初めておフランスはパリを訪れたのが、70年代の冬。小娘だった私には、グレイッシュな街並を歩くマダムたちが着ているベージュのコートがとてもシックに思え、大人の魅力とはこういうものかと感じ入った。特別に凝ったデザインではなくて、ベーシックで仕立ての良いベージュのコート。そんなコートが似合うようになったら、ホンモノの大人の女性。ずっとそんなイメージをベージュのコートに対して抱いていた私は、40歳になってから初めてMAX MARAのベージュのコートを手に入れたのだった。
しっかし、ベージュという色は、日本人にはなかなかに難しい色だ。ましてシンプルなロングコートとなると、顔つき、背丈、肌の色など、ハードルは高い。ケイト・ブランシェットやレイチェル・ワイズあたりがベージュのコートが最高に似合うセレブか。そのコートを一枚羽織っただけで気品にあふれ、ごちゃごちゃとデザインしまくりのコートがなんだかとても子どもっぽく思えてくる。
なんてことをコートの季節に考えていたら、ごめん、リリー・コリンズのあまりイケてないベージュのコート姿が目にとまった。空港でパパラッチされた移動中のラフな姿とはいえ、小柄なリリーにその素敵なコートはデカすぎて、まるでぶかぶかサイズのホテルのバスローブをひっかけたような感じになってしまっていた。足元のスニーカーも上背があれば、かっこうがついたかもしれない。だが、彼女のコートは無残にも足首まで届いていたのだ。私は改めて、ベージュのコートの難しさを痛感した。あのとろけるようなピュアカシミアのコートの肌触りと着心地は永遠の憧れだが……。