[vol.87] 私のヒョウ柄は、そこらの流行のヒョウ柄とは別次元なのよ !と、大女優カトリーヌ・ドヌーヴ様は全身で演じた。

是枝裕和監督の初の国際共同製作作品『真実』を観て、今さらながら“大女優”と冠せずにはいられないカトリーヌ・ドヌーヴのゆるぎない貫禄を再確認した。なんといっても印象的なのは、ヒョウ柄のコートを着たドヌーヴ様。ちょいと犬の散歩に行くのにも、ヒョウ柄のコートだ。おまけに靴までロジェ・ヴィヴィエのヒョウ柄で、なんというか全身から彼女の押しの強さがグイグイ伝わってくる。その迫力において、「ヒョウ柄を着せたら世界一」の大女優の様相であった。

これでもかとヒョウ柄で攻めるドヌーヴだが、彼女が着ると、昨今の流行のヒョウ柄とは別次元のものであるのに気づかされる。かっこいいとか、おしゃれ、とかの軽いノリではなくて、それはゴージャスな昔ながらの女優が着るコートなのだ。たとえフェイクファーでも、ドヌーヴが着れば本物に見える。真っ赤なマニキュアの指先にはさんだタバコと相まって、がっつりと型にはまった昔ながらの大女優。この古くささが、実に貴重。だって、こんないかにもな雰囲気の現役女優が今どきいますか?

いくつになっても毛量豊富な金髪、アイメイクは寝起きだろうが、パジャマだろうがいつでもばっちり。でっかい宝石のついた指輪や、おおぶりのピアスも大好き。ドヌーヴの凄さは、古くささの型を身につけていながら、今の時代の新しい映画にも貪欲に食らいつき、わがままであってもドヌーヴ様ならチャーミング(ここがとっても大事なとこ)と思わせるある種ユーモアのセンスを持ち合わせているところ。憎めない大物女優なのだ。だから、普通ならただのオールドファッションに見える全身ヒョウ柄もなんかおかしくて、犬とそのかっこうで散歩していたりすると一瞬かわいく見えもするのだ。あの肉厚な体にヒョウ柄コートを着て、道ばたの石っころを蹴る動作など、ちょっぴりお茶目な大女優。彼女がこういう計算も出来るところを、私は映画『真実』の中に見出していた。

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イラストレーター&エッセイスト 石川三千花

映画、ファッションを独自の視点からイラスト+エッセイで斬る!著書に『石川三千花の勝手にシネマ』、『勝手にオスカー』など。

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