長い年月、映画を観続けていると、消えていく役者もいればずっとスターのままでいる役者もいることに気がつく。今年のアカデミー賞で助演女優賞に輝いたローラ・ダーンは、53歳になった今、どんな役柄にでも幅広く適応できる演技力を活かして引っぱりだこだ。いつでも主役級ではないけれど、彼女が脇にいてこそ、作品の完成度やバランスの向上は確実にアップする信頼性を持った俳優なのだ。
思えば、デヴィッド・リンチ監督の『ブルーベルベット』(86)や『ワイルド・アット・ハート』(90)で観た20歳前後の若いローラ・ダーンの印象は、最初から強烈だった。細くてひょろ長いキャラクターのオリーブような体と、輪ゴムのようにグニャグニャと動く口をした面白い顔。だが、続く『ランブリング・ローズ』(91)では、性欲過多なニンフォマニアという病気の家政婦役で、難しい役どころを無垢な人柄として演じ、アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされた実力派。それからずっと、多少の紆余曲折はあったものの映画にテレビドラマに出演し続けて、クセのあるキャラクターから聡明な母親役まで、熟年の女性で重要な役といえば任せて安心ローラ・ダーン、みたいな地位にいるオールマイティの役者になっていたのだ。
ローラ・ダーンにオスカー女優という最高の栄誉をもたらした作品『マリッジ・ストーリー』を観て、若干の嫌悪感を覚えたのは、セレブたちの離婚訴訟を百戦錬磨で勝ちとる、いかにもなLAの凄腕弁護士に扮した彼女の、リアルな迫力だ。弁護士でその格好?としばし驚くケバいメイクアップと露出多めのセクシーファッション。髪の毛はロングでサラツヤだけど、顔には年相応のシワが刻まれていて、その顔が一層の迫力になっているのだ。これでまくし立てられては勝ち目がない、と思わせる怖い女性弁護士。味方につければ安心だが決して敵にはしたくない。そういう役柄の本質を体丸ごと使って表現する彼女は、その顔に刻まれたシワさえも演技上の味方につける。人間ドラマを真摯に描きたい監督が彼女を使いたいのは当然だろう。続け、メリル・ストリープへの道!