まだオスカー受賞者ではなかったのがちょっと不思議な演技派俳優のゲイリー・オールドマンが、ついに『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』で本年度のゴールデン・グローブ賞の主演男優賞を受賞した。今年のショーレースをリードする彼が、アカデミー賞の主演男優賞を獲得するのも確実視されている。『シド・アンド・ナンシー』(1986)でパンクバンド、セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスを演じて注目されたオールドマンが、英国の英雄政治家のチャーチルを演じてオスカー俳優になろうとしているとは感慨深いものがある。
ゴールデン・グローブ賞の授賞式に居合わせた私から見ても、オールドマンが受賞の瞬間からスピーチに至るまで、ものすごく緊張しているのが見てとれた。あれほどの堂々たる演技力を持ってしても、素の人間性は普通の人と同じように緊張するんだなぁと、まあ、当たり前といっちゃあ当たり前のことを感じた次第。オールドマンの傍らには、白髪まじりの聡明そうな女性が寄り添い祝福のキスをしていたが、彼女はなんと彼の5人目の妻でアートキュレーターのジゼル・シュミットだった。オールドマンは『ウィンストン・チャーチル〜』の撮影時に、あの肥えた特殊メイクのチャーチルのままで彼女にプロポーズしたいきさつがある。
若きユマ・サーマンやイザベラ・ロッセリーニなどの美人女優と浮き名を流し、彼の才能にころりとなった女性たちと結婚と離婚を繰り返し、アルコール依存症にもなったことがあるオールドマンが、今59歳になって熟年結婚を果たし、円熟味のある演技で充実の役者人生を歩んでいる。57歳になってもうすぐ5人の父親になるヒュー・グラントを見てもそう感じるが、若き日々になんだかんだあった彼らの演技が、引き出しを一杯にした後に、そこからじっくりと人間の面白味を見せてくれるような存在感を醸し出していて、いや〜、はっきりいって若いときよりカッコいいです!