ソフィア・コッポラ監督の最新作『オン・ザ・ロック』(10/2公開)で、いくつになっても、すっとぼけていて憎めないキャラが持ち味のビル・マーレイの健在ぶりを堪能した。今年で70歳になるマーレイだが、いや〜、老いてますますのチャーミング。そのチャーミングさというのが、彼の場合ひとひねりあって、ちょいワルでいたずら好きで、そのしゃべりは皮肉なユーモアがあり一筋縄ではいかないのだ。それであのキューピーをシワクチャにしたような愛嬌のある顔ね。髪の毛は、ジャック・ニコルソンといい勝負の生え際。まあ味のある役者だから、気の利いた監督はみーんなマーレイを何回も使いたくなる。ウェス・アンダーソン、ジム・ジャームッシュ、今作のソフィア・コッポラもマーレイ起用の常連監督だ。
『オン・ザ・ロック』でのマーレイの役柄は、遊び人ふうでお茶目な父親だ。彼の子持ちの娘(ラシダ・ジョーンズ)の夫が浮気をしているらしいというので、父娘が真相を突き止めるために奮闘する。プレイボーイな父親のペースに乗って、ニューヨークのおしゃれスポットに繰り出し、夜の街を追跡ドライブする2人。娘と行動するのが嬉しくて堪らなそうな父親と、母親になって夫との関係や物書きの仕事に行き詰まる娘、ニューヨークという街のエネルギーを愛する人々。コメディータッチで展開するエピソードに、脚本も手掛けた49歳のソフィア・コッポラの作家的な心情が重なる。
この物語の父親には、ビル・マーレイのように常識にとらわれず、飄々と自由気ままに、だけど人に温もりを与えるような人柄を出せる役者が必要だった。キマリ過ぎないおしゃれ心を出せるところも貴重だ(ウェス・アンダーソン監督の『ライフ・アクアティック』で真っ赤なニット帽を被ったマリンルックがとても似合って素敵だった)。本作でも、シアサッカーのブルーのストライプジャケットの襟に、さりげないブルーの花のブローチを付けていたりして、小技が光っていた。唯一無二で通好みの俳優、ビル・マーレイなのだった。