ヨルゴス・ランティモス監督(『ロブスター』、『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』)の新作『女王陛下のお気に入り』(2019年2/15公開)が面白い!カメラワークや音響、衣装、どれをとっても野心にあふれた意欲作。独特なユーモアも持って18世紀の宮廷の女たちの人間模様を描き、同時に切なさも残す。すでにベネチア国際映画祭では銀獅子賞とオリヴィア・コールマンが女優賞を受賞しているが、今後の賞レースに絡んでくるのは間違いない作品だ。
私が俄然、注目したのは作中でアン女王を演じオリヴィア・コールマンという実力派のおばちゃん女優だ。妊婦の元M・I・6の諜報員(『ナイト・マネジャー』)からエリザベス2世(『ザ・クラウン』)まで、リアルに演じる44歳の演技幅の広さよ。今作『女王陛下のお気に入り』では、わがままで素っ頓狂で病弱というアン女王を、なんというか自身をさらして役に没頭した。目の下のクマも、胴周りの3段腹も、頭のてっぺんから出したような怒鳴り声も、全身全霊でさらけ出し、アン女王になりきった。面白い!その演技が面白くて、しかもアン女王の孤独を思いしんみりともさせる。うまいね〜。
オリヴィア・コールマンはこの演技で先日の英国インディペンデント映画祭(BIFA)で主演女優賞を受賞した。黒のロングドレスを着たコールマンは、ハイヒールが耐えられず、共演のエマ・ストーンやランティモス監督とのフォトコールでいきなりハダシになった。手には共演して助演女優賞を受賞したが欠席したレイチェル・ワイズの顔写真を抱えている。優しくておもろいおばちゃん女優だ。イギリス人の女優は歳をとっても整形せずに現役で主役を張るヘレン・ミレンやシャーロット・ランプリングなどの熟年の演技派女優の宝庫だが、オリヴィア・コールマンには、彼女たちのようなスカシはない。おばちゃんの親しみやすさと、どんな役でも演じ分けるその実力でこれからもずっと活躍し続けるだろう。