローラル系がおすすめ。生理で気持ちが落ち込んでいるときは、ローズやネロリがよいでしょう。逆に、リフレッシュしたいときは、ハーバル調を。ペパーミントやバジルなどの葉の香りは、胸を開いて呼吸を整える効果があります。疲れているときには、ウッディノートが最適。安らぎを求めているとき、安定感を持って支えてくれます」(加藤さん)
精油を使った新作から、おすすめをピックアップ。
(7)THREE
「柑橘のフレッシュさが高揚感を。カカオやゼラニウムの甘さで満足感もあります」。
「エッセンシャルセンツ X01」(9㎖)¥5,390/THREE
(8)100BON
「ユーカリやクラリセージのハーバル調で、精神が整う。スパイシーさもあり、頭が活性化しそうです」。
「マインドライン スプレイ【ブリーズ イン パリ】」(40㎖)¥4,400/フォルテ(ソンボン)
(9)soel
「トップの爽快なシトラスで頭を切り替えたあとに、ウッディノートが香る。気持ちを落ち着かせてくれます」。
「soel LIVING-OIL フレグランス サンダルウッドシトラス」(10㎖)¥3,800/コスメキッチン
英国IFA PEOTセラピスト、THENN AROMATHERAPY主宰。精油療法士として、心身の健康をケアするためのパーソナルブレンドを行う。
香水に、先入観はもういらない。新しいメンズフレグランス
男性だから、女性だから……といった概念は、香水の世界でも打ち破られている。ジェンダーの垣根を軽やかに飛び越える、多彩な香りが次々と誕生。特に、進化したメンズフレグランスに注目だ
甘くまろやかに進化する、ゲームチェンジャーが続々 ーYUKIRINさん
「最近は、メンズが自分の香りの好みに正直になったと思います。たとえば、フローラル系が男性に売れていたり、逆にシャープでピリッとしたフレグランスが女性に売れているという話も聞きますね。その背景には、ブランドの打ち出す世界観への共感から、購入する人が増えていることがあると思います。たとえば音楽がテーマになっていたり、ストーリーが込められていたり。ニッチフレグランスを発端に、香水は芸術化。アート作品に性別がないのと同じように、誰もが手に入れたいものとして位置づけられるようになりました。
そんな中、メンズフレグランスのトレンドにも、変化が。顕著なのが、男性的なパフュームの象徴とされた、フゼアノートです。爽やかなハーバル調が印象的ですが、それが柔らかくなった"モダンフゼア"が新しい。そもそもフゼアが生まれたきっかけが、19世紀に出たウビガンの『フジェール ロワイヤル』。発売当時のものは存在しないのですが、近年リニューアルして登場しました。フレッシュながらまろやかさもあり、まさに"モダンフゼア"と言うべき、現代的な香りですね。新作も、甘さや華やかさを取り入れたものが多いです。
香水は、他人への自己演出を飛び越えて、自分の内なる個性やアイデンティティに向き合うための存在に。フェミニニティを解放したい日もあれば、マスキュリニティに惹かれる日もあります。心の声に耳を傾けて、自分の一本を探してみたいですね」(YUKIRINさん)
(10)GIVENCHY
甘く爽やかな水仙とスモーキーなコーヒーが重なり、性別を問わない多面性を見せる。メンズ香水の新境地を切り開いた。
「ジェントルマン オーデパルファム ソサイエティ」(200㎖・3月1日発売)¥25,960/パルファム ジバンシイ[LVMHフレグランスブランズ]
(11)MOLTON BROWN
ミントとバジルに、クリーミーなナツメグが調和し、ぬくもりを残す。まさにモダンフゼアというべき、爽やかでセンシュアルな魅力。
「ワイルドミント&ラバンジン オードパルファン」(100㎖)¥22,000/モルトンブラウンジャパン
(12)Houbigant
エレガントで高貴な印象を保ちながら、現代的な解釈で調香した。ラベンダー、ベルガモットやハーブに幕を開け、ゼラニウムやアンバーが豊かに香る。
「フジェール ロワイヤル」(100㎖)¥26,400/NOSE SHOP(ウビガン)